「あ、雄真。」 「ん?」 「はい、コレ。」 放課後。 俺は、準にカードみたいな物を渡された。 「……『渡良瀬準ファンクラブの集い』?」 「うん。今度の土曜日に。」 「…つまり、これは俺にその集いに来い、って事か。」 「…来て欲しくない人に、わざわざカードを渡したりしないわよ。」 「そりゃそうだ。」 今度の土曜日は…特に予定は無かったな。 ……と言うか、週末は基本的に準と出かけられるように、予定なんて 全然無いんだけど。 「了解。みんなのアイドル、渡良瀬準を生で拝ませてもらうとしようかな。」 「…って、いつも見てるじゃない。」 「ばーか。  ……俺の見てるのは、アイドルでもモデルでも無い、ただの準だ。  着飾ってない、意地っ張りで可愛いくて…後、ちょっとエッチな奴だよ。」 「…っ。」 小さく囁いた俺の言葉に、準の顔が真っ赤になる。 …ちょっと自分でもキザかな、って思ったけど、かなりの効果があったらしい。 「…もう。いつもはデリカシーのないえっちな雄真なのに、  時々、こんな風に凄く…ドキドキさせる台詞をさらっと言うのよね……。」 「……いつもの俺は、そんなに言われる程酷いのか。」 ちょっと凹んだ。 「ほら、拗ねないの。  …今週はずっとファンクラブの準備で忙しいけど、それが済んだら、  暫くは暇だから。」 「……つまりは、忙しかった分、遊び倒すって事か。」 「当然。ストレスはお肌の敵なんだから。  いっぱい頑張った後は、いっぱい遊ぶのよ♪」 …準のこんな所は、純粋に凄いと思う。 学生にしてファンクラブ、さらにはモデル。 その上、学校に、俺とのデート。あ、確か武道も習ってるとか言ってたよな。 ……こいつ、ちゃんと寝てるんだろうな? 「…ありがと、雄真。」 「な、なにが?」 「……あたしの事、心配してくれてるんでしょ?  顔に出てるわよ。」 「…ほんとに、平気なんだろうな。」 「大丈夫よ。ちゃんと休める時はきっちりと休んでるし。  ……それに、雄真との一時が、一番の休息なんだから。」 「…そっか。」 そう言って貰えると、俺も凄く嬉しくなる。 「って、もうこんな時間。」 慌てて、自分の鞄を握る準。 「それじゃあね、雄真!」 「ああ。…無理すんなよ。」 「はいはい。」 そのまま、準は教室を駆け出していった。 「…暫くは、一人で帰る事になるかな。」 たった数日間我慢するだけなのに、もうすでに寂しさを感じる。 ……いつの間にか、準が俺の中心になってた、って事か。 「……来て見たはいいが…。」 どんな場所かも分からず、俺は住所を見て、その場所にやって来た。 「思いっきりライブハウスだし……。」 しかも、結構大きめな。 下手したら、百人以上入るんじゃ無いか、コレ……。 そして、そのまわりには何故か人だかり。 「…もしかして、このまわりの人だかりって……全部、準のファンだったりするのか?」 至って普通の若者とか、恐らくは準をデフォルメしたであろう絵を描いた服を着てる人とか。 ……スーツ着たおじさまに、女の子まで。 「……分からん。」 女の子向け雑誌のモデルって意味では、女の子は分かるんだが……。 準は男だって、みんな知ってる筈なんだけどなぁ。 「…って、その準と付き合ってる俺が言える台詞でも無いのか。」 そんな事を考えているうちに、人だかりが動き始めた。 どうやら、中に入り始めたらしい。 …別に一番前で無くとも良いか。 今日の準は『みんなのアイドル』だしな。 「…なんじゃ、こりゃ。」 ごめん、準。 正直、お前の凄さを舐めていた。 ライブハウスの中に入って、俺は心底、そう思っていた。 見渡す限りの、人。何処を見ても人。と言うか、地面なんて見えない。 「……人気あるんだなぁ。」 なんとなく、そんな事を呟いてみる。 「みんな、お待たせー!」 そんな声と共に、会場内が暗くなる。 聞き慣れた声。 会場の前、ステージみたいな場所に光が集められ、其処には……。 「ぶっ!?」 俺は、ステージ上の準の姿を見て、思わず飲んでいたジュースを噴き出しそうになった。 