「…本当に、いっぱい買ったな。」 「だからお母さんは、兄さんに買い物の手伝いをお願いしたんだと思いますよ。」 街の商店街。 両手に荷物を抱えた俺は、すももと一緒にお使いをしていた。 「しっかし、かーさんも人使いが荒いな。」 「駄目ですよ兄さん、そんな事言っちゃ。  日頃兄さんはぐうたらしすぎなんですから、たまには役に立って下さいっ。」 「…って、言われてもなぁ。  今日俺が寝坊したのだって、元を正せば……。」 そこで、俺はすももを見つめる。 「……な、すもも?」 「…兄さんのイジワル。」 顔を真っ赤にして、俺を睨むすもも。 まぁ、なんだ。 ……昨日はすももと一緒のお布団でした。それで分かれ。 「俺が寝ようとすると、誰かさんが寂しそうな顔をするんだもんなぁ。  それでついつい、明け方まで頑張っちゃう訳で……。」 「きゃーきゃーきゃーっ!?  そ、そんな事言わないで下さい〜っ!?」 慌てて大声で台詞を遮るすもも。 うむ、何時も通りだ。 「……そう言えば、さっき福引券を貰ってなかったか?」 商店街の真ん中に設置されている福引所を見て、思い出した。 かなり買い物をしてるから、結構挑戦出来ると思うのだが。 「えっと…4回分あります。」 「んじゃ、俺とすももで半分づつするか。」 「はい、兄さん。」 そのまま、福引所へ。 「兄さん、3等を見て下さいっ。」 「…ん?」 『3等 特大まんじゅうぬいぐるみ』 「…アレ、欲しいです〜。  ゲットして、ふにふにしたいです〜。」 「あー、お前はアレに目がないんだったな……。」 そんな事を言いながら、福引券を渡し、くじを貰う。 「…あぅ。…あぅ。………ううっ、あっさり全部ハズレでした……。」 「…ま、そんなもんだろ。」 とりあえず、適当に一枚を選んで開ける。 『3等』 「……をぉ、3等だって。」 「ほ、ホントですか兄さんっ!?」 がしっ。 「いていていていてっ!?  お、俺の腕を引きちぎる気かっ!?」 「わ、本当に3等ですっ!まんじゅうぬいぐるみゲットですよ、兄さんっ!!」 人の話を聞いちゃいないすもも。 …ああ、完全にトリップしてるな。 「ああもう、いいからとっとと商品貰って来い。」 「は、はいっ!」 とたとたとた。 慌てて、当たりくじを福引所に持っていくすもも。 ……ふぅ、これで静かにくじを見れる。 「んで、残りは…ハズレと……ん?」 『特等』 「……マジか?」 目を擦ってみたけど、やっぱり特等。 「……。」 きょろきょろ。 「…小雪さんの姿は無し。って事は、本当に当たりだな。」 ……うーん。嬉しいんだけど……なんでだろう。 こう、すっごく嫌な予感がするのは。 まるで、コレがまた騒動の始まりのような……。 ……後で思った。 実は俺、先見が出来るんじゃないかと。 「と言う訳で、『第1回クルージングペアチケット争奪ラブラブコンテスト』〜!」 「何が、と言う訳、だっ!?」 次の日の放課後。 小日向家の居間では、両手を後ろで縛られた状態で椅子に座らされている俺と、 何故かタオルで全身を隠したみんなが居た。 「つーか、いきなり捕まえて縛るってどう言う事だ!  そして、なんでお前がチケットを当てた事を知っている!?」 「んー、だって……コンテストをするって言ったら、雄真は逃げそうじゃない?」 「…う。」 俺も少しそう思った。 「それと、なんで知ってるかは……福引所に、雄真の名前が書いてあったからよ。  ……ま、それを見て、みんなに電話したんだけどね?」 「………まぁ、そこら辺りは最早突っ込まない事にしよう。  だが…。」 ちらり。 「かーさんと先生まで此処に居るのはどう言う事だっ!?」 「ま、かーさんをのけ者にするつもりなのね?  