「「「………。」」」 ずどーん。 「な、なんか凄いプレッシャーだな……。」 「ふむ……我がクラスメートとは思えない静まり具合だな。」 1時間目、教室。 俺と高田はいつもと雰囲気の違う教室の中に居た。 「なあ、委員長……。」 「黙れ。話しかけるな。体重が増えたらあんたの所為よ。」 「んな無茶苦茶な……。」 身体測定。それがこの異様な雰囲気を作っている原因だった。 「……高田。お前の彼女がいつもより2割増ぐらいで怖いんだが。」 「……その台詞、そっくりお前に返していいか?」 高田がこっそりと指差す先。 其処には……。 「「………。」」 ごごごごごご。 矢鱈と恐ろしい雰囲気を纏った人外のお嬢様二人が居ました。 「いや、あの、お二人さん……?」 「…お黙りなさい。」 「…お兄ちゃん、後にしてくれる?」 ぎろりっ。 「……はい。」 あっさりと撃退され、俺は高田の席の近くへ。 「…怖いぞ。」 「…怖いな。」 二人して、ブルブルガタガタと震える事、暫し。 「それじゃ、女子は保健室で身体測定だぞー。」 「「「………。」」」 がたんっ。 ざっざっざっ。 「……ウチの女子諸君は、何時から軍隊になりましたか、高田さん?」 「…そんなのを俺に聞かれても困る。」 何故かちゃんと二列に並び、比良坂とお嬢ちゃんを含む女子クラスメートは 保健室へと向かっていった。 「さて…残りのむさ苦しい連中は適当に自習でもしてろ。」 「うわ、この適当さは何だ。」 「喧しい。それとも真面目に授業した方がいいのか?」 「いえ、適当に自習で結構で御座います。」 高田の言葉を聞き、担任は黒板に大きく『自習』と書くと、教卓に突っ伏した。 ……寝るなよ。 「さて……真面目に勉強する気も無いし、何をするかなぁ…。」 「……。」 きらーん。 「……おい、其処の高田の助。」 「…何かな、マイフレンズ?」 「早速お前は何処へ行こうとしてるんだ?」 何故か忍び足で席を立った高田に突っ込みを入れる。 「はっはっは……ちょっとお花を摘みに。」 「そうかそうか、トイレじゃ仕方無いな……って、んな妖しい動作をしてて  信用出来るかっ。」 「そんな事を言うな。  男として、お約束の行為をしてくるだけだ。」 「……つまりは、覗きをすると言いたいのか?」 「オフコース。当たり前じゃないか。  此処で覗きをしなければ、逆に女子諸君に失礼だろう?」 大きく胸を張る高田。 「なるほど…つまりは、比良坂や水沼さんも覗く、って事かな?」 「……いっ!?」 ごごごごごご。 「……お前は本当に懲りない奴だな、高田。  ま、いい薬だ。…軽く死んで来い。」 「すでに死亡判定っ!?」 引きつった顔で担任に叫ぶ高田。 そしてそんな高田と誰も顔を合わせない男子クラスメート諸君。 「……いやほら、勿論冗談ですよマイフレンズ?」 「はっはっは……喧しいわこのエロ生徒会長っ!!」 「うわなにをするー!?」 ……暫くして、身体測定と言う審判を終えた女子クラスメート達が戻ってきた。 「る〜るる〜♪」 浮かれている者。 「……欝だ死のう。」 笑えないぐらいに落ち込んでいる者。 …いや、勿論至って普通な奴も居たんだけど。 そして。 「…まったく、面倒な。」 「うふふふふ……。」 さもどうでもいい感じの比良坂と、何か浮かれまくっているお嬢ちゃんが戻ってきた。 更に、その後ろには。 「…ナナちゃん、元気だしなよ。」 「……無理。」 物凄い凹んだ夏木と、夏木を一生懸命慰める委員長の姿が。 ……なんだ。一体何があったんだ。 「えーと……とりあえずは、おかえり。」 「…お兄ちゃんっ!」 がしっ。 「うをっ!?」 「聞いて聞いて、お兄ちゃんっ。」 いきなり俺の腕に抱きついてくるお嬢ちゃん。 「な、何を?」 「えへへ……わたし、おっきくなったの♪」 「……はい?」 おっきくなった?何が? …ああ、なるほど。 「そっか…成長しないと思ってたお嬢ちゃんの背丈も、少しは伸びたのか……。」 妖怪とか悪霊とかでも、成長する事があるのか。 なんでかは分からないけど…良かった良かった。 「……むーっ。」 ぎろりっ。 「あ、あれ?」 さっきまでの笑顔は何処へやら。 今度は、俺を思いっきり睨みつけてる大悪魔が一人。 「ちーがーうーのーっ。  