「……此処は何処だ?」 元日。 俺こと小日向雄真は、見覚えの無い天井を見ながら呟いた。 「…ああ、なるほど。」 とりあえず、俺は拉致されたと言うのは分かった。 そして、そんな事を出来る人物は限られている。 更に言えば……こんな事を実際にする人物は、たった一人しか居ない。 かちゃり。 「おはようございます、雄真さん。」 「……やっぱり小雪さんでしたか。」 「はい、私です。」 さも当たり前のように答えつつ、俺の居るベッドに歩み寄ってくる小雪さん。 「……。」 「……突っ込み待ちですよ?」 「突っ込みません。絶対に突っ込みませんよ。」 その小雪さんの格好は、いつもの魔法服では無く、かと言って私服でも無く。 「むぅ……折角準さんと協力して作ったのに。」 「あ、あの馬鹿野郎……。」 ……所謂『牛娘』だったりする。勿論、首にはカウベル付き。 「駄目ですよ雄真さん、準さんを『野郎』なんて言ったら。  準さんはれっきとした『男の娘』なんですから。」 「……発音が微妙に気になりますが、突っ込みません。」 「……えっちの時は激しく突っ込んでくれるのに……。」 「うぐっ……!」 小雪さんの言葉に、思わず呻いてしまう。 毎回小雪さんの策略に掛かってる所為とは言え……嘘じゃ無いだけに 反論も出来ない…。 「と、兎も角。  ……準が俺を公園に呼び出したのも、小雪さんの策略だったんですね?」 「はい、その通りです。  後は公園に来た雄真さんに近づき……うふふ。」 ぐっ、と首を掻っ切る仕草をする小雪さん。 「……。」 「……あの、此処には是非突っ込んで欲しかったのですが。」 「いや、その……一瞬だけ本気かと……。」 「ひ、酷いです…。  幾ら私でも、大好きな雄真さんにそんな事はしませんっ。」 ぷい、とそっぽを向く小雪さん。 からん、と鳴るカウベルがちょっと間抜けだけど。 「こ、小雪さん?」 「…ぷんっ。」 「…俺が悪かったですから、許してくれませんか?」 「……とりあえず、ぎゅっ、ってしてくれたら考えます。」 じーっ。 ……。 小雪さんの上目遣いはガード不可です。 ぎゅっ。 「…ああもう、分かってるけど小雪さんに甘くしてしまう自分が嫌だ……。」 「でも……私はそんな優しい雄真さんが、大好きです♪」 ぎゅむっ。 俺が小雪さんを抱きしめ、小雪さんも俺に抱きつく。 「とは言え……いきなり拉致とかは流石に駄目ですよ、小雪さん。  次からは前もって連絡さえしてくれれば、日程を合わせますから。」 「……ドッキリサプライズイベントも、人生には必要だと思いませんか?」 「……これ以上増やされたら困ります。」 日常の小雪さんだけで通常の3倍です。 「むぅ……雄真さん、イジワルです。」 「俺は至って普通の反応をしてるだけです。」 「……まあ、その話題はとりあえず置いておきましょう。」 「置くんですか……。」 相変わらずマイペースなお人だ、小雪さんは。 まあ、もう慣れたけど。 「さて、雄真さん。  私が雄真さんに何を求めているのか……お分かりですね?」 「……分かりません。」 「……本当にですか?」 じーっ。 「っ……。」 小雪さんは、本当にずるい。 事ある毎に、そうやって俺を見つめて。 「……ああもうっ。」 ぐいっ。 どさっ。 ベッドに小雪さんを押し倒す。 「……こういう事で、いいんですか?」 「……はい。」 潤んだ瞳で、俺を見つめる小雪さん。 「自分でも我が侭で、ずるい女だと言うのは分かっています。  でも、それでも……雄真さんを求めてしまうんです。」 小雪さんの手が、ゆっくりと俺の身体を抱きしめる。 「きっと、他の皆さんにも怒られてしまうでしょうね。」 「……ある意味、いつもの小雪さんじゃないですか。  だからきっと、大丈夫ですよ。」 苦笑しつつ、俺は小雪さんの頬を撫でる。 「……それはそれで、私が何時も悪逆非道を繰り返してるみたいに  聞こえるのですが?」 「…自分の胸に聞いてみてください。」 「……こほん。それはそれで置いておきましょう。」 