雄真くん、かーさんはそんな悪い子に育てた覚えは無いわよ〜?」 「たまには親子水入らずってのも……いいでしょ、雄真くん?」 …駄目だ。この二人は止めようが無い。 「…で、俺は何をすればいいんだ?  って言うか、何故みんなタオルを羽織ってる?」 「はいはーい、さっぱり分かって無い雄真の為に説明してあげる。  今回は豪華クルージングって事なので、みんなには水着を着て貰ってるの。  それで、今から一人ずつ発表していくから…その中から一人を、雄真が選ぶって訳。  分かった?」 「……つまり、審査委員長?」 「そう言う事。役得よね?」 くすくすと笑う準。 …そりゃまあ、役得って言ったら役得だけど。 「では、早速行ってみましょう!  最初は…春姫ちゃんっ。」 「は、はいっ。」 ぱさっ。 春姫が、タオルを外す。 「…ど、どうかな?」 紐で結ぶタイプの、ピンクのビキニ。 だが、それを春姫が身に着けているだけで、こう、なんと言うか……。 「…そ、そんなに胸が気になるの?」 「……はっ!?」 い、いかん。 ついつい、春姫の大きな胸に目が行ってしまう。 「わ、悪いっ。」 「……ううん。雄真くんだったら、気にしないよ。  逆に、その……いっぱい、見て欲しい、かも……。」 「…そ、そんなものなのか?」 「…うん。雄真くんだったら、恥ずかしくないから。」 そこで、春姫が少し頬を赤らめつつ。 「そ、それに……これ、すぐにほどけるようになってるから……。  だから……少しぐらいは、えっちな事しても……。」 「は、春姫っ!?」 「…はっ!?わ、私っ……。」 自分の発言の凄さに気づいたのか、春姫の顔が真っ赤に染まる。 「おおっと、いきなりの大胆発言!コレは雄真のえっちな心を鷲掴みか?」 「って、余計な実況するな準!」 「はーい。  それじゃ、次は杏璃ちゃんかな?」 「あ……うん。」 ぱさり。 杏璃は普通のビキニ。色はオレンジ。 ただ…杏璃の表情は冴えない。 「…どうした、杏璃?」 「……だって、春姫の後だもの。  やっぱり、見劣りしちゃうわよね……。」 そう言って、悲しそうに笑う。 「…馬鹿。そんな訳あるか。  杏璃は杏璃で、十分に魅力的だぞ。  その色も杏璃に似合ってると思うし。元気っぽくていいよな。」 「……ホント?雄真、嘘ついてない?」 じー。 「…他の事ならまだしも、自分の好きな女の子に嘘ついたりはしないぞ。」 「……ありがと、雄真。凄く嬉しい。」 にっこりと微笑む杏璃。 …ううっ、手さえ縛られてなければっ。 「……今、凄く杏璃ちゃんを抱きしめてあげて、いい子いい子ってしたいんでしょ。」 「……お前はサトリか?」 「…どうかしらね?」 …ありえる。準ならそうだと言われても疑わんぞ。 「さて、お次は3番手!小雪さん、どうぞっ。」 「……はい。」 ぱさり。 小雪さんは、黒のビキニに……何故かマントをつけていた。 「ただの水着では、面白くないと思いまして……とりあえず、マントでも。」 「とりあえずって……。」 とは言え、それがまた似合ってるから凄い。 それに……黒い水着が、小雪さんのミステリアスな部分を表している感じがする。 「…勿論、ちゃんとサプライズはご用意してますよ、雄真さん。」 「……してるんですか。」 「はい。」 そう言って、小雪さんが俺に背を向ける。 そうなると、マントしか俺には見えない訳だが……。 「……えい。」 ぺらっ。 小雪さんが、マントを捲り上げる。 「…なっ!?」 小雪さんのビキニの下は……Tバックになっていた。 可愛らしい小雪さんのお尻が、俺の目に焼き付く。 「………ビックリされましたか?」 マントを下ろし、こちらを向く小雪さん。 