「と言う訳で、第一回チキチキ大麻雀大会っ!」 「……。」 「…ちょっと雄真、テンション低いわよ?」 日曜日、準の家。 矢鱈とテンションの高い準とは違い、俺はテンションが低かった。 「……なあ、準。  どうしてもやるのか?……つーか、やらないと駄目か?」 「勿論。だって……雄真、麻雀強いんでしょ?」 にやにやと笑う準。 ……くそう。自分で言ったとはいえ、何でこんな事に……。 事の始まりは土曜日、放課後。 俺、準、ハチの3人で向かったゲーセンで起こった。 「お、雄真。久しぶりにコレで勝負しないか?」 ハチが指差したのは、麻雀の通信対戦ゲーム。 「…そう言って、9割方負けてるだろ、ハチ。」 「ふっ……以前の俺なら負けていた。  だが、今日は一味違うのだよ!」 髪をかき上げ、ポーズを決めるハチ。 ……その仕草も台詞も、前に聞いたんだけどな。 「ま、いいか。  ……分かってるとは思うが、負けた方が…。」 「おう。来週のジュース代、奢りだ。」 ……そして、20分後。 「……な、何故だ。」 「そんな事言われてもな……。」 がっくりと地面に膝を付くハチと、それを見ながら頬を掻く俺の姿が。 「……ま、ハチじゃこの程度よねー。」 そして、くすくすと笑う準。 「って……準、お前麻雀できたっけ?」 「ま、嗜み程度にはね。」 そう言った準が握っていたのは、麻雀ゲームのカード。 どうやら準もゲームをしていたらしい。 「……そうだ、雄真。  明日、あたしと麻雀しない?」 「……実際の雀牌で?」 「そう言う事。  って言っても、面子を揃えたりとかは面倒だから、1対1の二人打ち。  ……勿論、賭けアリの罰ゲームアリで。どう?」 くすり、と笑う準。 ……うん、これはチャンスだ。 日頃色々とやり込められている俺が、準にお返しをするチャンス。 「…よし、その話乗った。  だけど……後悔するなよ。こう見えても、俺は結構強いんだぞ?」 「へー…それは楽しみね、雄真♪」 俺の言葉にも、準は笑みを浮かべたまま。 ……実際、俺はこのゲーセンの中ではランク上位に入る腕前だったりするんだが。 ……ちなみに、さっきから凹んでるハチはかなり下の方。 「さて、あたしも久しぶりにプレイしようかしら。」 準がゲームの個体に座り、カードを挿入する。 そして、プレイヤーの名前が表示される。 「……『Miss.J』?」 …はて。 何処かで見た事のあるような……。 「……なにいっ!?」 「…なんだ急に?」 俺と同じように画面を見ていたハチが、突然叫び声を上げる。 「お、おい雄真!この名前っ……。」 そう言いつつ、ハチが近くにあったチラシを指差す。 それは、最近あった全国大会の結果。 「優勝、『Miss.J』。  ……何だって!?」 俺も思わず叫び声を上げる。 そして……。 「勿論、後悔なんてしないわよ。  ……ねえ、ゆ・う・ま♪」 俺の方を見て、にやり、と準が笑うのだった。 「……詐欺だ。絶対に詐欺だ。」 「はいはい、今更ごちゃごちゃ言わないの。  ……男でしょ?」 準と俺、二人で牌を並べていく。 「本当は積み込みぐらい容易いんだけど、それをしないであげてるんだから……。  随分と手加減してるのよ?」 「……五月蝿い黙れ。」 最初のゲームは、あっさりと終わってしまった。 ……役満と言う麻雀でも最高の役で、持ち点を一発で根こそぎ奪われて。 普通は、役満なんてそう簡単に出来るものじゃない。 無いんだけど……準の奴はあらかじめ配られる牌に細工をして、それをやってのけたのだ。 「うふふふふ……雄真には何をして貰おうかしら。  …あ、どうせ脱衣ルールで素っ裸になるんだし……そのまま女装でいいわね♪」 「いーやーだーっ!?」 「大丈夫、酷い事はしないから。  ……たっぷりと、可愛がってあげる。」 「っ……。」 ……一瞬、それでもいいかな、って思ったあたり……確実に汚染されてる。 不味い。非常に不味い。 「さーて、上着の次は何を脱いで貰おうかしらっ。」 「ええいっ、次は絶対に勝つぞ、次はっ。」 ――30分後―― 「うふふふふ、後一枚っ。」 「ぐぅっ……。」 結局、一戦どころか一回も勝つ事無く、俺はトランクス一枚の状態になっていた。 