「や、やっと帰ってきた……。」 今日も偉い上司であるところの親父にこき使われ、俺はぐったりとしつつ 家に帰ってきた。 「ただいまー……って、もう深夜だからなぁ。」 家は静まり返っていた。 この様子だと、みんなもすでに寝ているだろう。 「…だるいから、そのまま寝よう。」 ぼんやりとした頭で、自室に向かう。 がちゃり。 「……寒っ!?」 ドアを開けた途端、予想外の寒さが俺を襲った。 「って、エアコンの冷房か…?」 つーか、そうとしか考えられないし。 しかしまた、なんでこんなに寒く……ん? 「……なんだありゃ。」 部屋の中央辺り。 其処には……にょっきりと生えた、手首がふたつ。 その手首は時々動きながら、ひっきりなしに何かを捕まえようとする動きを繰り返している。 「な、何をしてるんだろう…お嬢ちゃん。」 思わず呟く。 この家で壁とかを無視出来るのはお嬢ちゃんだけだし、そもそも手を見れば分かる。 ……いや、比良坂も壁を『ぶち壊して』無視してくる事もあるけど。 「……まさか、他にも…。」 嫌な予感がした俺は、部屋のあちこちを注意しながら見てみる。 すると、案の定。 かさかさかさかさ。 「ふふ……。」 何故か天井から何かが大量に蠢く音と、嫌でも聞き覚えのある笑い声が。 ってゆーか、比良坂しか居ないし。 「オーケイ。とりあえず二人とも何か企んでるのは分かった。  ……って事は、必然的に鈴音も居る筈だ。」 その場からは動かず、更に慎重に、ゆっくりと部屋を見回していく。 「…居た。」 矢鱈と無駄に大きい俺のベッド。 その中央部分が、何故か膨らんでいた。 具体的には、ちょっと大きめの人間サイズな何かが居るぐらいの膨らみ。 「……逃げよう。」 何かは分からないけど、多分良い事では無い気がする。 そう思った俺はくるりと反転し、部屋から出ようと――。 ぺきっ。 「あ”。」 足元にあったリモコンを、思いっきり踏みつけてしまった。 ……まずい。 「「「!!」」」 かたり、と天井から物音。 ぎしり、と動くベッドの中の何か。 ぴくり、と震える床に生えた手首。 「……脱出っ!」 俺は、目の前の扉に向かって走ろうとして。 びしゅっ。 「うをっ!?」 身体に絡まる蜘蛛の糸。 がしっ。 「うわあっ!?」 いつの間にかがっちりと俺の足首を掴む、ちっちゃな手首。 そして。 「捕まえたっ。」 ぎゅっ。 「す、鈴音っ!?」 「お帰りなさい、父様っ。」 俺の背中に感じる、柔らかい感触。 「父様が寒いといけないと思って、ベッドの中を暖めておいたの♪」 「そもそも今は初夏だ、初夏っ!」 動きたくとも、蜘蛛の糸と手首に捕まえられ、動く事が出来ない。 「鈴音……貴方、姿が見えないと思ったらベッドに潜んでいたのね。」 「母様っ。」 「比良坂っ。」 天井から降りてきたのは、案の定比良坂だった。 ……だけど。 「……なんで裸ワイシャツ?つーか鈴音もっ!?」 「母様……えっち。」 「同じ格好をしている貴方に言われたくは無くてよっ!」 比良坂は黒。鈴音はピンク。 きっちりとボタンを付けている比良坂に対し、ワザと第三ボタンまで外し 胸を肌蹴させている鈴音。 ……いや、どちらでも裸ワイシャツって時点で駄目なんだけどな。 「兎も角、鈴音……――さんは今夜、私と過ごすのよ。」 「残念だけど母様、今夜父様は私と過ごすんだから。」 「……随分と言うようになったわね、鈴音?」 かさかさかさ。 一瞬にして、比良坂のまわりに集まる子蜘蛛達。 だけど、鈴音は怯む事無く。 「母様…子蜘蛛達を出すのはいいけど、それで私を傷つけたら、父様はどう思うのかな?」 