「今日は、あたしの為に集まってくれて、ありがとう〜!」 ……あ、あいつ。 なんで、あの時のメイド服を着てるかなぁっ!? 『うおおおおお!』 『可愛いよ、準ちゃ〜ん!』 『準にゃん、萌えー!』 まわりの連中は、物凄いヒートアップしてるけど。 「……今回は場所を変えて、ちょっと大きめの場所にしてみたんだけど……。  まさか、本当にこんなに集まるなんて……みんな、もしかしてすっごくヒマ?」 準の台詞に、『準ちゃんだから来たのにー』とか、『準にゃんの為にヒマにしてきたぞー』とか、 色々と声が返される。 「まぁ、結局する事はいつもの集まりと然程変わりは無かったりするんだけど……。」 そう言いながら、会場を準が見渡していく。 そして……。 「……。」 何故か、俺の居る所で目線が止まる。 ……まさかアイツ、この人ごみの山の中から、俺を見つけ出したとか……まさかな。 「たっぷりサービスするので、いっぱい楽しんでいってね……ご主人様♪」 ちゅっ。 準の投げキッスサービスに、更にヒートアップするまわりの連中。 まぁ、メイド服姿の準が『ご主人様』って投げキッスすれば、そうなるだろう。 だが逆に、俺は…恥ずかしさと嬉しさで、顔が真っ赤になっていた。 「……あの馬鹿。  本当に俺を見つけてたのか……。」 投げキッスをした時、目線が合ったからな。 …随分と離れてて良かった。こんなにやけてる顔、準に見られたら絶対にネタにされてただろうし。 「さて、それじゃあ最初にあたしとお話する人、選ぼうかな?  みんな、ちゃんとカードは持ってるわよねー?」 準の声に、野郎連中が『おー!』と返す。 …俺もつられて、カードを見る。 「…うーん、別に至って普通の招待状っぽい……あ。」 よく見ると、隅っこに数字が書いてある。 「えっと、誰かの紹介とかで初めて来た人が居るかもしれないから、説明するけど……。  カードには、通し番号が書かれてるの。  それで、今からあたしが此処にある箱から、一つの番号を選び出すので、  選ばれた人は、前に出てあたしと暫くお話する、って寸法ね。  ……勿論、恥ずかしいって子は出てこなくても問題無し。  その時は、再度抽選するから、気にしないでねー。」 がさごそ。 説明をしながら、準が箱の中をかき回す。 「それじゃ、最初の人は……えいっ。」 紙を一枚取り出される。 「……あら、最初だからかしら?……1番。」 「なにっ!?」 じろり。 思わず出してしまった声に、まわりの視線が俺に集中する。 「…もしかして、あなたが1番?」 「……そう言う事かよ。」 まわりは俺に集中していたから、恐らく誰も気づいていないのだろう。 準が、俺に向かって微笑みながら、こっそり手を振っていた事に。 見事に謀ってくれたな、準の奴。 きっと、あの箱の中で細工をして、必ず1番の紙を引けるようにしておいたのだろう。 ……こうなったら、こっちもやってやろうじゃないか。 日頃負けてる分、今日きっちりと返してやるぜ。 「えっと……初めまして、かしら?」 「そうですね。今日、初めて参加しましたから。」 ステージの上。 俺と準は、にこやかに会話を始めた。 まわりは何か言ってるっぽいけど、それどころじゃ無い。 俺の目の前に居るのは、小雪さんと並んで策略が大好きな小悪魔なのだ。 「初めてって事は……誰かにお誘いを受けたのかしら?」 「そ、それは…。」 お前だろ。お前が手渡したんだろうがっ。 「とある友人にお誘いを受けたのですが、その友人は急遽用事が入ってしまって……。」 「あら残念。そのお友達にも会いたかったわ。」 「是非今度連れて来ますよ。」 …だーかーら、お前だっての。 「…さて、初めてさんの…えーと、お名前を聞いても大丈夫?」 「……小日向雄真と言います。」 「ありがと。  小日向雄真…んー、雄真くんでOK?」 「はい、準さんのお好きな様に。」 「それじゃ、雄真くん…何のお話をしようかしら?」 小首を傾げる準。 ……よし。 「それじゃ…ちょっと相談したい事があるんですけど、いいですか?」 「相談?うん、あたしで良ければ。」 