「またですかっ。」 「兎に角。  ……今日はいっぱい、私を可愛がって下さい。」 真っ赤な顔で呟く小雪さん。 ……ああ、駄目だ。そんな事言われたら……断れる訳が無い。 「……可愛がる、でいいんですね?」 「……出来れば、ケダモノな雄真さんで。」 「……ううっ、俺ってば新年早々なんて事を……。」 「雄真さんだって乗り気だったじゃないですか?」 帰り道。 呟く俺に、俺と腕を組んだ小雪さんが嬉しそうに問いかけてきた。 ……ちなみに、ちゃんと小雪さんには私服に着替えて貰いました。 「あれは、その……雰囲気に飲まれたと言うか……。」 「……私を背後から乱暴に犯しつつ、いっぱい胸を揉んでくれたのに。」 「うっ…。」 「『悪い事ばかりする牛は、きっちりお仕置きが必要だ』とも  言って下さいましたし。」 「うぐっ……。」 「……上の口でも下の口でも、雄真さんの新鮮なミルクをたっぷりと……。」 「ごめんなさいすみませんでした勘弁して下さい小雪さん……。」 頭の中に思い浮かぶのは、色々と無茶をする俺と。 色んな無茶を、悦びながら受け入れる小雪さんと。 小雪さんを後ろから突く度に、小雪さんの喉を犯す度に鳴るカウベルの音。 「……。」 からん。 「っ!?」 「くすくす……この音がどうかしましたか、雄真さん?」 さっきまで身に着けていたカウベルを鳴らしながら、笑みを浮かべる小雪さん。 「……心、読みましたか?」 「雄真さんの事ですから。  心を読まなくてもこれぐらいは分かりますよ。」 「……分かったなら尚更勘弁していただけると嬉しいのですが。」 「前向きに善処させていただきます。」 「…それは、考えるだけで変えるつもりは無いって事ですね?」 「……うふふ。」 こ、この人は……。 「これでまた、雄真さんを揺さぶるアイテムがひとつ増えました。」 からんからん。 「…そ、その程度ではなんともありませんよ。」 そっぽを向きつつ、俺はそう言って胸を張る。 「本当ですね?嘘は付いていませんね?」 「…ほ、本当です。」 「なら……雄真さんを求める時の合図として、これを鳴らす事にしますね。」 「……な、なんともありませんよ。」 「……。」 からん。からん。 「……っ。」 「あらあら……雄真さんの顔、あっという間に真っ赤ですよ?」 「こ、小雪さんっ!」 「ふふ……からかうのはこのぐらいにしておきます。」 駄目だ。 やっぱり、小雪さんには勝てなかった。 「でも……。」 小雪さんの顔が、俺の耳元に近づき。 「……合図は、本当ですから。」 「っ……!?」 「…今度は部室で、ですね♪」 「……し、しませんっ!」 ……とまあ、家に帰るまでずっと小雪さんにからかわれたとか、からかわれなかったとか。 「ゆ、雄真くん……どうかな?」 「……え。」 1月2日。 俺こと小日向雄真は、目の前の光景にどうリアクションしていいのか困っていた。 「そ、その……準さんが、『雄真はこういうのが好き』って言ってて……。」 此処は、寮の春姫の部屋。 電話で春姫に新年の挨拶をしたら、『会いたい』と春姫に言われて。 俺は春姫の部屋に招かれた訳なのだが……。 「あ、あの……雄真くん?」 目の前に居る春姫。 その格好は……何故か知らないけど、『牛娘』だった。勿論、首にはカウベル付き。 「…準が?」 「う、うん……。」 ……あ、あの大馬鹿野郎。 小雪さんだけで無く、春姫にまで変な事を。 「……やっぱり、変、だったかな……?」 「え?」 「だ、だって……なんか、怒ってるような……。」 「い、いや、それは別の事なんだ。春姫じゃないっ。」 悲しそうな表情を浮かべた春姫に、慌てて声を掛ける。 「大丈夫、ちゃんと似合ってるし、凄く可愛い。  ……って、コレは褒め言葉なのか?」 「…ほ、本当?」 「うん、本当。  ……そもそも、春姫自体が可愛いんだし、大抵の衣装なら可愛いと思うけど。」 「あぅ……。」 俺の言葉に、頬を真っ赤に染める春姫。 「そ、そんなに褒められたら……恥ずかしいよ……。」 