土曜日、放課後。 俺達は……桜の木の下に、ござを敷き、つまみを持ち寄り、コップを持っていた。 ぶっちゃけ……花見だ。 …ちなみに。 『あれ?一年経ったの?』とか、そんな考えはしない事。 『サザエさん時空』と言う奴を調べてみると良い。 「…では、皆さん。準備は宜しいですか?」 「はーい!」×10 メンバーはいつも通り。 「…春姫、アンタ今回は酔いすぎないように気をつけなさいよ?」 「杏璃ちゃんだって、結構酔っ払ってた癖に……。」 どっちもどっち、な神坂春姫と柊杏璃。 「えっと、これが伊吹ちゃん用おつまみセットです。じゃじゃーん!豪華13段ですよ〜。」 「おお、私の好物がこんなに……すまぬな、すもも。」 「いいんですよ、大好きな伊吹ちゃんの為です!」 相変わらずラブラブモードの小日向すももと式守伊吹。 ……でも、13段のつまみって……量考えて無いだろすもも。 「……あら、これはいい味付けですね。」 「あ、有難う御座います。でも、小雪様のに比べたらまだまだ……。」 お互いの料理を味わっている高峰小雪と上条沙耶。 って、もう食べてるのか。 「…くぅ、ようやくまともな台詞で出してもらえた。  しかも、こんな女の子達ばかりの花見で!俺は!しあわせだぁっはぶっ!?」 ごしゃっ。 「ハチ、あんまり暴れないの。」 ……まともな台詞すら喋らせてもらえないハチと、相変わらず容赦の無い準。 「…ふっふっふ、時は来たわ。音羽、あの時のリベンジ、させて貰うわよ。」 「あらあら、わたしに勝てる気で居るのかしら鈴莉ちゃ〜ん?」 ……何故か居るかーさんと御薙先生。 えーと……総勢10+俺って訳だ。 ………説明大変だぞ作者。なんとかしてくれ。 「…先に言っておくけど、酒は禁止だからな。  前回の様にならない為にも。」 先に釘を刺しておく。 ちらり。 何故かみんなが、俺から目を背ける。 「……えーと、何故にみんな目を背けるのかな?  事前に確認した時も、お酒は持って来ないって……言ってあったよな?」 「…あの、雰囲気を味わう程度のお酒ならいいんじゃないかと思って……。」 春姫が出したのはチューハイ系の甘いお酒。 しかもその大半が苺絡みと言う……春姫の好物が良く分かるチョイスだ。 「……ちなみに、杏璃ちゃんは私よりもっと持ってきてたりするんだけど。」 「は、春姫が『もうちょっと持って来た方が良いかな…?』ってメールしたんじゃない!」 「そ、そうだけど……まさか、私と同じ量より多く持ってくるなんて……。」 「あー…まぁ、春姫と杏璃は善意だから良し。」 そして、次に。 「…伊吹。その背後にある箱は何か説明してくれ。」 「発泡酒、と言われる奴だが、何か?」 「何か、じゃ無いっ!お酒は駄目だって、アレだけ言っただろう!?」 「ふっ……発泡酒はビールの紛い物。酒では無い。」 うわ、無茶苦茶言ってるよ……。 「…えーと、上条さん?」 「あ、あの、その……丁度、美味しいのが手に入りまして……。」 上条さんが持ってきていたのは清酒。しかも結構手に入りにくく、高めの奴らしい。 「もしかして……いける口?」 「…お、お恥ずかしながら。」 ……まぁ、ココまでは余り良くないけど…我慢しよう。 問題は、コレ以降だ…。 「さて……其処の馬鹿二人。」 「ば、馬鹿とは何だ!?」 「そーよ雄真!幾らなんでもハチと同じ扱いなのは酷いわっ!」 「どうでもいいわっ!  ……その持って来てるモノの名前言ってみろ。」 「ジンにテキーラ、ウォッカ、ラム、リキュール……後はまぁ色々だな。」 「大丈夫、ちゃーんとレシピも持参だから♪」 「お前ら、ココで店でも開く気かっ!?」 「だって、カクテル作る男ってモテそうじゃないか!」 「そして、雄真に愛を囁くの……いやん、駄目よ雄真、そんなに見つめたら照れちゃうわ♪」 この馬鹿共は……本格的にカクテルを作る気らしい。 …どうして、こんな部分で妙な実力を発揮するのか。 