「と言う訳で、これより皆さんには雄真くんを相手に練習してもらいま〜す。」 日曜日。カフェテリア『Oasis』。 本来ならばお休みである其処には、何故かたくさんの女の子達と、 俺……小日向雄真が居た。 「にしてもかーさん……幾ら『Oasis誕生日イベント』で、急遽人手が必要とは言え……  ほんとに手当たり次第声掛けたんだな。」 「だってだって〜、みんなすっごく可愛いんだもん〜。」 いやまぁ、其処は否定しない……と言うか出来ないけどさ。 「覚悟しなさい、春姫。アタシがみっちりと仕込んであげるから!」 「あ、あはは……お手柔らかにね、杏璃ちゃん……。」 2−H、そして学園のアイドルである神坂春姫。 そのライバル(自称)であり『Oasis』で人気のウェイトレス、柊杏璃。 「……ふふ、皆さん元気で何よりです。」 占いスペシャリスト、4次元エプロン所持者の謎のお人、高峰小雪。 「伊吹ちゃん、可愛いです〜!」 「よ、よせすもも!だから纏わりつくな抱きつくな頬擦りするなっ!?」 義理の妹である小日向すもも。 色々あったけど、今はのんびりと学園生活を送っている式守伊吹。 「……。」 そして伊吹の従者であり、恋のライバル(伊吹談)である上条沙耶。 「確かに、みんな可愛らしい。それは決して否定出来ない。  ……だけど、どうしてみんなして魔法服だったりコスプレだったりなんだっ!?」 「だって、その方が可愛いでしょ?」 「だからって、それで接客するのかよ!?」 「大丈夫ですよ。魔法服に見えますけど……実は魔法服ですから。」 「何が大丈夫なのかさっぱりです小雪さん!  ……まぁ、魔法服は杏璃の例もあるから許容範囲として。」 そこで、俺はすもも達の方を見る。 「……伊吹、その格好は何だ?」 「わ、私とて好きでこの格好をしている訳では無い!  ただ、すももがどうしてもこの格好で無くては駄目だと……。」 そう言う伊吹の格好は、ウサミミ+巫女。 いつぞやのプリクラでの格好である。 「だから、すもももメイド服って訳か……。」 「はい!本当は伊吹ちゃんとお揃いが良かったんですけど、残念ながら衣装が  一着しか無くて……。」 「…いや、まぁ何と言うか……。」 伊吹にその格好で接客させる気なのかすもも?あとかーさん? いろんな意味でどうかと思うぞ…。 「…あの、小日向様……。」 「えーと……何故にそんな格好なのか、一応聞いてもいいかな、上条さん?」 何故か、上条さんはバニーガールだった。 「その……『私だけこのような格好は嫌だ!』と、伊吹様に言われまして……。」 「つまりは巻き添えか……。」 「……やはり、似合わないでしょうか?」 「いや、それは……。」 大和撫子である上条さんのバニーガール。 純粋に可愛いと思うし、日頃とのギャップがまた……。 「……いいと思うよ。」 「あ、ありがとうございます…。」 頬を赤く染め、嬉しそうに微笑む上条さん。 「ただ、この格好の事は…信哉には?」 「…兄が、この事を知ったらどうされると思いますか?」 「………木刀が物凄い勢いで振り回される事になるだろうな。」 うわ、洒落にならないなそれ。 「かーさん……今日はともかく、本番は普通の格好じゃ無いと駄目。」 「え〜…。」 「駄目なものは駄目!」 ホントに責任者ですか、かーさん…。 「以上で基本的な説明は終わり。では、早速実践に移りましょう。  ……と言う訳で、悪いお客さん役の雄真くん、よろしくねっ。」 「え?悪いお客さんなの?」 「ほら、ナンパとかしてくるお客さんとか居るじゃない?  雄真くんにはそういうお客さんを演じて貰って、みんなには軽くあしらえる様に  なって貰おうと思うのよ。」 