「くっ……ひ、卑怯な…。」 「…母様を相手にして、卑怯な方法以外で勝つのは無理なんだけど。」 「その前に俺を人質にするのは止めなさい、鈴音。」 「……えへ。」 「可愛くしても駄目だっ。」 だが、そんな俺の台詞なんて届く筈も無く。 「こう言う時は、母親に譲るのが娘なのではなくて?」 「母様こそ、娘である私に譲るべきだと思うけど。」 あーだこーだと言い合う比良坂と鈴音。 …うーん。今ならこっそりと逃げれるのかもしれない、んだけど……。 その為には……。 「……今日は素直に寝かせて貰えないかな、お嬢ちゃん?」 俺の足首を捕まえたままの手首に話しかける。 すると。 にょっきり。 「…むー。」 床をすり抜け俺の目の前に現れたのは、案の定お嬢ちゃん。 そして何か図ったかのようにお嬢ちゃんも裸ワイシャツでした。ちなみに色は真っ白。 「折角、疲れたお兄ちゃんの為にえっちな格好で待ってたのに……。」 「いや、何故に疲れてるのにえっちな格好?」 「…心が荒んでるお兄ちゃんにいっぱいご奉仕して、満足して貰おうかな、って……。」 すりすり。 ゆっくりと、身体を擦り付けてくるお嬢ちゃん。 そして、上目遣いで俺を見つめ。 「ね、お兄ちゃん……嫌だったかな?」 じーっ。 「……だから。  そんな目で見るのは反則だよ、お嬢ちゃん。」 ぎゅ。 お嬢ちゃんを、そっと抱きしめる。 「…嫌な訳、無いんだから。」 「…ん。」 柔らかい身体。お嬢ちゃんから香る、女の子の匂い。 そして、俺の身体は非常に正直者だから。 「……あ。」 其れを理解したお嬢ちゃんが、頬を赤らめる。 「……お嬢ちゃんの所為だからね。」 「……うん。わたしの所為で、こうなっちゃったんだよね。」 「…責任、取ってくれる?」 「……。」 真っ赤な顔で、小さく頷くお嬢ちゃん。 「…行こっか。」 「……ん。」 手を繋ぎ、俺とお嬢ちゃんはそのまま――。 「……何処へ行くのかしら、――さん?」 「あー!ママ、ずるいっ!」 がしっ。 がしっ。 比良坂と鈴音も、俺に抱き付いてきた。 「うわちょっと二人ともっ!?」 「まったく、――さんはいとも簡単に小娘の色香に騙されるのだから……。  そのような事が無いように、たっぷりと『特訓』をする必要がありそうね。」 「いや待て。色香に対する『特訓』って何だ。」 「それは、その……色香に惑わされないように、耐性を付けておくのよっ。」 「それって、つまりは……そう言う事をしまくるって事か?」 「…『贄』として、拒否は許さないわよ?」 じーっ。 真っ赤な顔で、俺を睨みつける比良坂。 …だから、怖いどころかむしろ逆効果だと言うのに。 「だ、だったら…私も参加するっ!」 「「…はい?」」 突然の鈴音の宣言に、俺と比良坂の声が揃う。 「私だって、色香に対する耐性をつけないと駄目でしょ、母様?」 「鈴音…貴方、そちらの趣味もあったのかしら?」 「ち、違います!母様とは違うんだからっ!」 「……えーと、今さらりと凄い事を言わなかったか鈴音?」 俺、初めてそんな事聞いたんだけど? 「……か、過去にちょっと色々あっただけよ。  今はそのような事は無いのだから、安心なさい。」 「……あったんだ、過去に。」 「ええい、黙りなさいっ。」 ぎろり。 「…ういっす。」 睨みつけられ、俺は大人しく黙る事にした。 ……惨殺は嫌だし。 「……えへ。」 にやり。 俺と比良坂の会話を聞いていた鈴音が、怪しく笑う。 「母様……私、急に今、母様から聞いた話を言いたくなっちゃった♪」 「なっ!?」 