むぅ……。 両手を頬に当て、照れてる春姫もやはり可愛いんだけど。 「ところで……そんな格好をしてるのは、何故なんだ?」 「……え。」 俺の言葉に、びくん、と身体を震わせる春姫。 「え、ええっと……。」 「……春姫?」 ごにょごにょと、小さい声で春姫が何かを呟く。 「…ごめん。ちょっと聞こえなかったんだけど……。」 「あの……。  ……こ、この格好をしたら……雄真くんが、可愛がってくれるって……。」 …はい? 「ちょ、ちょっと待ってくれ。  俺には、どういう事なのかさっぱり事情が……。」 ……はっ。 ま、まさか。 「……もしかして、その話も……。」 「……準さんが。」 小さく頷きながら答える春姫。 「えーと……その話、春姫は信じちゃったの?」 「だ、だって……準さんは信頼してるし……。」 そうなのだ。 割といい加減な奴に見えるかもしれないが、準は物凄く信頼されているのだ。 まあ実際、いい奴でもあるし。 ……今回は、それを見事に利用された訳だが。 「だ、だから……雄真くんが、その気になってくれるならって思って……。」 「…恥ずかしいけど、そんな格好を……?」 「……。」 こくん。 俯きつつも、春姫は小さく頷く。 「むぅ……。」 ……まあ、なんだ。 春姫の『牛娘』コスプレを見せられたら……そんな気にもなるよな。 うん、仕方が無い。 「…春姫。」 ぎゅっ。 「あっ……。」 春姫に近づき、そっと抱きしめる。 「ゆ、雄真くん……?」 「……ずるいな、春姫は。」 「…え?」 「春姫にこんな色っぽい格好されて、そんな事言われたら……。  ……嫌でも、その気になっちゃうだろ。」 ちゅ。 「んっ……。」 そっと頬に口付ける。 「…怒ってる?」 「…ちょっとだけ。  あ、それは春姫じゃなくて……春姫を騙した準にだけど。」 流石に説教だな、準は。 「じゅ、準さんは悪くないのっ。  悪いのは、雄真くんを誘惑する相談をした私だから……。」 「いや、でも……。」 「お願い、雄真くん。  準さんの事……許してあげて?」 じーっ。 「う……。」 少し涙目で俺を見つめる春姫。 「……し、仕方無いな。  春姫が其処まで言うんだったら……今回は許す事にするよ。」 「…ありがとう、雄真くんっ。」 ぎゅうっ。 「うおっ!?」 余程嬉しかったのか、春姫が俺を強く抱きしめる。 そうすれば当然……。 むにゅん。 ……春姫の大きな胸が、俺に押し当てられる訳で。 「は、春姫。少し落ち着いて……。」 「あっ……。  ご、ごめんなさい、雄真くん……。」 「いや、いいんだけど……。」 謝りつつも、春姫は相変わらず俺に抱きついたまま離れない。 それどころか。 「……。」 むにゅん。 …なんか、更に押し付けてるような。 「……っ。」 不味い。 春姫の身体を意識してしまった所為で……。 「……ぁ。」 ぴくん、と小さく身体を震わせる春姫。 そして……顔を赤らめたつつ、俺を見つめる。 「あ、あの……もしかして……。」 「……ごめん。多分、春姫の考えてる事は当たってると思う。」 大きくなってしまった俺のモノが、春姫の身体に当たっていた。 「えっと……こ、これで準備万端だから、問題無いよね!」 「……はい?」 ……何を言ってらっしゃいますか、春姫さん? 「その……え、えっちな事、しても……。」 「う……。」 「……駄目?」 じーっ。 「……駄目じゃ無いです。」 俺の心、あっさりと陥落。 「雄真くん…大好きっ……。」 「……春姫っ。」 「…どうしたの、雄真くん?」 「いや……今日の春姫、いつもより凄かったなぁって。」 事の後。 俺は腕枕をしながら、春姫と会話をしていた。 所謂、ピロートークと言うやつだ。 「そ、そんな事は無かったと思うけど……。」 「…あんなにえっちな声を上げてたのに?」 「……あぅ。」 さっきの自分を思い出したのか、春姫の顔が赤く染まる。 「で、でも……それは雄真くんが、胸をあんなに弄るから……。」 