「なるほど……。」 何だかんだ言っても、かーさんはちゃんと『Oasis』の責任者だった。 「後は、雄真くんにナンパされてみるのも面白そうかなって思って♪」 「ってかーさんも参加かよ!」 「あら、責任者として当然じゃない。うふふふふ。」 「絶対楽しみたいだけだろかーさん……。」 「じゃ、最初は春姫ちゃんから〜。」 「あの……小日向くん、お手柔らかにね。」 「あ、うん……。」 っても、一体どんな風にすりゃいいんだ? …まぁ、適当にしてみるか。 「いらっしゃいませ。ご注文をお取りしてもよろしいでしょうか?」 「うーん……そうだなぁ……。」 そう言いつつ、俺は神坂さんの顔を見つめる。 「あの……お客様?」 「……君ってのは、無しかな?」 「え?えええええっ!?」 ぼんっ。 一瞬にして、神坂さんの顔が真っ赤になる。 「あ、あああのあのお客様、そのような事はっ……!?」 「駄目かな?君程の可愛い娘なんて、そうそう居ないと思ったんだけど……。」 きゅっ。 神坂さんの手を握り、そのまま見つめる。 「あぅぅ……。」 「…ね、神坂さん?」 「……小日向、くんっ……。」 「……って、全然駄目じゃないの春姫っ!!」 「……あっ!?」 杏璃の声に、神坂さんが我に返る。 「うーん、見事にナンパされちゃったわね、春姫ちゃん。」 「あっ……ご、ごめんなさい。」 「いいのよ〜、もうすっごく可愛かったから。」 「かーさんが満足しても仕方無いだろ…。」 実は、単にみんなが慌てふためくのを楽しむだけ……って事は無いよね、かーさん? 「にしても……雄真さん、見事なナンパでしたね。」 「そ、そうですか?こんな感じかな、ってのをやってみただけなんですけど……。」 「兄さん……実はあちこちでナンパをしている、なんて事は…。」 「無い。全く無い。ハチならまだしも、俺は全然無いぞっ。」 「……ところで、何時まで手を握ったままのつもりだ、小日向雄真?」 「…はっ!?」 伊吹に指摘され、俺は慌てて握っていた神坂さんの手を放そうと――。 「…ぁ。」 きゅっ。 もう一方の神坂さんの手が、俺の手を包み込む。 「か、神坂さん?」 「……あ、ご、ごめんなさいっ…。」 そう言いつつ、神坂さんは手を離そうとはしない。 「……も、もう少しだけ、手…繋いでても、いいかな?」 「………。」 少し潤んだ瞳で、そんな事を言われて見つめられたら、断れる訳も無く。 「…あ、うん…。」 「小日向くん…。」 そして、そのまま――。 「……ええい、いい加減その手を離さぬか、神坂春姫っ!!」 「春姫、あんた美味しい所持って行きすぎよ!!」 杏璃と伊吹に止められた。 「あらあら、若いっていいわね〜…かーさん、ちょっと妬けちゃう。」 「次はあたしねっ。春姫の仇、討たせてもらうわよっ!」 「いや、なんか目的違ってないか杏璃?」 「覚悟しなさい、雄真!」 そう言って、スタンバイを終える杏璃。 その瞳は『あんたなんかには負けない』と物語っている。 …そっちがその気なら、こっちも本気で挑むぜ! ……でも、ナンパの本気って何だろう? 「いらっしゃいませ、カフェテリア『Oasis』へようこそ!  ご注文をお取りしますっ。」 「………。」 「……あの、お客様、ご注文は?」 「………。」 「お、お客様?」 俺はただ、じっと杏璃を見つめ続ける。 「あの、まだお決まりで無いようでしたら、後程……。」 「……杏璃。」 びくっ。 俺の一言に、杏璃の動きが止まる。 「………。」 「な、何よっ。何か言いなさいよ、雄真っ……。」 「………。」 「な、なんなのよ……。」 ただ見つめるだけ。 おそらく、色々な言葉で攻められると思っていたのだろう。 