「………雄真さん。」 「…なんですか。」 「一応、突っ込み待ちですよ?」 「……突っ込みたく無いんですが……何処から出しました?そのワインの山……。」 「ふふ、お聞きになりたいですか?」 ぽんぽん。 エプロンのポケットを叩く小雪さん。 「……いえ、結構です。結構ですからとっととそのワインをしまって下さい。」 「…酷いです。折角今日の為に、あちこちから集めてきたと言うのに……。」 「って、花見の話が出たのは今日の授業終了後ですよ!?」 日頃から貯蔵しているとしか思えん……。 「………それに。」 ぴとっ。 いつの間にか、小雪さんが背後に引っ付いていて。 「…お互いに愛を囁きながら、ゆっくりと飲むワイン……きっと、特別な味がすると思いますよ?」 「……っ。」 ズルイ。 この前の一件から、更に小雪さんに逆らえなくなりつつある。 …別に、脅されたりとかは勿論無いし、責任云々は…感じてはいるけど、小雪さんとしては 気にしていないようなので、こっちも言われない限りは普段どおり振舞っている。 ただ……一回、小雪さんを全て受け入れてしまったからなのか、小雪さんの攻撃が 全てスルーと言うか、ガード不能と言うか……。 「……ちょっとだけなら、いいですよね?」 「ちょ、ちょっとだけですよ……?」 「はい、ちょっとだけです。」 にっこり。 満面の笑みを浮かべる小雪さん。 ……でも、絶対ちょっとじゃ終わらないんだろうなぁ。 「………さて。」 頭を振りつつ、俺は最後の突っ込み場所へ。 「…かーさん。そして先生。」 「なーに、雄真くん?」 「どうかしたの?」 「……お二人が持ってきたのは、ナンデスカ?」 「「スピリタス(96度)だけど、何か?」」 「何か、じゃ無い!世界一強い酒じゃ無いですか!そんなのを何本も持ってきてどうするんですか!?」 「何って……ねぇ、音羽。」 「かーさん達が飲むんだけど?」 「……保護者代表と引率ですよね?立場上。」 「「………。」」 暫く沈黙が流れ。 かーさんと先生が桜を見上げ。 無言のまま、お互いのコップにスピリタスを並々と注ぎ。 そして、すっ、と立ち上がり、コップを上に掲げ。 「「かんぱーい!!」」 「かんぱーい!」×8 「うわ無視されたっ!?」 ……駄目だ。 絶対、まともな花見になるとは思えない……。 そして、30分後。 「ゆ〜まくんっ。」 「ゆうま〜。」 「に〜さんっ。」 「だあああ、誰だこの3人を酔わせたのはっ!?」 春姫、杏璃、すももの3人が早くも泥酔状態になってしまった。 「なによぉ、アンタ、あたしと酒を飲むのが嫌だって言うの?  アンタの為に、アンタの好きそうな酒ばっかり選んで来たのよ〜?」 「いや、その心遣いは嬉しい。凄く嬉しいんだけど……。」 「…むー。」 「…むーっ。」 杏璃が俺に絡むと、春姫とすももが拗ねて。 「ほらほらゆ〜まくん、たーっぷり飲んでね?」 「だからまた零れるって春姫!?」 「だーいじょうぶ、零れた分は私が口移しで飲ませてあ・げ・るっ。」 「って、ワザと零そうとしちゃ駄目だ!?」 「うふふふふ、ゆ〜まくんとあまーいキス……楽しみだな。」 「……やっぱり春姫の方がいいんだ。…そうよね、春姫みたいに優しく無いし…。」 「……やっぱり姫ちゃんなんですね。…そうですよね、胸もちっちゃいですし…。」 春姫が飲ませようとすると、杏璃とすももがいじけて。 「に〜さん、コレ食べて下さいっ。」 「んっ……をお、相変わらずすももの料理は美味しいな。」 「ほんとですか?えへへ…に〜さんに褒められちゃいました♪」 「……って、何故にちゃっかり俺の膝の上に座る?」 「…んー、甘えたい年頃ですっ。思春期です。発情期なんですっ♪」 「いや最後のは不味いから!って、変な腰の動かし方するなっ!?」 「…ゆーうーまーくん?」 「…後で捻じ切るわよ?」 「ひぃっ!?」 