「どうしようかな〜、言っちゃおうかな〜。」 「くっ…。」 にやにやと笑う鈴音と、苦い顔をする比良坂。 「…何が望みなのかしら?」 「えへへ…私も、色香に惑わされない『特訓』をしたいなー。勿論相手は父様で。  ……いいよね、母様?」 「……す、好きになさいっ。」 「やった♪」 渋々といった感じの比良坂と、大喜びの鈴音。 ……だけど、どっちも俺の意見を聞いてないのはどういう事だろうか。 「むー……比良坂さんも鈴音ちゃんも、わたしには確認無し?」 「…小娘に確認する必要が、何処にあるのかしら?」 「…こっそり父様を独り占めにしてたママなんて知らないもんっ。」 今度はタッグを組み、お嬢ちゃんと睨み合う比良坂と鈴音。 ……敵の敵は味方、って奴か? 「……まあ、言い争うだけ無駄ね。何せ相手は――さんなのだから。」 「……それもそうですね。だって…お兄ちゃんだし。」 「……私もそう思う。……パパなら、私達をみんな可愛がってくれると思うし♪」 「は?」 くすり、と笑う比良坂。 にやり、と笑うお嬢ちゃん。 にっこりと笑う鈴音。 ……ええっと、これは結構大ピンチ? 「――さん……今日はじっくりと『特訓』してあげるから、覚悟なさい?」 「お兄ちゃん……わたしのご奉仕で、いっぱい満足してね?」 「父様……私が惑わされないように、いっぱい『特訓』してね♪」 「いや、ちょっと待ちましょうよ皆さん?」 妖しい笑みを浮かべながら、俺に近づいてくる裸ワイシャツな3人。 「……ほ、ほら!俺、明日も仕事だし!  明日もハードだから、今日は早めに寝ないと不味い訳ですよ?」 嫌じゃないけど、毎回毎回ずるずるとえっちな事をする訳にはいかないのですよ。 …さっきあっさりとお嬢ちゃんに誘惑されたけど、それはそれで。 「…つまりは、明日が仕事で無ければ構わなかった、と言う事ね?」 「そうそう、そう言う事。  いやー残念だ。本当に残念だなー。」 比良坂の言葉に、ワザと強調して答える。 いや、本当に…残念なんだけどな。 だが、これで明日仕事でミスしたら不味い事になるのだ。 「……小娘?」 「比良坂さんに指図される覚えはありませんが……まあ大丈夫でしょう。  って事で……鈴音ちゃん、後は宜しく♪」 「はーいっ。」 比良坂とお嬢ちゃんの了解の元、鈴音が電話の受話器を取り、何処かにダイアルする。 「……あ、もしもし。おばあちゃん?」 「…ナンデスト?」 どうやら鈴音が電話をかけた先は、お袋らしい。 「えっとね…明日、父様の具合が悪くなる予定にしたいんだけど……駄目かな?」 「ちょいと待て其処の鈴音!」 こ、こいつは一体何を考えてるんだ…。 「…お願い、おばあちゃん。  折角、父様とラブラブ出来る機会なんだもん……。」 「そ、そんな事をお袋に……むぐっ!?」 「…電話中なのだから、静かになさい。」 「そうだよ、お兄ちゃん。マナー違反だよ?」 俺の背後に抱きつき、手で口を塞ぐ比良坂。 そして、同じように前から抱きつくお嬢ちゃん。 「…ほら、おじいちゃんがお休みなら、父様も必然的にお休みになるでしょ?  そうすれば、おばあちゃんもおじいちゃんとラブラブ出来るよ?」 「むーっ!むぐーっ!」 「……黙りなさいと言っているでしょう?」 きゅっ。 「むぐぅっ!?」 比良坂の手が、俺のモノを握り締める。 「言う事を聞かないお兄ちゃんには……お仕置きしちゃうよ?」 なでなで。 「っ…!」 お嬢ちゃんの手も、ゆっくりと俺のモノを撫でまわす。 「…幾ら『贄』で再生すると言えども、此処を破壊されるのは。」 