背丈は残念ながら伸びなかったけど…それとは別のところが、おっきくなったの♪」 「…別って言うと……。」 考える。考える。考える。 ……はて。 「……手の大きさとか?」 「……あちゃー。」 「うわ、思いっきり地雷踏んだわ。」 やれやれ、って感じでお手上げのポーズを取る委員長と夏木。 …とりあえず夏木。お前がその台詞を言うな。地雷踏むのはお前の担当だろうが。 「…お、お兄ちゃんの……アンポンタンっ!!」 ごすっ! 「めぽっ!?」 電光石火のアッパーを喰らい、俺は綺麗に吹き飛ばされた。 「ぐふっ…。」 「おーにーいーちゃーんーっ!!」 ごごごごごご。 「うわなんだか良く分かって無いけどごめんなさいーっ!?」 「むー…本当に分からないの?」 「えーと……。」 お嬢ちゃんに半目で見つめられ、俺は脳内データベースを検索する。 ……検索結果、1件。 「もしかして……胸、ですか?」 恐る恐る問いかけると。 「……うんっ♪」 にっこりと笑みを浮かべ、お嬢ちゃんが頷いた。 そして。 「「「………嘘だっ!!!」」」 「うをっ!?」 「にゃっ!?」 突如立ち上がるクラスメート達。 「そんな…そんな馬鹿なっ!?」 「水沼さんが…水沼さんが成長してしまったなんてっ!?」 「駄目だっ!神が許そうが悪魔が許そうが、俺は許せないっ!」 「ロリーな体型の水沼さんが、あたしは好きなのにっ!!」 「……あ、でもグラマラスな水沼さんも良くない?」 「「「この裏切り者っ!!」」」 「いや……実は俺も、ロリ巨乳でランドセル背負った水沼さんもいいんじゃないかって…。」 突然始まる論議。交わされる激論。 本当に馬鹿な会話が目の前で繰り広げられる。 「……お兄ちゃん。」 「な、なんでせうか。」 「…ワタシ、ココノヒトタチ、マルカジリ。」 「いや不味いからお嬢ちゃんっ!会話が某女神○生シリーズになってるし!!  って言うかこの状況をなんとかしろよ担任っ!?」 今すぐにでも喰ってしまいそうなお嬢ちゃんを抱きしめて押さえつつ、俺は 顔を担任の方に向ける。 「……おっきくなってなかったの。  水沼さんだっておっきくなったのに、私、全然おっきくなってなかった…。」 「い、いや。俺は別に、奈那美の胸が大きかろうと小さかろうと…。」 「でも……先生の持ってる本、胸のおっきな絵ばっかり……。」 「いつの間にそれをっ!?」 「あんなにいっぱい、愛して貰ったのに…。  いっぱい指で弄られたり、乳首を甘噛みされたり、私がいっちゃうまでずっとしゃぶられたり……。」 「ま、待て!そんな事をこんな場所で言わないでくれっ!?」 自分が弄ばれてるシーンを思い浮かべて、うっとりとした表情で語る夏木と、真っ青な顔の担任。 担任、あんた何をやってるんだ。 ……いやまあ、人の事はあんまり言えないんだけど。 「………そっか。まだ足りないんだ。」 「……はい?」 「きっと、まだまだいっぱい愛されないと駄目って事なのね?  ――のように、もっと先生にケダモノになって貰わないと……。」 ぽっ、と頬を染める夏木。 つーか、俺の事を好き勝手言ってるんじゃねぇぞコラ。 「えーと、奈那美さん?」 「でも…今でも、先生に簡単にいかされちゃうのに……これ以上だなんて……。  ……えへへ、もっと先生にメロメロになっちゃう♪」 …もういいや。見てる俺が砂を吐きそうだ。 あの二人は放置する方向で。 「……いいよね、お兄ちゃん。わたし、頑張ったよね?」 「なんかその台詞も結構危険だから!つーか現実に帰ってきてくれお嬢ちゃんっ!?」 流石に、俺以外に対するスプラッタは不味いから! 「…いい加減になさい、小娘!」 ごすっ。 「きゃんっ!?」 俺の後ろから、手刀一閃。 そしてそれを喰らったお嬢ちゃんは頭を抱えて蹲る。 「あうううう……。」 「これで少しは目が覚めたのではなくて?」 「……そうっぽいな。  ありがとう、比良坂。」 「…別に。これ以上騒がしくされるのが嫌なだけよ。」 さも当たり前の様に言う比良坂。 …そういいながらも、いざって時はお互いにフォローしてるんだよな、二人とも。 「…人の顔を見てにやにや笑うのはどう言う事かしら、――さん?」 ぎろり。 俺の考えている事に気づいたのか、比良坂がこれでもかってぐらいに鋭い視線を向けてきた。 でも……結局それも、ただの照れ隠しだって俺は分かってるから。 「…別に。