すももが甘える…と言うか、明らかに怪しいお誘いをすると、春姫と杏璃が嫉妬で狂うのだ。 「……か、勘弁してくれ。」 「ちょっと杏璃ちゃん、すももちゃん!雄真くんが困ってるでしょ!」 「お酒ワザと零そうとする春姫と、発情してるすももちゃんが悪いんじゃない!」 「二人とも胸がおっきいからって、に〜さんを誘惑するのは駄目ですっ!」 わいわいがやがや。 3人が言い争っている内に、俺はこっそりと抜け出す。 …少し休憩しないと、俺が持たん……。 「…苦労しておるようだな、小日向雄真。」 「大丈夫ですか、小日向様?」 「……伊吹と、上条さんか…。」 二人を見ると、多少顔は赤いようだけど、まだまともに見える。 伊吹はともかく、上条さんは強い、と自分で言っていたから…大丈夫だろう。 「少し、こちらでゆっくりしていくといい。…飲め。」 「…ありがと。」 コップになみなみと注がれた水を貰い、一気に飲み干す。 「……っ!?」 喉が焼ける。そして熱い。 「…おお、一気か。中々やるな。」 「どうですか、お味の方は?」 「いや、飲みやすくて、もう一杯貰いたくなる……って、清酒!?」 …いかん。目の前がくらっ、と来た。 「……伊吹、発泡酒はどうした?」 「ああ、アレか。…すももが欲しいと言うので少しを残して全部渡したが、残りは全て飲んだぞ?」 「飲んだのか……って、それじゃああの3人が出来上がったのって、もしかして?」 「あの程度の量を3人で飲んであの様とは…弱いな。」 原因は目の前に居ました。 「…あの3人に酒を飲ましちゃ駄目だって。」 「だから何度も言うが、コレは酒とは言わぬ。  ……まぁ、酒の方は沙耶が振舞ったようだが。」 「…え”。」 ぎしり、と首を傾けつつ、上条さんの方を見る。 「……飲ませちゃったの?この清酒を?」 「あの、兄様が『酒はみんなで飲むものだ』って仰っていて、今までもそうして飲んでいたものですから……。」 「そう、なんだ……。」 持ってきたチューハイ+発泡酒+清酒。 そりゃあ、ああなるよな……。 「ま、まずかったでしょうか…?」 「いや、…済んだ事だし。気にしないって事で。」 どかっ、と胡坐をかく。 もうこうなったら、飲むしか無い。 「えーと、とりあえず、もう一杯貰っていいかな?」 「は、はいっ。」 とくとくとく。 「…どうぞ、小日向様。」 「ありがとう。」 上条さんから、コップを受け取る。 ひらり。 「……あ。」 そのコップの中に、桜の花びらが一枚、舞い込んできた。 「…こう言うのも風情、って言うのかな。」 「その者が思えば、それが風情となるのでは無いか?  そもそも、酒の入る場所でそれを難しく考えるのも馬鹿らしかろう。」 「……それもそうか。」 伊吹の台詞に納得し、花びらと一緒に飲み干す。 「…うぁ、やっぱりきつい…。」 「だ、大丈夫ですか?」 「うん、なんとか……。」 「酔いつぶれても介抱はしてやるから安心しろ。  ……ふむ、むしろ酔い潰してしまえば、その後はこちらの展開通りに事を進める事が可能か…。」 ブツブツと呟き始める伊吹。 …何か嫌な予感がする。撤退しよう。そうしよう。 「と、とりあえずハチ達の様子も見てこようかな、うん。」 「いらっしゃ〜い。バー『準にゃん』へようこそ♪」 「……いや、バーって。」 ハチと準が座っている所の周りには、所狭しと並べられたビン。 …マジでカクテルを作ってたらしい。 「準さーん、苺のカクテルお願いしますー。」 「あたしは〜、……任せた準ちゃん!」 「む、胸の大きくなるカクテルを下さいっ!」 「は〜い♪」 「ああもう、3人とも飲みすぎ!これ以上は止めときなさい!!」 ってか、胸の大きくなるカクテルってどんなのだよ、すもも…。 「……ふむ。カミカゼを一つ頼むぞ。」 「あ、あの、アースクェイクを…。」 「やるわね上条さん……相当強いわね。」 こっちはこっちで指定して頼んでるし……。 