「えっと、話は……俺の大事な人の事なんですけど。」 「……え?」 ぴくり、と準の眉が動く。 そしてまわりからは、『彼女持ちだとー!?』『裏切り者だー!』との野次が。 ……悪い、まわりの諸君。 裏切り者では無いが、許してはくれないだろうな……。 「実は…その人が色々な手段、方法を使って俺を誘惑してくるんです。  場所を問わず。」 「へ、へぇ……。」 「しかも、色んな服まで用意して。  メイド服とか、チャイナ服とか、ナース服とか。」 「ふ、ふぅん……。」 僅かに、頬を引きつらせる準。 「で、そんなエロでちょっとフェチの入ったその人を、どうしたらいいかなぁ……と、思いまして。」 「な、なるほど……それは、困った……わねぇ。」 ぷるぷる。 あ、小刻みにだけど震えてる。 かなり我慢してるな。 「……じゃあ、雄真くんは、その人の事を嫌いなの?」 「…うぇ?」 「うぇ、じゃ無いでしょ。  だって、その人のその行為が嫌なのなら、すっぱりと言えばいいじゃない。」 ねー、と同意を求める準。 返ってくるのは『その通り』『ふざけんなー』『贅沢者』『何処に居るんだそんな健気な子は』などなど。 …だから、目の前に居るって。 「いや…勿論、俺も男だから、どっちかと言うと好きなんですけど…。」 「なるほど、雄真くんはエロ好きでフェチ好き、と。」 「な、なんでそうなるっ!?」 「あら、だって、そのエロでフェチの入った人の行為が大好きなんでしょう?  ……つまりは、貴方もエロでフェチ。何か間違った事でも?」 「いや、そんな事は……。」 『エロー』『フェチー』『エロー』『フェチー』『エロー』『フェチー』『チェリー』 「…って、最後変なの言ったの誰だっ!?」 思わずステージから突っ込みを入れてしまう。 そして湧き上がる笑い声。 「雄真くん、ナイスツッコミ!」 ぐっ、とサムズアップをする準。 「……いや、好きで突っ込んだ訳じゃ無いんですけどね。」 …あれ? オトコノコと結ばれた場合は、どうなるんだろう?やっぱりチェリー扱いなのか? 「いや、ちょっと真面目に話をすると……。  その人、かなり忙しいんですよ。常日頃から。  それなのに、わざわざ服を自分で作って、そう言う行為をしてて……。」 「……ふうん。」 「ですから……気持ちは嬉しいけど、俺としては、もっと自分の身を気遣って欲しいんです。」 そう言って、俺は、準の目を見つめる。 「……そう、ね。」 さり気なく、準が目を逸らす。 …ま、コレで俺の気持ちが伝わったから、いいかな? 「…で、この事を素直に相手に伝えた方がいいのか、それとも何も言わず、  その人のしたいようにさせた方がいいのか……どっちがいいんでしょうか?」 実はもう答えは出てる…と言うか、言った後なんだけどな。 「うーん…。」 それは準も分かっているから、一応悩んだ振りをした後。 「…言ってみたらいいんじゃないかしら?  言わなくても伝わる事もあるけど、それ以上に言わないと伝わらない事の方が多いから。  まぁ、その彼女も……無理してる、って自覚があるなら、きちんと休むと思うわ。  でも……それでも無理するようなら、無理やりにでも貴方が休ませなきゃ。  …その人、大事なんでしょ?」 「……はい。勿論ですよ。」 「ふーん。其処まで貴方…雄真くんに思われてる彼女さんも、幸せねー。  …ね、あたしとその人と、どっちが上?」 きゅぴーん。 怪しく光る準の瞳。…うわ、俺を試してるのか? 「……えーと。」 どっちもお前じゃん。って言うか、どう答えたら正解なんだ、その質問? 「…多分、両方、かな。」 「……ん。」 俺にだけ分かるように、小さく、準が頷く。 どうやら、正解だったっぽい。 そして。 「うわぁ、そんな思ってくれる人が居るのにあたしまで狙ってるのね!?  みんなー、此処にケダモノが居るわよー!」 準の煽りに、野郎連中も『ケダモノ』『二股』『鬼畜』『絶倫』と好き勝手言ってくれる。 …く、くそう。 「はーい、ケダモノ二股絶倫鬼畜な、小日向雄真くんでしたー!  