「…な、なんて格好してるんですかっ!?」 「雄真さんは、えっちですから。  ……こう言ったサプライズなら、大歓迎ですよね?」 くすくすと笑みを浮かべる。 「…そ、そんな事は。」 「そんな事は……なんですか?」 「……準、次だ次っ。」 「えー、ちゃんと小雪さんに答えないと駄目じゃない?」 「いいから、次っ!!」 「もう、雄真ってば強引なんだから……。  それじゃ、次は……。」 「はーい、私と伊吹ちゃんの出番ですよ〜。」 すももが前に出る。 そして、そのすももに引っ張られるように、伊吹も前に。 ぱさり。 ぱさり。 「どうですか、兄さん?伊吹ちゃんとお揃いです。」 「…ど、どうしてもすももが一緒がいい、と言うのでな。」 二人が着けていたのは花柄のビキニ、パレオ付き。 可愛い感じがとてもよく似合っている。 「うん、二人とも似合ってる。可愛い。」 「本当ですか?良かったです〜。」 「そ、そうか……。」 嬉しそうな表情を見せる二人。 ……ただ、とりあえず突っ込むとすれば。 「…ところで、今回はペアチケットなのは、知ってるよな?」 「…知ってますよ?」 「……俺が片方だとすると、すももと伊吹のどちらかしか誘えない訳だが、  それは分かってるか?」 暫くの沈黙の後。 「………どどど、どうしましょう伊吹ちゃんっ!?」 「「分かっていなかったのか!?」」 俺の伊吹の台詞がハモる。 「ううっ、折角伊吹ちゃんと夜景を見ながらラブラブな一夜を過ごす  計画まで立ててたのに、コレではそれも不可能です〜。」 「…一夜って。」 「す、すもも……。」 ちょっぴり後ずさる伊吹。その額には僅かに汗が。 「…仕方ありません。この計画はお流れです……。」 「……ま、まぁ次の機会、って事で。」 「…出来れば、次の機会は無い方が有難いのだが……。」 ……そう言っても、結局いざとなったらすももの成すがまま、なんだろうなぁ。 伊吹の事だから。 「さて、お次は沙耶ちゃんの番ね。」 「あ、あの、渡良瀬様っ……。」 「もう、恥ずかしがってたら駄目よ、沙耶ちゃん。……えいっ。」 ぱさっ。 「きゃっ!?」 準が、無理やり沙耶のタオルを取り去る。 「あ、あのっ……。」 「…スク水なんだ。」 勿論、胸に大きく『さや』と書かれているのはお約束。 「わ、渡良瀬様が、これがお勧めだと……。」 その沙耶の後ろで、俺に向かってサムズアップをする準。 ……こ、こいつは。 「こ、小日向様……如何でしょうか?」 「あ、いや……いいんじゃないかな。真面目な沙耶らしくて。」 スク水はなんと言うか……基本だしな。 「……よし、コレで全員だな。」 「…雄真くん?さり気なく、かーさん達を無視してない?」 「あら、実の母親を無視なんて……いい度胸じゃない?」 ……うう、やっぱり駄目か。 「…分かりました。見ますよ。見ればいいんでしょう……。」 「それでは続いて、小日向音羽さん、どうぞっ。」 「はーいっ。」 ぱさりっ。 準の掛け声と共に、かーさんがタオルを取る。 「じゃじゃ〜ん。どう、雄真くん?」 かーさんの格好は、白ビキニで、その上からエプロンを着けている。 「下着+エプロンで若奥様……なんちゃって♪」 「……。」 た、確かに……胸の部分とかがエプロンで隠れてて、逆にえっちな感じだ。 「……ま、雄真くんの鼻の下が伸びてるわ。」 「なっ!?」 「あ、図星だったんだ。わたしも、まだまだ現役ね〜。」 「く、くぅっ……。」 かーさんに、してやられてしまった…。 「…どう、鈴莉ちゃん?雄真くんのハートは、わたしの方に傾いてるわよ〜?」 「……それは、どうかしら?」 ぱさっ。 かーさんの言葉に対応して、先生もタオルを取る。 「…私は至って普通。