ってか、分かる準も凄いな。 準にゃんチェック! アースクェイクは度数41度。ウォッカが50度だから、カクテルの中でもトップクラスの度数を誇る つよ〜いカクテルなのよ♪ 「…で、一体何してるんだハチ?」 「見て分からないのか?カクテル作ってるんだよ。」 シャカシャカシャカシャカ。 「…ほい、出来上がり、と。  かーみさかさーん、貴女の為のカクテル、この高溝八輔が作りましたよ〜〜〜っ!」 …不憫だ。 カクテルを作ってる最中は凄くカッコ良かったのに、この台詞で台無しだ……。 「ハチもソレを自覚すれば、彼女が出来そうなのにねぇ……。」 「…だから、人の心を読むな。」 「……で、雄真はどんなカクテルが欲しいのかしら?どんなのでも作ってあ・げ・ちゃ・う♪」 「そう言いながら抱きついてくるな。」 「そう言いつつも嬉しい癖に〜。」 ……酔っ払ってるから、振り払うのが面倒なだけだ。 多分。 「…って言われても、俺にはさっぱりわからないんだよな。  余り気にして飲んだりしないし。」 「ふぅん……。」 にやり。 「じゃあ、あたしが特別に作ってあげる♪」 「……その笑みは何だ、その笑みは。」 「気にしないの。じゃ、ちょっと待っててね。」 そう言って、準はカクテルを作り始める。 「ジンと、ドライベルモット、そしてチェリーブランデー…後は、それをかき混ぜて…っと。」 出来上がったのは、赤色が冴えるカクテル。 「おお、何か綺麗だ…。」 「んー、後は……あ、小雪さーん!」 「…はい?」 ワイングラスを手に持ったまま、小雪さんがこちらにやって来る。 「あの、目隠しってあります?」 「…は?」 いきなり何を言うのか、こいつは。 「……なるほど。」 きゅぴーん。 突然光る小雪アイ。 「…そう言う事ですか。」 「そう言う事なんですよー。」 「それならば、……とうっ。」 ぽん。 小雪さんの4次元エプロンから、目隠しが出てきた。 「はい、どうぞ。」 「有難う御座います、小雪さん。」 「いえいえ。……ごゆっくり。」 謎の台詞を残し、小雪さんは宴の中へと戻っていった。 「……で、それ何に使うんだ?」 「それは勿論、雄真につけてもらう為よ。」 「…何故に?何かの罰ゲームじゃあるまいし……。」 「………コレだけは本気でお願い。」 「…う。」 真剣な表情の準。 ……な、何だか知らないけど。 「…ちょっとだけだぞ。」 「うんっ。」 がさごそ。 当然、目の前は真っ暗になる訳で。 「…で、これとカクテルに何の関係があるんだ?」 「……。」 「……おい、準……んむっ!?」 ぐいっ。 突然、俺は引き寄せられ。 唇に、柔らかい感触が。 にゅる。 「!?」 舌が入ってきた。 そして。 「…っ!?」 何かが口の中に流し込まれる。 甘い、何かが。 「…んっ。」 「……ん。」 そして、俺の口内でその何かが、入ってきた舌でかき回される。 「………。」 ごく、ごくっ。 無意識に、飲み干していく。 飲み干すと、また甘い何かが流し込まれて。 「……ん。」 ごく…。 「…ぷはっ。」 「……んっ。」 暫くすると、ようやくソレが終わった。 「……どう、雄真?美味しかったかしら?」 「……。」 びっくりしたのと、舌の動きに気を取られてぼーっとしたのと。 そして、甘くて、喉を通ると熱い何かの感触と。 それがごっちゃになっていて、上手く言葉がまとまらず。 「………ああ。」 それだけしか言えなかった。 「…もしかして、俺に口移しで飲ませたのか?」 「うふふ…美味しかったでしょ?」 ぎゅ。 身体に抱きつかれる感触。 とりあえず、目隠しを外す。 「……この為に目隠しをさせたのか。」 「まぁ、それも一つあったんだけど……。  このカクテルの名前が、『キス・イン・ザ・ダーク』…暗闇でKISS、って事もあったから。」 「…そう言う事か。」 小雪さんはカクテルを見て、準の意図を理解したのか。 