「……いつも通りだったと思うけど。」 「…雄真くんの嘘つき。  『今日の春姫は牛だから、その大きなおっぱいを可愛がってやらないと』  って言って……ずっと胸ばかり攻めてたよ?」 「うぐっ……。」 ……言われてみれば、そんな事もあったような気がする。 「は、春姫だって『牛さんだから、やっぱり胸だよね……』って言って、  俺のモノを自分から挟んだじゃないかっ。」 「ゆ、雄真くんだって『いっぱい吸ったら、ミルクが出るかな?』って、  私がいっちゃうまでずっと、胸にしゃぶり付いてたでしょっ。」 「「……。」」 暫くの沈黙の後。 「……二人とも、えっちだったかな。」 「……うん。二人とも、だね。」 くすくすと笑いながら、身体を寄せ合う。 「でも……いっぱい可愛がって貰えて、嬉しかったかな。」 からん。 春姫が自分の首に付けたカウベルを指で弄り、音を出す。 「……今度から、この格好でおねだりすればいいのかな?」 「……それはそれで俺が変な嗜好を持ってるみたいだから勘弁してくれ。」 …『牛娘』の格好をしないと興奮しないとか、色んな意味で駄目だと思う。 「なら…もうしない方がいいかな……?」 じーっ。 「……と、時々ならいいかな。」 「…うん。  じゃあ、その時は……。」 からん。 「……このカウベルで合図するね、雄真くん♪」 「……りょ、了解です。」 「…な、何とか言ったらどうなのよ、雄真っ。」 「……。」 1月3日。 俺こと小日向雄真は、実は自分は呪われているんじゃ無いのかと思い始めていた。 「……それとも、春姫とは比べ物にすらならないって事?」 じろり、と俺を睨みつけているのは杏璃。 そして此処は寮にある杏璃の部屋。 でもって……その杏璃の格好は、『牛娘』。勿論、首にはカウベル付き。 「…いや、何故にその格好なのかと。  そして……春姫って言う事は、つまり……。」 「……昨日は随分とお楽しみだったみたいじゃない、雄真?」 ……やはり、か。 電話で『今すぐあたしの部屋に来なさい、って言うか来い』と言われた時点で、 薄々とそんな事じゃ無いのかとは思っていたが……。 「いや、でも……杏璃が寮に帰ってくるのは、今日だった筈じゃ……。」 「あたしもそのつもりだったんだけど……親戚が色々と面倒だったのよ。  だから、早めに帰って来たの。  …そうしたら、隣の部屋から聞こえてきたのは春姫と誰かさんのえっちな声……。」 「うぐっ……。」 「……何か言う事はある、雄真?」 ぎろり。 「……ごめんなさい。」 仁王立ちの杏璃に対し、俺はは迷わず土下座した。 「…本当に悪かったと思ってる?」 「勿論で御座います。」 「なら……あたしが言う事には、絶対服従よね?」 「…いや、それはどうかと……。」 「……何か、言った?」 ごごごごごご。 「何でも御座いません杏璃様っ!?」 やばい。 気のせいかもしれないが、杏璃の左手が真っ赤に燃えているイメージが見えた。 今の杏璃に逆らう事……それ即ち、死。 ……それは言いすぎだけど、少なくともいい事は全く無い。 「じゃあ……分かってるわね?」 「今日一日、杏璃様の言う事に従わせて戴きます……。」 俺、完全服従。 「…とりあえず、其処に立って。」 「う、ういっす。」 ちょっとビクビクしながらも、杏璃の言う通りに立ちあがる。 すると。 ぽふっ。 無言のまま、俺の胸に杏璃が飛び込ん来る。 「……あ、杏璃?」 「……ぎゅってしなさいよ、馬鹿。」 「お、おう。」 ぎゅっ。 「ん……♪」 そっと抱きしめると、杏璃は自分の頭をぐりぐりと俺の胸に押し付けてきた。 「…もしかして、甘えたかったのか?」 「……いいでしょ、これぐらい。  それとも……あたしはいちゃいちゃしちゃ、駄目なの?」 じーっ。 「……ああもう。  そんな不安そうな目で見るなっ。」 ちゅっ。 杏璃の額に、そっとキスをする。 「今日の俺は絶対服従なんだから、好きなだけ甘えればいいだろ。  ……って、別に絶対服従じゃ無くても全然甘えていいんだけどな。」 