「あれー、雄真ってば麻雀強いんじゃ無かったかしらー?」 「五月蝿い五月蝿い五月蝿いっ!!」 くすくすと笑う準に対し、半ばやけっぱちで怒鳴り返す。 「はいはい、そんなに怒っても結果は変わらないわよ。」 「…ま、まだだ。まだ分からないだろっ。」 「ま、言うだけならタダだからいいけど?  ……ちなみに、こんな事もあろうかと、すでに次の衣装は準備してあったり。」 いつの間にか、準の脇には紙袋が。 そして、準が其処から何かを取り出した。 「今回はちょっとステップアップして、ゴスロリ衣装を準備してみたの。  もちろん、あたしのお手製よ♪」 「げっ……。」 黒いフリルがいっぱい付いた服が、俺の目の前に。 ……って言うか、いつの間に準備してたんだ、こいつは。 「……負けたら、これを着れって事か?」 「うんっ♪  そして、一緒にプリクラを撮りに行きましょ♪」 「……。」 別に普通にプリクラを撮りに行くなら何も言わない。 だが……女装となると別だ。 「……その写真、絶対にみんなに配るだろ、準。」 「……あ、ばれちゃった?」 「……絶対に、嫌だっ!!」 「だったら、あたしに勝たないとね。  …ま、無理だろうけど?」 にやり。 「……絶対に勝ってやる。」 ――更に30分後―― 「……詐欺よ。イカサマよ。陰謀よっ!!」 「んな訳あるか。実力だ、実力。」 俺は目の前に居る準――ただし、服を全部脱ぎ、シーツを羽織ってるだけだが――に対し、にやり、と笑いかけた。 「だってだって、あの状況からあたしがどうして負けるのよっ!?」 「だから、実力だろ。  ……俺も出来すぎてるとは思うが。」 そう。 あの時から、俺の快進撃が始まった。 ……決して、準が手を抜いた訳じゃ無い。 訳じゃ、無いのだが……。 「……運も実力の内、って事?」 「だろうな。  ……下手したら、人生の運を全て使い果たした可能性もあるが。」 準の服を全て脱がす為には、5回戦を勝たないといけなかったのだが……。 その内、天和(牌が配られた時点で上がれる状態)の役が2回。 九蓮宝燈と言う、一生のうちで上がれるかどうかの役が1回。 でもって。 「四槓子を上がるなんて、初めて見たわ……。」 「……プロ雀士だって上がる事の無い役なのにな。」 ……まあ簡単に言えば、イカサマでもしない限り起きない役が多発したのだ。 と言っても、俺はそんな事はしてない。 そもそも、準に気づかれない様にそんな事が出来る訳無いのだ。 「まあ何がどうあれ、お前の負けな、準。」 「うーっ……。」 シーツを身体に巻きつけ、俺を睨む準。 ありえない負け方をしたのが、よっぽど悔しいのだろう。 「と言う訳だから、その衣装はとっととしまうように。」 そう言って、脱いでいた服を着ようとする。 「雄真……もう一回、駄目?」 「何?」 「だって、こんな終わり方、納得出来ないわっ。  ……それに、雄真にゴスロリ着て欲しいし。」 「そっちが本音かよっ。」 思わず突っ込む。 「駄目なものは駄目。  どんな勝ち方であろうと、勝負は勝負だからな。」 「……どうしても、駄目?」 じーっ。 「……そ、そんな目で見ても駄目だっ。」 俺を見つめる準の視線から、慌てて目を逸らす。 ……そうでもしないと、また準の言いなりになりそうで怖い。 「ね、雄真……。」 四つんばいのまま、ゆっくりと俺の方に近づいてくる準。 避けようと思えばすぐに避けられる。 …その筈、なんだけど。 「……だ、駄目だぞっ。」 「……嫌?」 ぎゅっ。 準に圧し掛かられ、俺は床に押し倒された。 「…準?」 「雄真があたしのお願い、聞いてくれるまで……上から退いてあげないんだから。」 「……べ、別にそれぐらいじゃあ……。」 それだけ言って、準から顔を背ける。 そんな俺を見て、準はくすり、と笑い。 「……期待してる?」 「な、何をだよっ。」 「そうね、例えば……こんな事とか?」 なでなで。 準の手が、トランクスの上から俺のモノをゆっくりと撫で回す。 「うっ……。」 「……気づいてたんだから。  あたしが服を脱ぐのを見て、ココ……大きくしてたでしょ。」 「そ、それは……お前が変な脱ぎ方するからだろっ。」 …わざと俺に見せ付けるように、焦らす様に。 