道理で小雪アイが光る訳だ……。 「…ね、雄真。……もう一杯いかが?」 「………遠慮させていただきます。」 ……癖になったら困る。 「…うわ、本当に飲んでるし。」 スピリタスのビンが、そこら中に散乱している。 そして。 「……うう。」 「って、大丈夫ですか先生!」 仰向けになって、先生が倒れていた。 「…ゆうま?」 「本当に…引率者がこんなになるまで飲んでどうするんですか……。」 「ゆうまっ。」 ぎゅ。 起こそうとした俺は、逆に先生に抱きつかれてしまった。 「うを!?」 「ゆうまー、かあさん構ってあげられなくてごめんねー。  寂しくなかった?辛くなかった?」 「…先生……。」 俺の頭を撫でながら、見つめる先生。 …うん、やっぱりこの人は俺の母さんなんだな。 「大丈夫だったよ、せんせ…いや、母さん。  母さんしかできない、大事な事があったってのは分かってたし、かーさん…音羽さんや、  すもも達のお陰で、寂しくも無かったし、辛くも無かったよ。  だから、母さん…そんなに気にしないで。」 「…ゆうまっ。」 ぎゅむっ。 「もごっ!?」 嬉しさの余りか、先生が俺の頭をぎゅっと抱きしめた。 そして…ちょうど胸に押し付けられた訳で。 「ちょ、先生…苦しいですよ!?」 「や。かあさんって呼んでくれないと許してあげないんだからっ。」 なんか、キャラが変わってる!? …完全に酔っ払いだ。 「わ、分かったから…母さん。」 「うふふ、ゆうま〜。」 「はいはい…。」 胸に押し付けるのは勘弁してくれたものの、起き上がった先生がぴったりとくっついて離れない。 これはこれで困った……。 「あらあら、鈴莉ったら雄真くんにべったりね〜。」 「かーさん…大丈夫?」 「うふふ…こう見えてもかーさん、お酒に強いのよー。」 傍から見ると、かーさんはいつもと変わらない…ように見える。 でも、アレだけスピリタスを飲んで…大丈夫なのか? 「あー、雄真くん疑ってるでしょー。」 「流石に、アレだけの量飲んでると思うと心配するよ…。」 「んふふ、じゃあ確かめさせてあげるー。」 すっ。 かーさんが、俺の手を取って。 ぺと。 「なんかどっかで見た展開だっ!?」 「どう?胸の音、いつもと変わらないでしょう?」 自分の胸に押し当てた……のはいいんだけど。 「……ふ。」 「あー!笑ったわね雄真くんっ!どーいう事よ!?」 「…やっぱり、すももと血が繋がっているんだなぁ、と思って。」 「つまりはペチャパイって言いたいのね雄真くん!酷いっ。かーさん泣いちゃうっ。」 …一応自覚はあったのか。 と言うか、俺の手を掴んで胸に押し当てたまま泣くのは止めてくれ。 俺が非常に怪しく見える。 「……ゆうまー。」 「あ、何か嫌な予感…。」 すっ。 むにっ。 「うわやっぱり!?」 「かあさんの胸の音…どう?」 ど、どうと言われても……。 「…柔らかい?」 「雄真くん、それは感触でしょー?」 「う。」 かーさんから突っ込みが入る。 「あーあ、雄真くんはかーさんの胸じゃ駄目なのねー。  そうよね、だって……雄真くんは立派な男だもんねー。」 「そうね…私の胸触っても、全然慌てないし……きっと、私より高峰さんの胸の方が…。」 「うわああああああああっ!!」 慌てて叫んで二人の声を掻き消す。 そして、周りを見回して……。 「…良かった。みんな酔っ払いで、聞いちゃいない……。」 「なーにー。雄真くんは、自分のした事に自信が無いのかー?」 「駄目よゆうまー。男でしょー?」 「…う。」 酔っ払いな二人に指摘され、ちょっと凹む。 そこに。 「あらあら、音羽さんも御薙先生も完全に出来上がってますね。」 「小雪さん……。」 「むー、敵が来たぞ鈴莉っ。」 「敵ね、音羽っ。」 がしっ。 『かーさんず』が俺を捕まえ、小雪さんを睨む。 「雄真くんは渡さないぞー。」 「ゆうまはわたしたちのだー。」 「何時の間にそんな事に…。」 