「……雄真ぁ。」 ぎゅうっ。 俺の言葉が嬉しかったのか、杏璃が強く抱きついてきた。 「じゃあ……もっといっぱい、甘えてもいい?」 「ん。」 「その…甘えるより凄い事も……いい?」 「……甘えるより凄い事、って……。」 真っ赤な顔の杏璃を見つめる。 すると、杏璃も俺を見つめて。 「は、春姫よりは胸もちっちゃいし、それに…女の子らしくないけど……。  雄真に悦んで貰えるように、いっぱいご奉仕するから……。  ……雄真にいっぱい、可愛がって欲しいの。」 「っ……。」 問題:『潤んだ瞳×真っ赤な顔+牛娘コスプレ』の答えは? 答え:リミッター解除。 「あ、杏璃っ!」 「ひゃっ!?」 からん。からん。 杏璃をベッドに押し倒すと、首に付けていたカウベルが鳴り響く。 「ゆ、雄真……?」 「…わ、悪い。  杏璃が可愛すぎて、いきなり押し倒しちまった……。」 慌てて杏璃の上から退こうとする。 けれど。 ぎゅっ。 「……杏璃?」 逆に杏璃に抱き寄せられた。 「…いいよ、雄真。  雄真の思うように、あたしを……。」 「……本当に、いいんだな?」 「……。」 こくん。 「…分かった。」 杏璃の頬に手を添える。 すると、杏璃もそっと目を閉じて。 「……大好きだぞ、杏璃。」 「雄真ぁ……。」 「……雄真っ♪」 ぎゅうっ。 「ん、なんだ?」 「……ううん。呼んだだけ。」 「そっか。」 部屋に入った時の機嫌の悪さは何処へやら。 俺と杏璃は、ベッドの中でお互いにぴっとりと引っ付いていた。 「…えへへ。雄真ぁ……♪」 「……ああもう可愛いなぁ杏璃はっ。」 なでなで。 「だって……雄真がいっぱい可愛がってくれるから、嬉しいんだもん。」 俺に頭を撫でられながら、満面の笑みで言葉を返す杏璃。 「でも…この格好、あんまり活かせなかったわね。」 首に付いたカウベルを撫でながら、杏璃が小さくため息を付く。 「やっぱり、春姫ぐらいに胸が大きくないと駄目かぁ……。」 「……杏璃だって、結構大きいと思うんだけどなぁ。」 具体的には小日向な義妹さんとか式守の偉い人とか式守を護ってる人とかよりは。 「……あたしじゃ、春姫みたいに挟んで気持ち良くしてあげられないから。」 「別に俺は、そんなの気にしないぞ?」 「…でも、もっと雄真を気持ち良くしてあげたいし……。」 「杏璃……。」 杏璃の気持ちは凄く嬉しい。 でも……かと言って、すぐに大きくなるものでも無いと思うし……。 ……あ。 「そう言えば……揉まれると、胸は大きくなるって聞いた事が……。」 ハチや準がそんな事言ってた気がするな。 「そ、そうなんだ。  なら……お願いしてもいい、雄真?」 「…お、俺?」 「雄真以外に、こんな事頼めないわよ。  それとも……雄真以外の人に、あたしの胸を触られてもいいの?」 「絶対に嫌だ。」 間髪入れずに即答する。 「だったら……ね?」 「……ひとつだけ、問題がある。」 「…問題?」 小首を傾げる杏璃に、俺はそっと顔を近づけ。 「……その後、間違いなく杏璃を『可愛がる』事になりそうなんだけど……いいのか?」 「っ……。」 俺の言葉に、一瞬で杏璃の顔が真っ赤に染まる。 そして。 「……じゃあ、これを合図にするわ。」 からん。 杏璃の首に付いてるカウベルが鳴る。 「これが鳴ったら……あたしの事、いっぱい可愛がって。」 「…あ、ああ。」 ……はて。 この展開、昨日も一昨日も……。 「……ゆ、雄真っ。」 「…ん?どうした?」 杏璃の声に、俺は考えるのを中断する。 からん。からん。 「……えーと?」 「……駄目?」 じーっ。 「……駄目な訳、あるかっ!」 「ひゃんっ……雄真ぁっ……。」 ――それから暫く後。 カフェテリア『Oasis』でそれは起こった。 「雄真さん♪」 「雄真くん♪」 「雄真っ♪」 からん。 からん。 からん。 「「「……え?」」」 「……あ。」 ……この後何が起こったかは、ここでは語らない。 ただ……色々と大変であった、とだけは言っておこうと思う。