杏璃の動揺と緊張が見て取れる。 「……ゆ、雄真っ……。」 「………。」 よし、トドメだ。 「……可愛いよ、杏璃。」 「…っ!?」 ぷしゅー。 杏璃の顔があっと言う間に真っ赤になる。 「ゆ、雄真ぁ……。」 「杏璃……。」 「はーい、杏璃ちゃんもアウトで〜す。」 「……はっ!?」 かーさんの声で、杏璃が我に返る。 「くっ…しまった、あたしとした事が……。」 がっくりと膝をつく杏璃。 「あ、杏璃ちゃん……あまり気にしなくても…。」 「そうですよ杏璃さん。  ……それに、雄真さんに口説かれて、幸せだったのでしょう?」 「あ、あぅっ……。」 小雪さんの言葉に、更に顔を真っ赤にする杏璃。 「……小日向雄真。お主、実は物凄い女泣かせではないのか?」 「俺はかーさんの指示通りナンパする客を演じてるだけだっ!」 「そうか?……その割には、神坂春姫といい、柊杏璃といい、的確に  撃破しているではないか?」 「う……それは…。」 言われてみるとそうだが……いやいや。 これは偶然ですよ。ぐーぜん。…そう言う事にしておこう。 「ほら杏璃。今回はたまたまって事で…いつものお前なら、軽くあしらえるだろ?」 まだ床でがっくりとしている杏璃に、手を差し伸べる。 「……うん。」 「だから気にするな、な?」 「…やっぱり……雄真だからかな?」 「何が?」 「雄真だから……本気にしちゃうんだ。  見つめられると……ドキドキして、そして、凄く幸せになるの……。」 きゅ。 差し伸べた俺の手を捕まえ、杏璃はそれを自分の頬に摺り寄せる。 「ね、雄真……。」 「杏璃……。」 そして――。 「杏璃ちゃん、次は高峰先輩の番だよ?」 ぐいっ。 「は、春姫!?」 「神坂さん?」 ずるずる。 「は、春姫、引き摺らないでっ!」 「ほら、邪魔にならないように、あっちに行きましょう?  ……うふふふふふふふ。」 「な、何か物凄く怖いわよ春姫っ!?」 有無を言わさず、杏璃を引き摺っていく神坂さん。 ……文字通り引き摺って行っちゃったけど、何かあったのか? 「はぁ……雄真くんも、無意識だから困り者よね……。」 「次は、小雪さんですか……。」 「よろしくお願いしますね、雄真さん。…お手柔らかに。」 「いや、別に無茶な事をする訳では……。」 「…ちぇ。」 「何ですかその舌打ちは!?」 「……いらっしゃいませ。小雪の占い館へようこそ。」 「小雪さん、台詞違います。ウェイトレスでしょ?」 「…細かいですね、雄真さんは。」 「細かくないですから。むしろ的確な突っ込みです。」 「……タマ」 「タマちゃんも駄目です。」 「………どうぞこちらへ。メニューをお持ちします。」 「な、なんでそんなに不満そうなんですか…。」 暫くして、小雪さんがメニューを持ってくる。 「ご注文をどうぞ。」 「うーん…。」 さて、小雪さんに対してはどのように演じようか。 それを考えていた、その時。 むにゅん。 「こ、小雪さん!?」 「…はい?」 「この、背後に感じる柔らかい感触は、一体……。」 「お客様、本日のオススメはこちらの『超激辛カレー大盛り』になっております。  ……如何ですか?」 「俺の突っ込みは無視ですか!?」 むにゅむにゅ。 「を、をおお…。」 「お客様は『超激辛カレー大盛り』が食べたくな〜る、食べたくな〜る……。」 すりすり。 いつの間にか、俺の顔に小雪さんが頬擦りをしていた。 勿論、背後からのむにゅむにゅ攻撃も継続中。 「ほ〜ら、雄真さんは私と一緒にカレーが食べたくな〜る、食べたくな〜る……。」 「あ、あああ……。」 耳元で囁かれる。 ……ああ、だんだんぼんやりとしてきた。 すりすりすりすり。 