「あらあら…それじゃ、コレと交換で如何ですか?」 小雪さんが差し出したのは、スピリタス2本。 「「交渉成立!」」 ひょいっ。 「って、俺はスピリタス2本分の価値か!?」 「では、雄真さんをお借りしますね?」 「さぁ音羽、今度こそ勝たせて貰うわよ!」 「んふふー、また返り討ちしちゃうぞー。」 …いい。あの二人はあのまま放置しよう。 「…この前以上の惨状ですね。」 「まぁまぁ…皆さん幸せそうですから、いいじゃありませんか?」 「……しらふに戻った時が怖いですけどね。」 茣蓙から少し離れた所。 そこにあるテーブルセットで…俺と小雪さんは、ワインを飲んでいた。 …テーブルセットは勿論、4次元エプロンから出てきたんだけどな。 「……まぁ、みんな楽しそうだから良かったかな?」 先生とかーさんは、相変わらず一騎打ち。 そして残りはひと纏まりになって、わいわいと騒いでいる。 ハチが珍しく幸せそうだが……たまにはいいか。どうせその分の不幸がそのうち訪れるだろう。 「………。」 「……先生と音羽さんの台詞、気にしていますか?」 …どうして小雪さんは、俺の考えてる事が分かったんだろう。 「急に難しい顔になりましたから、すぐに分かりましたよ。」 「…だから、人の考えに返事しないで下さい。」 「……大丈夫ですよ、雄真さん。」 きゅ。 小雪さんが、俺の手に自分の手を添える。 「雄真さんが常に真面目で、真剣に行動しておられるのは、分かってますから。」 「だけど……。」 「…後悔してますか?」 「まさか。それは絶対に無いです。」 「なら、良いじゃありませんか。  それに、相手の私が気にしないと言っているのに、雄真さんに気にされると…辛いです。」 「……ごめん、小雪さん。  そうだよな。ちゃんと考えての行動なんだ。それは変わらないんだから。」 「はい。…それでこそ、私の大好きな雄真さんです。」 ぽふ。 小雪さんが、俺にもたれかかる。 「うふふ…雄真さんと飲んだら、一気に酔ってしまいました。」 「…ワインには強いんでしょ?」 「ワインには強いですけど……雄真さんには弱いですから。」 「……またそんな事言って…。」 「じゃあ、雄真さんは私に酔わないんですか?」 じーっ。 「…参りました。小雪さんに見つめられたら、一気に酔いがまわりました。」 「はい、素直でよろしいです。」 そして、暫く二人でのんびりとした後。 「……さて。そろそろ向こうの収拾もつけてくるか。」 「もうですか?…残念。」 「…そう言わないで下さいよ。また今度、二人でゆっくりとする時間を作りますから。」 「約束ですよ?」 「はい、約束です。」 「…それじゃ、解放してあげます。」 「ありがとうございます。」 ……さて、向こうへ言って無茶言われないといいけどなぁ……。 「………本当は雄真さんを独り占めしていたかったけど……。  仕方が無いですよね、タマちゃん。」 『珍しく弱気ですな、ねぇさん?』 「…皆さん大切ですから。誰か一人が欠けても嫌です。」 『……しかし兄ちゃん、ハーレムでも作る気でっしゃろか。』 「っ!?  ハーレム……タマちゃん、それは良い案です。」 『………ね、ねぇさん?どないしました?』 「別に一人と決めるから問題なのであって、最初から複数であれば…。  一気に問題解決ですね。」 『あ、あの……小雪ねぇさん?』 「……後は、私が第一夫人に納まれば完璧ですね。……うふふふふふ。」 きゅぴーん。 『……あかん。ねぇさんが何か変な方向に走ってる気が……。』 「う〜……雄真くーん…。」 「ごめん、雄真……。」 「おいおい、大丈夫かよ……。」 大惨事となった花見の後。 俺は、未だに前後不覚の春姫と、意識は回復したけどふらふらしてる杏璃に肩を貸し、 寮の部屋へと向かっていた。 本来は先生の役目なんだろうけど……ありゃ無理だろう。 