「うふふ……雄真の、えっち。」 俺の耳元で囁く準。 勿論、手は相変わらず俺のモノをゆっくりと撫でている。 「五月蝿いっ。  そう言うお前だって……大きくしてるじゃないか。」 俺のお腹に感じる感触。 それから察するに、準のモノもすでに大きくなっているのは間違い無い。 「…うん。  だって……雄真に抱きついて、雄真の匂いを嗅いでたら……えっちな気分に、なっちゃった。」 背けていた俺の顔に、準の手が伸びる。 「……こっち、向いて。」 「……。」 別に力が込められていた訳じゃ無い。 無理やりでも無い。 ただ、準の声を……切なげな声を、聞いただけ。 だけど、それを聞いてしまったら……逆らえなかった。 「んっ……。」 「……ん。」 ゆっくりと、唇を重ね合わせる。 「ん、ちゅっ…。」 「ちゅっ……あむ……。」 準の口内に舌を入れる。 準も応じ、舌を絡めてきた。 ……そのまま暫く、準の唇を貪り。 「……んっ。」 「…は、ぁ……。」 唇を離すと、其処には……涎を零し、潤んだ瞳で俺を見つめる準の姿が。 「…ずるい。」 「…何がだよ。」 「雄真を誘惑して、もう一回勝負して貰おうと思ってたのに……。」 俺の首筋を甘噛みしながら、準が言葉を紡ぐ。 「……あたしが、雄真を欲しくなっちゃったじゃない。」 「……準。」 …だから。 そんな台詞を言われたら、俺だって……。 「準っ。」 「きゃっ!?」 俺にいきなり抱きしめられ、準が驚きの声を上げる。 「……決めた。」 「え?」 「敗者への罰ゲームの内容。  ……敗者は、絶対に聞かないといけないんだよな?」 「…そういう、約束だもの。  だから……どんな事を言われても、あたしは雄真の命令を聞かないといけないの。  ……どんな事でも、ね。」 赤く染まった顔。潤んだ瞳。 そして、火照った身体。 ……そんな準を目の前にして、俺が言う事。それは……ただ一つ。 「……お前が欲しい、準。  準を……今すぐに抱きたい。愛したい。」 「……うん。  あたしも……雄真に、いっぱい……愛して欲しい。」 「……準っ。」 「…雄真っ。」 そのまま俺は、準に覆いかぶさり、そして――。 「……ねえ、雄真。」 「……なんだ、準。」 「……どういう事よ、コレ!?」 「そんなの俺が知るかっ!」 美味しく準を戴いてしまった後。 結局は泣きの一回戦を行う事になってしまった、のだが……。 「国士無双13面待ち……。」 「……ま、諦めろ。  俺にゴスロリを着せるなって言う、神のご意思だろう。」 「うーっ……。」 「いや、俺に唸られても困るんだが……。」 って言うか、本当に何もしてないし、俺。 「ま、そんな事よりも……。  また負けたって事は、もう一回罰ゲームを決めていい、って事だよな?」 「……好きにしなさいよ。」 目の前で起きた理不尽な出来事に、半ばやさぐれている準。 俺は苦笑しつつ、そんな準を抱き寄せる。 「……もう一回、するか?」 「……え?」 「なんて言うか……普通に考えたら、どう考えても俺が負けてる筈だしな。  外に出ない、って条件だったら……準が勝つまで、勝負してやる。」 「…いいの?」 「……仕方無いだろ。  なんだかんだ言っても、お前に俺は弱いんだから……。」 それだけ言って、ぷい、と顔を背ける。 「…雄真。」 「あーほら、とっとと次の対戦始めるぞっ。」 「……えいっ。」 「うをっ!?」 どさっ。 準に圧し掛かられ、またもや俺は押し倒された。 「いきなり何をするかっ!?」 「だって……負けたんだから、あたしは雄真に……えっちな事、されるんでしょう?」 「……俺にはどう見ても、お前が俺を襲ってるようにしか見えないんだが?」 「……駄目?」 じーっ。 「……ぅ。」 「あは……雄真の、大きくなった。  ……あたしに、欲情してくれたのね?」 「……ああもうっ。  こうなったら……俺が勝つ限り、お前を犯してやるからな、準っ!」 「……うんっ♪」 でもって、それから数時間後。 「…なあ、準。  まさかとは思うんだけど……。」 「なあに?」 「……もしかして、『俺が勝つように』積み込みをしてたりしないか?」 「……ばれちゃった?」 「こらこらこらっ!!」