やっぱりシンプルなのが一番よね。」 くるり、と一回転した後、腰に手を当てる先生。 そう言った先生の水着はセパレート。ただし、胸の下からおなかの部分までは ひし形に穴が開いていて、お腹は丸見え。 更には、背中にもV字型の切れ込みがあるので、かなり露出度は高い。 「……ほら、雄真くんだって、無言で見入ってるわよ。」 「…う。」 「うーっ、雄真くんの裏切り者っ。お小遣い抜きにしちゃうんだからっ。」 「無茶苦茶だっ!」 と言うか……二人とも、歳相応の格好をして欲しい。 確かに、見た目はかなり若いとは言え……実際は結構な歳の筈だ。 「……雄真くん?」 「……今、何を考えたのかしら?」 ごごごごごご。 「な、なんでもありませんっ!?」 ……一瞬、凄まじい殺気を感じたぞ。 「…今度こそ、全員だな。」 「ゆーうま♪」 つんつん。 何かが俺の頬を突付いた気がするけど、無視。 「…とは言え、みんなの中から選べと言われてもなぁ……。」 「……えいっ。」 ぎりぎりぎり。 「いだだだだだっ!?」 俺の腕が、本来曲がらない方向へと曲げられそうになる。 「そろそろ気づいてくれてもいいんじゃないかしら、雄真?」 「わ、分かったから手を離せ、準っ!」 ぱっ。 「まったく、最初から素直にそう言えばいいのに。」 「……何が悲しくて、男のお前の水着を見なきゃいかんのだ。」 「ふふーん。そう言ってられるのも、今だけよ。」 ぱさり。 準が、自分のタオルを取る。 「…どう?まだ男の子だって言えるかしら?」 準も、すもも達と同じようにパレオだった。 だが……何故だろう。違和感が無い。って言うか、似合ってる。 「……くっ。」 「ま、どうしてもパレオじゃ無いと駄目だけど……それ以外は、自信があるわよ?」 「お、恐ろしい奴め……。」 「ありがと、雄真。  ……で、誰を選ぶかは決まったの?」 にやり、と笑みを浮かべる準。 ……一番考えたくない事をあっさりと言いやがって。 「…ほら、みんなも期待してるみたいよ?」 ちらり。 「………。」×6 無言で、俺をじっとみつめるみんな。 …かーさんと先生は、準と同じく俺を見て楽しんでる。……やっぱり鬼だ。 「…あー、その、なんだ……。  やっぱり、えら」 「選べない、なんて言わないわよね、雄真?」 「ぐ、ぅ…。」 準に、俺の台詞を封じられた。 「雄真くんっ。」 「雄真ぁ…。」 「雄真さん。」 「兄さんっ。」 「小日向雄真…。」 「小日向様…。」 みんなが、俺を呼ぶ。 「う、ううっ……。」 ど、どうする。 誰か一人を選ぶなんて……俺には出来ない。 どうしよう…どうすればっ。 「……っ!」 …こ、コレだっ! これなら、ちゃんと『誰かを選んで』いるし、問題無い筈だ! 「……みんな。」 「っ!!」×6 みんなの動きが止まる。 俺の言葉を聞き逃さないよう、俺に集中する。 「今回、俺は――……。」 「………はー、のんびり。」 ビーチパラソルの下。 俺は、のんびりと横になっていた。 「折角海に来たってのに……それじゃ、完璧にオヤジじゃない。」 「…そう言いつつも、俺に膝枕はしてくれるんだな、杏璃。」 「……うん。雄真の寝顔、嫌いじゃ無いから。  それに……。」 すっ。 杏璃の顔が、俺のすぐ近くまで迫る。 ちょっと顔を上げれば、キスできるぐらいの僅かな距離。 だから、杏璃以外は目に入らない。 「…こうしたら、あたしだけを見てくれるから。」 「……そうだな。」 杏璃の頬に手を伸ばす。 俺のしたい事を悟ったのか、杏璃が目を閉じる。 俺も目を閉じ、そして、そのまま――。 ぴとっ。 「きゃあああっ!?」 「うをっ!?」 突然の杏璃の叫び声。 何事かと、目を開けると。 