「私とカレーが食べたい、私とカレーが食べたい、私が食べたい……。」 「…小雪さんとカレー、小雪さんとカレー、小雪さん……。」 むにむにむにむに。 すりすりすりすり。 「……さぁ雄真さん、ご注文は?」 「…『超激辛カレー大盛り』2つと……小雪さんを……。」 「はい、『超激辛カレー大盛り2つと、私ですね。ありがとうございます。  ……3番、オーダー入りまーす。」 「って、それじゃ駄目ですよ、小雪さぁんっ!」 「……何か、まずかったですか?」 「全然駄目ですっ!…兄さんも、目を覚まして下さいっ!!」 「…はっ!?」 すももの声に、我に返る。 俺は……一体何を? 「兄さん……エッチです不潔ですスケベですやっぱり胸が大きいのがいいんですかっ!!」 「は、はぁっ!?い、一体なんだすももっ!?」 「なんだも何もありませんっ!こ、小雪さんを注文って…どう言う事ですかっ!!」 「あ、う…?」 記憶を掘り起こしてみる。 ………。 「…いや、あれはわざとじゃ無くて、その……。」 「………。」 「………。」 「い、伊吹ちゃんっ。兄さんが、兄さんが裏切りましたよ〜。」 「ちょ、ちょっと待てすもも!」 涙目のすももが、伊吹に抱きつく。 …と言うより、むしろタックルに近い。 「えーん、伊吹ちゃん、私を慰めて下さい〜。」 「な、ちょ、こら何をするかすももっ!?」 「こうなったら…伊吹ちゃん、私と一緒に兄さんを悩殺しましょう!  そして、胸の大きさなんて関係無いと言う事を証明しましょうっ!」 「ええい、少し落ち着け……ひゃうっ!?  ど、何処を触ってるのだすももっ!?」 「あー……。」 とりあえず…暴走モードのすももと、犠牲者の伊吹は放置で。 それよりも。 「……一体どう言う事ですか小雪さん?」 「いえ、逆にこちらから攻めてみるのもアリ、なんて思いまして。  …どうでしょう?」 「う〜ん、中々斬新なアイデアね。」 「かーさんっ!」 「じょ、冗談よ雄真くん。  ……小雪ちゃん、残念ながらそれは雄真くんだけにしてね〜。」 「そうですか……分かりました。雄真さんの時にはたっぷりと……ふふふ。」 きゅぴーん。 小雪さんの瞳が怪しく輝く。 「そうですね、部室でじっくりと食べたり食べられたりなんて…。」 「…冗談も程々にして下さい。」 「……さて、本当に冗談だと思いますか、雄真さん?」 じっ。 小雪さんが俺を上目遣いで見つめる。 「…じょ、冗談ですよね?」 「………。」 「こ、小雪さん…?」 「……雄真さん。」 じっ。 「……こ、小雪さん…。」 「……雄真、さん……。」 そのまま、俺は引き寄せられるように、小雪さんの――。 がしっ。 「兄さん、次は私達ですっ。さぁ、準備して下さいっ。」 「うを!?」 ずるずる。 そのまま、俺はテーブルへと引き摺られる。 「ちょ、ちょっと待てすもも!引っ張るな!」 「知りません!大きい胸が大好きな兄さんなんて知りませんっ!!」 「い、伊吹!すももを止めてくれっ!?」 「……覚悟を決めよ。私はもう覚悟完了したぞ……。」 ずるずる。 「……もう少しだったのに。残念…。」 「…次はすもも……と、伊吹も一緒なのか?」 「はい!伊吹ちゃんと私は、いつも一緒なのです。」 「べ、別に私は別々でも構わぬのだが……すももがどうしても、と言うのでな。」 「しかし……メイドとウサミミ巫女にオーダー聞かれるなんて、初めてだな。」 「そうですか?最近はメイドさんのお店が多くあると聞きましたけど……。」 「それは、あるだろうけどな……。」 そう言いつつ、俺は伊吹の方を見る。 ……ウサミミ巫女のお店なんて聞いた事無いぞ。 「な、なんだ?