小日向家、居間。 俺の目の前では、家に集まった女の子達がお互いを牽制すると言う、 不思議な状態になっていた。 「…お内裏様の隣に飾るのは、私のお雛様がいいよね、雄真くん?」 「雄真、あたしのがいいに決まってるわよね?」 「……雄真さん、私のじゃ駄目ですか?」 「兄さん、小日向家なんですから、勿論わたしのですよね?」 「小日向雄真、我がお雛様は本格的じゃぞ?」 「………こ、こんなのですけど、どうでしょうか?」 そして、みんながみんな、自分の所のお雛様を俺に差し出すのだ。 …無茶言うな。 「さすがにみんなの分を置くのは無理ねー。  じゃあ、何か勝負で決めるしかないわね♪」 「わね、じゃ無いよかーさん!絶対楽しもうとしてるだろ!」 「あらー、だってイベントは賑やかな方がいいじゃない?」 ……それで被害を受けるのは俺なんだよ、かーさん。 分かってる? …いや、分かってて楽しんでるんだよな、この人は。 「……む、胸とか?」 「って、それじゃ春姫が一番になるじゃないの!」 「そうです姫ちゃん!それはわたし達に対する厭味ですか!」 中々大胆な意見を述べた春姫に、杏璃とすももが喰いつく。 「べ、別に大きさだけじゃ……ほら、触り心地とか、色々あると思うし……。」 「…ふむ。神坂春姫よ、一つ聞きたいのだが…。」 「はい?」 「……それは、誰が審査するのだ?」 伊吹のもっともな突っ込み。 俺もそう思ってた。 「……や、やっぱり、雄真くん……かな?」 ちらり。 頬を染めつつ、春姫が俺を見つめる。 ……ちょっと待て。待ってくれ。 「…では、胸勝負、と言う事で。」 「って、勝手に決めないで下さい小雪さん!  と言うか、こんな勝負誰も認めませんよ!?」 「……と言う雄真さんの意見が出てますが、他の皆さんは如何ですか?」 くるり、と小雪さんがみんなを見回す。 「は、春姫がその気なら、あたしも対等の立場で勝負しないと駄目よね!  ……雄真、優しくしてね?」 「兄さん……ちょこっと小さいですけど、その分たっぷりとご奉仕します!  だから…わたしを選んで下さいね?」 「むぅ……若干不利な気もするが、仕方あるまい。  …お手柔らかにな、小日向雄真。」 「…が、頑張りますっ。」 って、みんなやる気なのかよ。 「…駄目です!認められません!却下!!」 「……いくじなし。遊園地ではたっぷり触ってたのに。」 半目で見つめ、こっそりと呟く小雪さん。 ……その件は秘密って約束したばっかりなのに、この人は。 「だーっ!何と言おうと駄目なものは駄目っ!!その案は棄却っ!」 「……私、嫌われてるのかな。」 隅っこでいじける春姫。 …学園の生徒が見たら、恐らくビックリして混乱するだろう光景だな。 「…別に嫌ってないから。ただ、流石にそれは…分かってくれるよな、春姫?」 きゅっ。 後ろから、春姫を抱きしめる。 「……ずるい。雄真くん、いつもこうやって抱きしめて何とかしようとするんだから。」 「嫌?」 「……意地悪。嫌じゃ無いの、分かってて聞いてくるんだから……。」 「……機嫌、治してくれるよな?」 「…うんっ。」 最後に強く抱きしめ、俺は春姫から離れた。 「……だから、みんなして半目で睨むのは止めろっ!」 「…では、他に代案のある方は居ませんか?」 小雪さんがみんなに問いかける。 「じゃあ、お嬢様っぽく振舞えるか…なんてどうかしら?」 「って、杏璃ちゃんは本物のお嬢様でしょ?」 即座に春姫から突っ込みが入る。 「……バレたか。」 「もう、杏璃ちゃんだって、自分に有利な条件出してるじゃない。」 「そ、そりゃあ……あたしのお雛様を飾りたいじゃない。  恋は常に戦争なのよ!」 「そうですね。如何にして他の相手より優位な立場に立てるか…恋は戦争、ですものね。ふふふ……。」 ちらり。 笑いつつ、小雪さんが俺を見つめる。 ……不幸の占いより怖い小雪さんが居る。 「じゃあ、妹勝負……。」 「…すもも様、それもご自分に有利ではありませんか?」 