伊吹と上条さんが先生を送り届けると言う……完全に逆の状態になっている。 「しかし、すでに顔パスなのは…どうなんだ?」 「……悪い事してる訳じゃ無いんだから、気にしなけりゃいいのよ。」 「ま、そうだけど……。  っと、ベッドまで運ぼうか?」 「…先に春姫をお願い。  アタシはココで座ってるから……。」 そう言って、杏璃は自分の部屋の前に座り込んでしまった。 「うー…ふふふ。」 「って春姫、暴れちゃ駄目だって……ああもう、  ちょっと待ってろ杏璃。春姫を寝かせたらすぐ来るから。」 春姫のポケットを勝手に漁り、鍵を取り出す。 かちゃり。 「…うーん、春姫の部屋……って、そうじゃ無いだろ俺。  ベッドは…あった。」 「……うふふ、雄真くーん……。」 「ホント…幸せそうな顔して。  いったいどんな夢を見てるのやら……。」 ぽふ。 ベッドに春姫を寝かせ、上から布団を掛ける。 「…とりあえずは、コレで良し。  次は杏璃か。」 そのまま春姫の部屋を出て、鍵を掛ける。 …鍵は杏璃に渡せばいいか。 「……雄真、遅い。」 「これでも急いだんだ。勘弁してくれ。」 再び杏璃に肩を貸そうとして。 「…あれ?」 「どうした?」 「ごめん……足、力入らない…。」 「…部屋の鍵は?」 「コレ…。」 杏璃から部屋の鍵を受け取り、扉を開ける。 そして。 「よいしょ、っと。」 「ちょ、雄真っ…。」 「ん?」 「は、恥ずかしいじゃない…。」 「そんな事言ったって、動けないんだから仕方無いだろ。」 俗に言う、お姫様抱っこ。 そのまま、杏璃の部屋に入る。 「…扉閉めるぐらいは出来るだろ?俺、手が塞がってるし。」 「うん。」 かちゃり。 「……ベッドはあそこか。」 お姫様だっこのまま、ベッドまで運び。 「下ろすぞ?」 「……。」 「杏璃?」 「……ん。」 そっと、杏璃をベッドに下ろす。 「…ありがとう。」 「いやいや、悪いのは……今回は誰だろう?」 春姫…は飲みすぎただけ。 杏璃は…比較的まともだったか。 すももは……酔っ払いだったしな。 小雪さん…今回は何も策略もしてないし。 となると……。 「伊吹に上条さんにハチと準あたりか……。」 上条さんと伊吹は天然&世間知らずとしても、ハチと準は悪確定。 特にハチ。むしろハチが全部悪いって事で。 「それじゃ、ちゃんと寝てるんだぞ?」 そのまま、俺は身体を起こそうと――。 「待って!」 ぐいっ。 起こそうとした俺は、杏璃の身体の上に引き倒されていた。 「…お願い。」 「ど、どうしたんだ…?」 「……雄真。あたしの事…どう思ってる?」 「どう、って……。」 杏璃の顔を見る。 その顔は、真剣だった。 ……ならば、俺も真剣に答えなければならない。 「…好きだ。杏璃の事、大好きだ。」 「……なら。」 すっ。 杏璃の手が、俺の頬に。 「みんなの中で、誰が一番好きなの?」 「……それ、は……。」 一瞬、言葉に詰まる。 そして。 「………ごめ、んむっ!?」 「…っ。」 唇を塞がれた。柔らかく、そして少し冷たい…杏璃の唇で。 「…謝るんじゃないわよ。それとも、アンタの…雄真のその気持ちは、疚しい所があるの?」 睨まれる。 …そうだ。 これは、俺が真剣に、真面目に考えて思った事なんだから。 謝ったら、杏璃に…みんなに悪い。 「………分かった。  …俺は、みんなが好きだ。春姫、杏璃、小雪さん、すもも、伊吹…そして、上条さん。  全員が好きで、誰が一番とか……少なくとも今は、まだ考えられない。」 「……はーっ。」 …思いっきり溜め息をつかれた。 結構傷つくんですけど、杏璃さん……。 「…そんな事を真剣に言うアンタが悪いんでしょ。」 「……ついに、杏璃にまで心を読まれるようになったか。」 ……サトラレか?俺は。 「まったく、どうしてみんな、こんな…えーと、6股野郎を好きになるのかしら?」 「…その中にお前も入ってるんだけど……。」 どすっ。 「ぐふっ…。」 