「……冷たい飲み物を持ってきたよ、雄真くん、杏璃ちゃん。」 缶ジュースを二つ持った、春姫の姿が。 「ひ、酷いじゃない、春姫!  あたしの背中に、ソレを引っ付けるなんてっ!」 「…私が飲み物を取りに行ってる間に、こっそり膝枕をしてる杏璃ちゃんは、  酷くないのかな?」 「そ、それはっ……。」 「…あー、それは俺が頼んだんだ。  杏璃は悪く無い。」 「雄真っ!?」 驚いた顔で俺を見る杏璃。 …まぁ、言い出したのは杏璃だけど、最終的には俺が頼んだんだし。 俺が悪い、って事にしとこう。 「…後で、私も膝枕してあげるね、雄真くん。」 「……強制?」 「……。」 じー。 「…是非膝枕して下さい、春姫さん。」 「はい、よろしい。」 くすくすと笑いながら、俺の横に春姫が腰を下ろす。 「ねえ春姫、他のみんなはどうしたの?」 「えっと……すももちゃんと式守さんはあそこで泳いでて、高峰先輩と上条さんは  準さんのところ。  で、先生と音羽さんは……。」 ちらり。 「……また呑み比べか。」 「…ま、まぁ……迷惑掛けてる訳じゃ無いから、いいんじゃない?」 「うーん……また先生が前後不覚にならないか、心配だけど。」 「流石に懲りてる……と、思いたいな。俺は。」 …懲りててくれ、本当に。 「あーっ!  杏璃さん、兄さんに膝枕……ずるいですっ。」 声のした方に目を向けると、腰に手を当てたすももが、目の前に立っていた。 その横には、伊吹が。 「抜け駆けとは良い度胸だな、柊杏璃!」 「ふーんだ、早いもの勝ちよっ!」 火花を散らす杏璃と伊吹。 そして。 「すももちゃん、私の次で良かったら……膝枕、する?」 「は、はい!  ありがとうございます、姫ちゃんっ。」 俺の許可も無く、勝手にすももの膝枕が確定していた。 …いやまぁ、拒否はしないけどさ。 「……そう言えば伊吹。信哉は…今何処に?」 「うむ。どうやら山脈に居るらしい。」 「………あのチケット、『豪華クルージング』、だったよな?」 「…小日向雄真よ。  信哉の方向音痴は、並大抵のものでは無いのだ。」 溜め息を付く伊吹。 「…ハチは?」 「信哉との電話の横で、元気にはしゃいでおったぞ。  …何か、地響きの様な音も聞こえていた気もするが。」 「じ、地響きって……大丈夫なのかな、信哉くん。」 「いや春姫、ハチの心配が先じゃないか?」 「大丈夫よ、だってハチだもん。」 「……身もふたも無いな、杏璃。」 結局、誰かを選べなかった俺は、咄嗟に『俺は信哉を選ぶ』と宣言したのだ。 …その後は、まぁ、なんと言うか……。 凄く、酷い目にあった。 具体的にはビサイム打撃連打とか、タマちゃん爆撃とか、すももパンチ(実際はキック)とか、 杏璃の黄金の左とか。 物理的なお仕置きが終わったと思ったら、春姫と沙耶によるお説教。 ……物理的なものよりもきつかった。 余所見をすると春姫の稲妻が落ち、下手な言葉を言うと沙耶が厳しい突っ込みを入れる。 そして、ソレを肴にして呑んでたかーさんずと準。 ……で、結局、チケット自体は信哉の手に渡り。 俺はみんなと近くの海に来る、と言う事になったのだ。 「……しかし信哉も、『八輔殿を連れて修行をしてくる』って……。  本気で伊吹の従者にしたいんだろうな。」 「…まあ、私の魔法もレジスト無しで生きているのだからな。  そう言う意味では、盾としてはもってこい、なのだろうが……。  ………性格に難がありすぎるぞ。」 ばっさりとハチを切って捨てる伊吹。 「…は、ハチさんも、おいおい治っていく……と、思うよ、伊吹ちゃん。」 「……すもも。本当にそう思うか?」 「……ごめんなさい。」 …帰ってきたら、少しだけハチに優しくしてやろう。 