私の顔に何かついているか?」 「いや、そう言う訳じゃ無いんだけどな。」 「いらっしゃいませ。お席へご案内致します。」 「い、いらっしゃいませ……。」 はきはきとしたすももと、まだ照れのある伊吹。 すももは大丈夫そうだから……伊吹を攻撃してみるか。 「ねえ、君。この後暇かな?」 「な、なななななっ!?」 「暇だったら、一緒に遊ばない?」 「え、いや、その……。」 思いっきり動揺する伊吹。 ……なんか面白い。もう少し苛めてみよう。 「…俺、君みたいな可愛い娘がタイプなんだ。」 「そ、そんな事を言っても騙されぬぞ、小日向雄真!」 「そんな事言わないでさ。…それとも、俺じゃ駄目かな?」 「馬鹿な!お主に誘われて嬉しい事はあれど、駄目なんて事は決して無い!!」 くわ、と目を見開き、伊吹が宣言する。 ……でもな。 「伊吹ちゃん…思いっきりナンパに引っかかってるよ?」 「し、しまった…。」 よろよろと後ずさる伊吹。 「おのれ…謀ったな、小日向雄真!!」 「いや、謀ったな、と言われても……ナンパするのが今回の俺の役割だし。  ……それに、可愛いと思うのは嘘じゃ無いぞ?」 「…そ、そうか…。」 そのまま、伊吹は顔を真っ赤にして俯いてしまう。 「あの、兄さん?」 「…お、そうだった。」 伊吹もだが、すももの方も相手しなければ。 「ご注文はお決まりですか?」 「アイスティーとミルクセーキとメロンソーダとフライドポテト二つとミートソーススパゲティ。」 「……え?ええ?」 「だから、ミルクセーキとミートソーススパゲティとフライドポテト二つとアイスティーとメロンソーダ。」 「…え、えっと…。」 突然の、しかも大量の注文に、すももが混乱する。 ふっふっふ、ナンパばかりが問題では無いのだよ、すもも。 「あ、あわわわわ……。」 「…ふ、勝ったな。」 パニック状態に陥ったすももを前にして、勝利を確信する。 ……だが。 「落ち着け、すもも。」 「い、伊吹ちゃん?」 「アイスティー、ミルクセーキ、メロンソーダ、フライドポテト二つ、ミートソーススパゲティ。  以上で間違い無いな、小日向雄真?」 「…くっ。」 いつの間にかすももの横に居た伊吹が、俺のとっさの注文を完璧に復唱する。 「……ああ、間違いない。」 「ふむ、了解した。  ……3番、オーダーが入るぞ。」 「はーい、すももちゃんと伊吹ちゃん、合格でーす。」 「や、やりました!やりましたよ伊吹ちゃん!!」 「だ、だからすぐに引っ付くのはやめよ、すもも……。」 再びすももタイフーンに巻き込まれる伊吹。 ま、大分見慣れてきた光景だけど。 「しかし、伊吹は記憶力いいなぁ……。」 「…伊吹様は、大抵の事でしたら一瞬で記憶出来るお方ですので……。」 「そうなの、上条さん?」 「はい。記憶術、みたいなものでしょうか。」 「そうか……まぁ、落ち着いて接客できるすももと、オーダーに関しては完璧の伊吹。  二人一緒なら、ばっちりって訳だ。」 「はい……其処だけならば、完璧なのですが……。」 そう言いつつ、上条さんが二人を見つめる。 「ふふふー、伊吹ちゃん可愛いですラブです好き好きです〜。」 「ら、ラブ!?わ、私はそちらの趣味は無いぞすももっ。」 相変わらずすももタイフーンは勢力を維持していた。 「……まぁ、かーさんが上手く扱ってくれる事を祈ろう。」 「…でも、伊吹様も本当は嫌がってないと思いますから。」 「そうだな。…最近は、伊吹も明るくなったし。」 「はい。……自然に笑える伊吹様を見る事が出来て、私も幸せです。」 伊吹を見つめ、微笑む上条さん。 その目は、本当に嬉しそうだった。 「……はっ!」 「ど、どうしたすもも?」 