みんな、拍手、もしくはブーイングでお迎え下さーい!!」 ……勿論、みんなしてブーイングで迎えてくれたのは、言うまでもない。 その後も、準は色々な格好で現れては、ファンのみんなの目を楽しませた。 勿論、格好だけじゃ無くて、適当にファンを選んでのトークも十分に楽しかった。 …ほんとに多才だな、準の奴。 「…さて、もういいかな?」 俺はファンのみんなが居なくなるのを暫く待ち、準の控え室の前へと来ていた。 こんこん。 「はい?」 「えーと、渡良瀬準さんの一ファンなんですけど……。」 「…馬鹿やってないで、入ってきなさいよ、雄真。」 「ちょっとしたお茶目なのに…。」 がちゃり。 「お疲れ様、準。」 「ありがと。  …どうだった?初めて参加した感想。」 「んー……純粋に面白かった。  見た目も良かったし、準のトークも良かったぞ。  ランダムでファンをステージに引っ張り上げて、あれだけ会話を膨らませられるんだから、  大したもんだよ。」 「……まぁ、元々みんなノリのいい人達だってのも、あるけどね。」 苦笑いをする準。 …まぁ、あの野次を聞く限りは、そうだな。 「…で、よくも仕組んでくれたな。」 「…あ、忘れてなかったんだ。」 「当たり前だ。……ビックリしたぞ。」 「ほら、ちょっとしたサプライズって大事じゃない?」 「……お前と一緒に居ると、常にサプライズだらけだろうが。」 びしっ、と手だけを動かして突っ込む。 「やんっ、胸を触るなんて……雄真のえっちっ。」 「…あのなぁ。  そんな事言ってるヒマあったら、とっとと帰るぞ。  ……家帰ったら、ゆっくりしろ。大分疲れてるだろ?」 「……やっぱり、雄真には分かっちゃうのか。」 そう言って、準が俺にもたれ掛かってきた。 「…やっぱり、最後のアレか?」 最後のアレと言うのは……ファンクラブでは恒例になっているらしい、お願い事ボックス。 …用は、準にして貰いたい事をあらかじめ紙に書いて中に入れ、そこから 準が一枚引いて、そのお願い事を叶える、ってやつだ。 ……無論、無茶なお願いはアウトな訳だけど。 「……恋人と思って告白して、キス、だったか?」 「…ほっぺたでいいって言われたから、大丈夫かな、って思ったけど……。  やっぱり駄目ねー。思っても無い人に告白して、キスって……女優さんって凄いって思ったわ。」 「……それ、理由の半分しか言って無いだろ。」 「…え?」 「……俺が居るのにそんなのをするの、嫌だったんだろ?」 「………。」 きゅ。 そっと、俺の身体を準が抱きしめる。 「…ごめんね。」 「ま、今回でアレは駄目って分かったんだから。  次回からは断ればいいだろ。」 「……怒ってない?」 不安そうな瞳で、俺を見上げる準。 「準は何も悪い事してないだろ。  …まぁ、苛々しなかった、って言ったら絶対嘘になるけど。  ……だから俺、後ろ向いてただろ?」 「…ヤキモチ、妬いてくれたの?」 「……当たり前だ。  俺が、準の為に居るように……準は、俺のモノ、なんだろ?」 「…うん。  あたしは、雄真のモノ。雄真と一緒に居て、ずっと、雄真だけを見てるの…。」 準の手が、俺の背中から、今度は首に回される。 そして、そっと目を瞑る。 「…ん。」 「んっ。」 唇を合わせるだけのキス。 その後、すぐに顔を離す。 「…もう、終わり?」 「そりゃ、大好きな準とだったら、幾らでもキスしていたいけど……今は駄目。」 「……どうして?」 「ど、どうしてって……。」 …そのまま準が欲しくなるから、なんて、言えるか。 タダでさえ、準は疲れてるんだから、そういう事は控えないと。 「……ね、雄真。  雄真の考えている事……当ててみせよっか?」 くすり。 妖しく、準が微笑む。 常日頃では決して見せる事の無い……俺を誘う時の、妖艶な笑み。 「………あたしを、欲しいんでしょ。」 「…っ。」 「…図星なんだ?」 「そ、そんな事は……。」 「そんな事は……なぁに?」 俺の胸元に、準の手が伸びる。 「…動悸が激しいわね。」 「…暑いからな。」 そのまま、準の手が、ゆっくりと下に降りていく。 