みんなの台詞を聞いて、そう思った。 「雄真さん。少し、よろしいですか?」 「なんですか、小雪さん?」 膝枕から起き上がり、小雪さんの声のした方を見る。 相変わらずマントを付けてる小雪さんは、何かのビンを手に持っていた。 小雪さんの後ろには、沙耶も居る。 「準さんから、肌の焼きすぎは乙女の敵だ、とお聞きしまして。  それで、コレをいただいたのですが……。」 「……ああ、日焼け止めですか。」 「はい。ですが、背中などには一人では上手く塗れませんので……。」 「………え。」 もしかして。 「申し訳ありませんが…私に、日焼け止めを塗ってください、雄真さん。  ……えいっ。」 ひょいっ。 「うをっ!?」 小雪さんが放り投げた日焼け止めのビンを、慌ててキャッチする。 「あ、危ないじゃないですか、小雪さん……って!?」 「……それじゃ、よろしくお願いしますね?」 俺がビンをキャッチしてる間に、小雪さんはマントを取り、 レジャーシートの上にうつ伏せになっていた。 ……勿論、Tバックなのは相変わらずだ。 「肌が露出している部分には全部塗った方が良い、との事でしたので……。」 「……お、お尻もですか?」 「…上の水着も外さないといけませんね。」 そう言って、水着を取り去る小雪さん。 そして、再びうつ伏せに。 「……どうぞ、雄真さん。  背中も、胸も、お尻も……優しく、塗って下さいね?」 頬を赤らめつつ、くすり、と笑う小雪さん。 俺はその魅力に、ふらふらと小雪さんの傍に行こうとして。 ぞくり。 「……小日向くん?」 「雄真…まだ、あたしの左を喰らいたいみたいね?」 「兄さんっ!」 「…今度は魔法が良いか?小日向雄真。」 修羅が四人居ました。 …うわぁ、今度こそ死んだかな? 「……そう言えば、準さんは皆さんの分の日焼け止めを持ってこられていた様ですが。」 「「「「!」」」」 小雪さんの言葉に、修羅四人の動きが止まる。 「…優しい雄真さんの事ですから、お願いすれば、きっと日焼け止めを塗るのを  お手伝いして下さるのでしょうね?」 「「「「……。」」」」 暫く、時が止まる。 そして。 「…準さん!」 「準ちゃん!」 「準さーん!」 「……準っ!」 どどどどどど。 一斉に、準の元へ駆け出して行った。 「ふふ……計画通りです。」 きゅぴーん。 海でも怪しく光る小雪アイ。 ……仕方無い。こうなったら塗るしか無いか。 「…さあ、沙耶さん。邪魔者は居なくなりましたよ?」 「し、失礼致しますっ。」 小雪さんの隣に、うつ伏せになる沙耶。 「えーと…小雪さんは兎も角、沙耶はどうやって塗れと?」 スク水だと塗りようが無いんだけど。 「流石に此処で脱げと言うのは、無理がありますから……。  際どい部分については、……雄真さんが、水着の中に手を入れて塗るしかありませんね?」 「な、なんですとっ!?」 「……あ、あの。私でしたら、平気ですのでっ……。」 健気な沙耶の台詞。 いや、だけど……。 「……早くしないと、皆さんが戻ってきてしまいます。」 「……お願い致します、小日向様っ。」 俺の方に振り向き、見つめる小雪さんと沙耶。 じーっ。 ……ああもう、だから見つめられたら逆らえないと、何度言えばいいのか。 「…初めてだから、上手く出来るかどうか分かりませんよ?」 「構いません。  ……雄真さんを誘惑出来れば、それでOKですから。」 「…そう言う事は、はっきり言わないで下さい。」 「嫌、ですか?」 「………ちょ、ちょっとだけですからね?」 「…はい。ちょっとだけ、です。」 ……結局、小雪さんと沙耶の肌の感触を堪能しただけでは済まず、 みんなとかーさんず、更には何故か準まで日焼け止めを塗る羽目になった。