突然動きの止まったすももに、伊吹が声を掛ける。 「…わ、忘れてました!私達、兄さんを悩殺するのが目的だったのに!!」 「いやそれ、今回の目的と全然違うだろ!」 思わず突っ込みを入れてしまった。 「待てすもも。私達、と言うのは…私も数に含まれておるのか?」 「当然です。私と伊吹ちゃんで、兄さんをメロメロにするんです。  おっきな胸を見ても全く反応しないぐらいまでに、メロメロに!」 「……すもも、お前は兄をどんな目で見ているんだ?」 と言うか、その発言は激しく危険だから。 …後、自分達に胸が無いと言うのを主張している発言だぞ。 「上条さんも、勿論私達の味方ですよね?」 「わ、私ですか!?」 突然自分の所に話が飛んできて、上条さんが慌てる。 「ふむ……無論、味方してくれるであろうな、沙耶?」 「そ、その……。」 「上条さんも是非!上条さんも私達と一緒ですから!」 「……あの、それはどう言う意味でしょう…?」 すももの誘いに、少し悲しそうに問いかける上条さん。 ……ちらり、と上条さんを見る。 「…小日向様?」 同じように、すももと伊吹を見る。 「…兄さん?」 「…小日向雄真?」 そして、ちょっと離れた所に居る3人を見る。 「…小日向くん?」 「…雄真?」 「…雄真さん?」 ……確かに、上条さんはすももグループの方かもしれない。 すももと然程変わらないように見えるし。 「……小日向様、今何かとても失礼な事を考えられませんでしたか?」 上条さんが涙目で睨んできた。と言っても、やっぱり可愛いんだけど。 「…ごめんなさい。」 「さて、最後は上条さんか……。」 「は、はい…。」 「…真面目な話、大丈夫?」 「が、頑張ります。伊吹様のお手伝いをする為にも。」 「でも…無理はしないでね。」 「…ありがとうございます。」 「い、いらっしゃいませっ!?カフェテリア、『Oasis』へようこそっ!?」 「……。」 最初から、すでに上条さんは声が上ずっていた。 …だ、大丈夫かな…。 「こ、こちらのテーブルへどうぞっ。」 「う、うん…。」 とりあえず、指定されたテーブルに座る。 「ご、ご注文を」 ばしゃっ。 「うをっ!?」 上条さんの手が、置いてあったコップに当たって、中の水が零れる。 そして、それがちょうど俺のズボンにかかってしまった。 「す、すみません小日向様っ!?すぐにお拭き致しますっ!!」 近くのテーブルにあったナプキンを掴み取り、膝立ちで俺のズボンを拭き始める上条さん。 「……んっ…んっ…。」 ごしごし。 「上条さん、別に水だし、大した事ないからさ…。」 「なりませんっ。風邪でも引いたらどうされるのですか!」 「いや、そんなに濡れた訳じゃ無いし……。」 ごしごし。 「…ふっ……んんっ……。」 「………。」 一生懸命になって、ズボンの内股部分を拭き続けてくれる上条さん。 それだけに……こう、実は下半身が大変な事態になりそうだと、言い出せない。 「んっ……んんっ……。」 「……う、うぅ。」 ごしごし。 …いかん。このままだと上条さんにばれてしまうかもしれない。 とりあえず、上条さんに拭くのを止めてもらおう。 「あの、かみじょ……っ!?」 上条さんの方を見た瞬間、言おうとしていた言葉が止まってしまった。 「……もう、少し……。」 上条さんのバニーガールは、どうやら少し寸法が合っていなかったらしく。 …上から覗き込むと、胸の部分が見える状態になっていた。 そして、上条さんは拭く事に専念している為、それに気づいていない。 「……んっ、んっ……。」 ば、バニーガールだから下着つけてないよな。 ……だから、胸がよく見える訳で。 「ん、しょ……。」 ごしごし。 