「……どうして、あたしから目を逸らすの?」 「い、いや……なんとなく?」 「…へぇ。」 そして、準の手が……俺のズボンの膨らみのところで止まる。 「……此処は正直なのね、雄真。」 「…五月蝿い。仕方無いだろ、意識とは別物なんだよ。」 「そうよね…。  雄真はいつも、今日はしないぞ、って言いながらも……ココを、大きくしてるんだもの。」 ゆっくりと、ズボンの上から、俺のアレが撫で回される。 「おい、準っ…。」 「…別に、雄真だけじゃ、無いんだから。」 「…は?」 ぐっ。 俺の首の後ろに回した腕を無理やり引き寄せ、下げられた俺の耳元に準が顔を寄せる。 「……あたしだって、雄真の事を、求めてるんだから。」 「準…。」 「……乙女に、こんな事を言わせないでよね。  だから雄真は、デリカシーが無いって言われるんだから。」 「…もう純潔は散らしたんだから、乙女じゃ……。」 ぎゅっ! 「あう”っ!?」 「……変な事言ったら、大事な雄真のコレ……握りつぶしちゃうわよ♪」 「わ、分かった!  俺が悪かったから、ソレだけはお許し下さい……。」 「んー、どうしよっかなぁ…。  あたし、今の台詞でとっても傷ついちゃったのよね……。」 にぎにぎ。 俺のモノを服の上から握り締めながら、準が囁く。 「……それじゃ、あたしのお願い、聞いてくれる?」 「俺に聞ける事なら……。」 「…じゃあ、今日……あたしの家に、お泊りしてくれる?」 「お、お泊りって事は……。」 「……。」 こくん。 俺の言葉には答えず、準が小さく頷く。 その顔は、赤く染まっていた。 「い、いやほら、今日は準も疲れてるんだし……。」 「…駄目?」 じーっ。 「……そ、そんな目で見ても駄目っ。」 いつもならこの目線で堕ちてしまうところだが、今日は駄目だ。 準の身体を気遣わないと。 「…じゃあ、一緒に添い寝してくれるだけでいいから。  ……それでも、駄目?」 「………本当に、添い寝だけだな?」 「…だって、雄真が駄目って言うから。」 俺のモノから手を離し、今度は俺の胸を人差し指で撫で回す準。 「……わ、分かった。  添い寝だけって言うなら……泊まってやる。」 …とりあえず、かーさんに連絡すればいいか。 ……問題は、すももが電話に出た場合、どうやってすももを宥めるか、だけどな…。 「ありがとう、雄真っ。大好きっ!」 ぎゅうっ。 「おいおい、準……。」 まるで水を得た魚のように、準に活気が戻る。 ……さっきまで凄く疲れてた筈なんだけど、コレは一体、なに? 「さ、なら早く帰りましょっ。」 ぐいっ。 「うをっ!?」 物凄い力で引っ張られる。 「ちょ、ちょっと待て!?  まずは、かーさんに外泊許可を取らなきゃ……。」 「そんなの、あたしの家に行きながら携帯ですればいいでしょ!  早く早く、ハリィハリィハリィ!!」 「ま、待て、待ってくれ準っ!?」 ずるずるずるずる。 本当に俺を引きずって歩く準。 傍から見たら、可愛い女の子が大の男を引きずると言う、不思議な構図に見えている事だろう。 「お、お前、疲れてたんじゃないのかよっ!?」 思わず、準に突っ込む。 「……んー、さっきまでは、ね。  でも、今はすっごく元気になっちゃった♪」 にっこりと微笑む準。 その顔には、本当に疲れなど微塵も見えなくなっていた。 「ま、また謀ったなっ!?」 「違うわよ。  本当に、さっきまでは…凄く、疲れてたの。」 「…じゃあ、なんで急に……?」 「あら、そんなの簡単よ。」 くすくすと、準が笑う。 そして、さも当たり前かのように、こう俺に告げた。 「だって……愛しの雄真と、一緒に居れるのよ?  だから、凄く幸せで……疲れなんて、吹き飛ぶに決まってるじゃない?」 「……はぁ。」 深夜、準の部屋。 「…んっ……。」 俺の横には、本当に幸せそうに、ぐっすりと眠る準。 きっと、いい夢でも見ているのだろう。 ……何故か服を着てない、と言う部分に触れなければ、まさに完璧だったのだが。 「………結局、シテしまったか…。」 …ちょっと自己嫌悪、俺。