珍しく、上条さんから突っ込みが入る。 「……埒があかぬな。仕方が無い、ここは素直に実力行使、魔法で勝負と行こうではないか!!」 「…いいわ。その勝負、受けます!」 「すっきりしてていいわね…あたしもOKよ!」 「あらあら……年長者の実力、見せる時が来ましたね?」 「……本気で参ります。」 ごごごごごごごご。 春姫、杏璃、小雪さん、上条さん、そして伊吹。 みんなが真剣な顔をして、お互いをにらみ合う。 そして。 「……兄さん、わたし参加出来ないです……いじけちゃいます〜。」 いじいじ。 じー。 「…分かった分かった。」 ソファに座り、すももにおいでおいで、をする。 「えーん、にいさ〜んっ。」 きゅっ。 俺の胸に飛び込んで来るすもも。 「酷いです酷いですひどいです〜っ。  みんな、わたしが魔法を使えないのを知ってる筈なのに…。」 「いや、多分完璧に忘れてると思うぞアレは……。」 ごごごごごごごご。 さっきからぴくりとも動かず、お互いを牽制しあう5人。 俺達の事は、全然気づいて無い。 「…でも、今の内にたっぷりと、兄さんに甘えちゃいます。  ……嫌とは言わないですよね、兄さん?」 「嫌って言ったら本気で拗ねるだろ?」 「勿論です!じっくりたっぷりねっとり拗ねちゃいますよ?」 「……どんな脅しだそれは。」 なでなで。 すももの頭を撫でる。 「…ふにゃー……。」 すりすり。 俺の胸に擦り寄るすもも。 …猫みたいだな。 「…猫みたいと思いませんでしたか、兄さん?」 「……だから人の思考回路を読むな。」 小雪さんといい、すももといい……本当に勘弁して下さい。 「くすくす、兄さんは顔に出やすいんですよ。  それに、兄さんの妹なんですから、それぐらいすぐに分かって当然です。」 「そんなものかね……。」 そう言いつつ、すももの頭を撫で続ける。 「…にゃ♪」 「……完璧に猫になってるな。」 「にゃん♪」 すりすり。 「……ゆーうーまーくーん?」 「はっ!?」 振り返ると、いつの間にか5人の目線がこっちを向いていた。 「…どう言う事かな?」 「いや、どう言う事も何も……みんな、すももが魔法使えないの忘れてただろ。」 「「「「「あ。」」」」」 …やっぱりか。 「で、拗ねたすももを慰めてた訳だけど……。」 「……そ、そう言う事なら仕方無いわね。  …で、ごめんねすももちゃん。完璧に忘れてたわ……。」 杏璃を皮切りに、みんながすももに謝り。 「いいえ、気にしてませんから。…それに、兄さんにたっぷり甘えられましたし……。」 「「「「「………。」」」」」 ぎろり。 俺が5人に睨まれた。……何故だ? 「中々良い案が出ませんね……。」 「と言うか、みんな自分に有利な案しか出さないからだと思うんだが……。」 ちなみに、上条さんの案は野点。 直後に『沙耶は師範代の腕前を持っている』との伊吹の発言でお流れ。 …頑張って発言をした上条さんへのご褒美として、今度野点へのお誘いを受ける事になったのは まぁ許容範囲と言うか……それぐらいは許されていい気がする。上条さんだし。 小雪さんは『雄真さんを悦ばせる勝負』と激しく危険球だったので俺が却下。 みんな目が真剣だった分、余計にヤバイ。 「…素直にジャンケンでいいんじゃ無いかな?一番公平そうな気もするし。」 「……そうですね。このままだと何時まで経っても決まりそうも無いですし。」 小雪さんも頷く。 「…じゃあ、かーさんが掛け声してあげる。  ちゃんと、最初はグーだからね?」 「って、ちゃっかりいいところは持っていくなかーさん……。」 「いーじゃない。それじゃ、みんな行くわよー?  さーいしょは、ぐー。じゃーんけーん……ポンっ。」 出されたのは、グーが6つ。そして、パーが1つ。 で、結局。 「いやーん、雄真のと・な・り♪」 「……お内裏様二人が並ぶひな壇って、どうなんだ?」 いつの間にか紛れ込んでいた準の一人勝ち。 どっとはらい。