ぴこぴこ。 ぷるぷる。 上条さんが拭くのに対応して、頭のウサミミもぴこぴこと揺れて。 そして、上条さんの胸もぷるぷると震える。 ごしごし。 ぴこぴこ。 ぷるぷる。 ごしごし。 ぴこぴこ。 ぷるぷる。 「……これで、大体は拭き終わり……?」 立ち上がろうとした上条さんの視線が、とある一点に集中する。 「………あ、あの、小日向、様っ……!?」 「え、あ、うう、その……。」 それは、自己主張されている俺の一部分な訳で。 「………っ。」 ぼんっ。 どういう状態なのか、という事に気づいた瞬間、上条さんの顔が真っ赤に染まる。 「あ、あの、ご、ごめん!」 「い、いえ、小日向様も殿方ですから、そう言う状態になると言うのは仕方が無いと思いますっ。」 「いやでも、上条さんは真剣にやってるのに、上条さんを見てこんななっちゃって……。」 「……え?私を見て…ですか?」 顔を逸らしていた上条さんが、俺の方を見る。 まだ、顔は真っ赤だけど。 「ご、ご冗談を…私では、そのような事には…。」 「い、いや、冗談じゃ無くて……上条さんの姿を見てて…こうなっちゃったんだけど。  ……って、俺は何馬鹿な事を言ってるんだ。」 「そ、そうなのですか?私を見て、と言う事は……小日向様は、私に魅力を感じて下さったと…?」 「あ、その……うん。」 「……う、嬉しいです。他の方々は魅力的な方ばかりですから、私なんて気にすらされていないと  思ってましたから……。」 にっこり。 満面の笑みを浮かべる上条さん。 「……そんな事無い。上条さんも凄く魅力的だし、凄く可愛いよ。  今微笑まれただけでも、ちょっとくらって来ちゃったし…。」 「そ、そんな、ご冗談をっ……。」 「いや、冗談じゃ無くて。お世辞抜きで、上条さんは可愛いし、綺麗だし、素敵な女性だと思うよ。」 「……あ、ありがとうございます…。」 そのまま、二人とも見つめあったまま、言葉が止まる。 でも、目を逸らす事が出来ない。 「………。」 「………。」 …いかん。なんだか頭の中が真っ白になってきた。 身体が熱くなって、ぼーっとしてきて……。 「上条さん……。」 「小日向様……。」 いつの間にか、上条さんが目を閉じてて。 上条さんの唇から目が逸らせなくなっていて。 その唇をそっと撫で、そして――。 「……雄真くん、そろそろ止めてもいいかな〜?」 「「はっ?!」」 いつの間にかかーさんが真横に。 俺と上条さんは、慌てて立ち上がる。 「か、かーさん何時の間に!?」 「あらあら、かーさんだけじゃ無くてみんな居るんだけど……それにも気づかないなんて、  雄真くんったらラブラブね〜。」 「え?」 ちらり、と振り返ってみる。 「…小日向くん、実は女誑しなのかな。」 「いや神坂さん、これは…。」 「雄真、あたしや春姫だけじゃ無く、手当たり次第に口説いてるんじゃないでしょうね?」 「違うっての。つーか杏璃や神坂さんも口説いて無い!」 「ご謙遜なさらず。雄真さんには学園ジゴロの称号を差し上げましょう。」 「そんな称号要りませんから小雪さん。」 「兄さん……つまりは女の子だったら誰でもいいんですね!えい、えいっ。」 「いたっ!痛いってすもも!ぽこぽこ叩かないでくれ!!」 「……ふんっ!ふんっ!」 「ごふっ!?い、伊吹、ピサイエは洒落抜きで痛いから止めろっ!?」 ……この後、かーさんとも実演させられたり、何処から聞いたのか準が飛び入り参加して、 その相手をやはり俺がさせられたり、様子を見に来た信哉が上条さんを見た瞬間ぶっ倒れたり。 それはそれは、大変な一日だった。 神様、確かに幸せですが、もう少し平穏無事な日々を戴けないでしょうか……?