「…何か言ったかしら、雄真?」 利き手である左手で腹部に一発。しかも酔ってるから、手加減無し。 ……かなり効いた。 「…さて、それじゃ、本題に入りましょうか。  今ので、あたしも落ち着いたし。」 「……人を殴って落ち着くのかお前は。」 「んー?」 にっこり。 「…話を進めてくれ。」 流石にもう一発は耐えられないからな。 「それじゃ、単刀直入に聞くわ。  ……雄真、小雪さんを…抱いたわよね。」 「っ!?」 目の前が真っ白になる。 …でも、嘘は付けないし、付きたくない。 「……ああ。」 「…観覧車?」 「…その通りだ。」 「……気持ち良かった?」 「……それも答えないといけないのか?」 じろり。 ぐっ。 睨むな。 そして…握りこぶしを作るな。 「…気持ちよかった。でも、それ以上に……嬉しかったし、幸せな気持ちになれた。  自分の好きな人と、一つになれたんだからな。」 「……そっか。うん、そうよね。」 きゅ。 杏璃が、再び俺を抱き寄せる。 「……ね、雄真。」 「……本気か?」 「…まだ何も言って無いわよ。」 「『あたしも、抱いて欲しい……別に、それであたしだけを見て、なんて言わないから…。』  ………何か違うなら言ってみろ。」 「……雄真、サトリ?」 「お前が分かりやすいだけだ。」 ちゅ。 杏璃の首筋に、キスをする。 「んっ……ゆうまぁ…。」 「本当にいいのか?俺だって酒が入ってるし、お前だって酔ってる。  落ちついてから考えた方がいいんじゃ無いのか?」 「……あたし、こう言う事に臆病だから。  いつも春姫に張り合ってあんな事してるけど……一人だと、何も出来ないと思う。  それこそ……お酒とか入ってない限りは。」 「……杏璃。」 「でもね……ずっと、思ってたの。  雄真になら…ううん、雄真にだけ、抱いて欲しい、抱かれたい。  一つになりたいって……。」 抱き寄せる杏璃の手が、震えている。 酔っていても、やっぱり緊張するし、何より……不安なのだろう。 「…勿論、怖いわ。初めてだし、どうなるか分からないし……。  でもね……。」 ちゅ。 杏璃にキスをされる。 「……それでも、雄真が欲しいの。  そして、雄真にあたしを…柊杏璃を、貰って欲しい。  …お願い、雄真。」 「………。」 …酒が入っている。冷静な判断が出来るかどうか、と言われれば、否。 だけど……。 「…痛いぞ。小雪さんだって泣いたんだからな。」 「……ふん。あたしを誰だと思ってるの?」 ぎゅ。 杏璃を抱きしめる。 杏璃も、俺を抱きしめる。 「………経験済みなんだから、優しく出来るでしょ?」 「…どうだか。杏璃が可愛すぎて…自分が抑えられなくても、怒るなよ。」 「……馬鹿。でも…大好き。」 「ああ。大好きだぞ……杏璃。」 月明かりの下。 俺と杏璃は、深いキスを交わした――。 「ただいま…。」 「おかえり雄真くん。随分と遅かったわねー。」 「あー…色々あってね…。」 まぁ、本当に色々だったけどな……。 「って、かーさん…酔いは大丈夫なの?」 「だいじょーぶ。かーさん、お酒に強いのよ。」 そう言って、かーさんが俺の傍に近寄る。 「………。」 くんくん。 「…かーさん?」 「……雄真くん、お風呂に入ってらっしゃい。すももちゃんが降りてこない内に。」 「いや、入ろうとは思ってたけど……急に何故?」 そこで、かーさんはにやり、と笑い。 「ウチのじゃ無い石鹸とシャンプーのにおいがしたら、何があったか、  すぐにすももちゃんにばれちゃうわよ?」 「っ!?」 だらだらと、汗が流れる。 「……春姫ちゃんは前後不覚だったから……杏璃ちゃんかしらー?」 「うぐっ。」 汗、増加。 「…あの、かーさん……。」 「うふふふふ、今度は何をお願いしよっかなー?」 「……お風呂入って来ます……。」 ああ、また『かーさんず』に脅される……。 お風呂に入りながら、少しブルーになる俺だった。