「……嫌だよね、お兄ちゃん?」 「……!」 首を縦に振る。って言うか振る以外の選択肢は無い。 だって……二人とも、目が本気だし。 「ならば……言われずとも、分かるでしょう?」 「鈴音ちゃんの邪魔をしたら……めっ、だよ?」 「……むぐ。」 素直に頷く。 「そう、それでいいのよ……さて、お利口な『贄』にはご褒美を与えなくては、ね。」 にちゅっ。にちゃっ。 「えへへ……わたしの手で、いっぱい気持ちよくなってね……。」 なでなで。 「むっ…むぐぅっ…。」 比良坂の手とお嬢ちゃんの手が、俺のモノに絡みつき。 「――さんの此処は、本当に正直なのだから。  本当に…こんなに、硬くて……。」 「お兄ちゃんのココ、すっごく熱くって…ビクビクしてる。  …凄くえっちだよ、お兄ちゃん。」 耳元で吐息交じりに比良坂が囁き、お嬢ちゃんが潤んだ瞳で俺を見つめる。 「ほら…もうそろそろ、我慢できないのではなくて?」 「……お兄ちゃん、いいんだよ?びゅくびゅくって……白いの、出しても…。」 「う…あっ……!」 ……こうして、女郎蜘蛛と悪霊の色香に俺が惑わされている間に。 「……うん。ありがとう、おばあちゃん!  それじゃ、お休みなさいっ。」 がちゃり。 「父様のお休み、取れたよ……って、あーっ!?」 「ふふ…悪い『贄』ね。  私の手を、こんなに白く穢して……んっ。」 「…わたしの手、お兄ちゃんのでベトベトにされちゃった。  ……ほら、こんなにいっぱいくっついて……あむっ。」 指にこびり付いた塊を、俺に見せ付けるように舐め取る比良坂。 一本一本丁寧に、俺のモノで汚れた指をしゃぶるお嬢ちゃん。 「二人とも、私が電話してる間にずるいっ!」 「失礼ね。私は――さんが邪魔をしないように止めていただけだと言うのに。」 「そうだよ、鈴音ちゃん。  わたしもお兄ちゃんが邪魔しないように止めてただけだもん。」 「それなら別にえっちな事しなくても大丈夫でしょっ!!」 …今度は比良坂&お嬢ちゃんVS鈴音か。 いやまあ、結局は3人とも仲が良いんだけど。 「…大丈夫よ、鈴音。ほら……見て御覧なさいな。」 「…もう。お兄ちゃんってば、また…こんなに、おっきくしてる。」 「……父様、凄い。」 「あーもう五月蝿いっ。  それもこれも、全部お前達が悪いんだろうがっ。」 目の前で美少女3人が裸ワイシャツで居たら、俺じゃ無くても 反応しない方がおかしいだろう。 「仕方が無いわね。  『贄』の欲望の面倒を見るのも、また…主としての勤めなのだから。」 「お兄ちゃんが満足出来るまで……いっぱい、びゅくびゅくって出していいからね?」 「今日も、私のナカを…白く穢して、父様っ。」 「……。」 三者三様のおねだり。 それを聞き、俺の理性は……あっさりと、崩壊した。 「…全部お前達が悪いんだからな。  今更駄目って言っても、容赦無く犯すからな。  だから……覚悟しろ、3人共。」 「……ええ。」 「……ん。」 「……はい。」 俺の言葉に、頬を染めて嬉しそうに見つめる3人。 そしてケダモノとなった俺は、3人をそのまま押し倒し――。 二日後、会社。 「……おい、馬鹿息子。  今日手伝ってくれる予定の初音ちゃんと由美子ちゃんはどうした?」 「…病欠。」 「妖怪が病欠ってそんな訳あるか。……このケダモノが。」 「……じゃあ、お袋はどうしたんだよ親父。」 「……サボり。」 「あのお袋がそんな訳あるか。……この鬼畜が。」 「…んだとコラァっ!?」 「うるさいボケェっ!?」 お互いに罵り合う駄目人間が二人居たとか、居なかったとか。