比良坂はやっぱり優しいんだなって思っただけだ。」 「っ……!」 ぼんっ。 一瞬にして、比良坂の顔が真っ赤に染まる。 …ああもう、本当に可愛い奴め。 「……そして勿論、お嬢ちゃんも可愛いと思ってますよ?」 「…むー。」 俺の言葉が効いたのか、背中から冷たい感触が消える。 …またもや特殊隠密携帯用鉈ですか、お嬢ちゃん? って言うか此処は何時から雛見沢? 「お兄ちゃんは許してあげるとして……いきなりチョップなんて、  酷いとは思わないんですか比良坂さん?」 「怒りのあまりに我を忘れていたのを止めてあげたのだから、  むしろ感謝するべきでは無くて、小娘?」 俺を間に挟み、お互いをにらみ合う二人。 …出来れば俺を間に挟むのを止めて欲しいんだけど。 「……まあいいです。  今日は非常に機嫌が良いので、許してあげましょう。  だって……。」 ぎゅっ。 「ほら、お兄ちゃん……胸がおっきくなったの、分かるでしょ?」 「えーと…。」 ごめん、お嬢ちゃん。 抱きつかれても、正直分からない。 「正直に言っても良いのよ、――さん。  …たかが1センチ大きくなったぐらいでは変わらないのだと。」 「な、なんて事を言うんですか比良坂さんっ!  その1センチの為に、どれだけの乙女が泣いた事かっ!!」 握りこぶしを作り、がおー、と吼えるお嬢ちゃん。 「それに、半年で1センチって事は1年で2センチです。  5年経てば10センチ、10年経てば20センチ……比良坂さんなんて、鼻で笑ってあげます。」 「それはまた、随分とのんびりした育成計画で……。」 いやまあ、妖怪だから寿命なんて無茶苦茶長いし、分からなくも無いんだけど…。 「それに、毎年必ず1センチ増えるとは限らないんじゃ……。」 「……。」 じーっ。 「……ふ、増えるかもね。いや、きっと増える。うん。」 …そんな涙目で見つめられたら、否定的な意見は言えません。 「……兎も角っ。  わたしも成長するって事が分かったんだから、いつかは比良坂さんに勝てますっ。」 「そう……なら、一つだけいい事を教えてあげるわ。」 薄い笑みを浮かべながら、比良坂が俺とお嬢ちゃんの前に何かを差し出す。 「…測定結果の紙?」 「これが、どうかしたんですか?」 「よく御覧なさい。  …――さんにとっては、とても良い事かもしれないわね。」 紙を見る。 勿論測定結果だから、比良坂を測ったサイズが書いてある訳で……。 ……あ。 「…お、お兄ちゃん?どうして紙をたたむの?」 「……いいんだ。俺だけが知ってればいいんだ……。」 …いかん。この内容は、お嬢ちゃんには見せられない。 「むー…何が書いてあったの、お兄ちゃんっ。」 「…なんでもないよ。なんでもない。」 「……えいっ。」 びきっ。 「ぐっ!?」 か、身体が…動かないっ!? 「…絶対に見るもんっ。」 動けない俺の手から、お嬢ちゃんが紙を奪う。 そして。 「………はうっ!?」 紙を握りしめたまま、動きが固まるお嬢ちゃん。 「ふふ…成長したのは、何も貴女だけでは無いのよ?」 ……そう。お嬢ちゃんが成長したなら、比良坂だって成長してもおかしくないのだ。 そして……。 「さ、さんせんち……しゃあせんよう……。」 「それだけ、――さんに愛されていると言う事ね。……ふふ。」 比良坂はお嬢ちゃんの3倍、3センチ大きくなっていた。 これじゃ、いつまで経っても追いつかないだろうな。 ……って言うかお嬢ちゃん、何気に壊れてませんか? 「お、お嬢ちゃん?」 「……ま、まだ手はありますっ!」 びしっ。 「比良坂さんが3倍なら、こっちが4倍成長すればいいんですから!」 比良坂を指差しつつ、お嬢ちゃんが宣言する。 「いや、その……どうやって?」 「……い、今考えてるもんっ。」 「お止めなさいな。どう考えても無理でしょうに。」 「んなあっさりと…。」 「…ならば、何か方法でもあるのかしら?」 「急にこっちに振られても……。」 比良坂に問われ、俺も少し考えてみる。 うーん…確か、いっぱいえっちな事をすると、ホルモンの関係で大きくなるとか聞いた事があるけど。 ……つまりは、今までの4倍、お嬢ちゃんとえっちな事をすればいいのだろうか? 「お、お兄ちゃん……本気?」 「…うぇ?」 気がつくと、困ったような、でも嬉しそうな顔で俺を見つめるお嬢ちゃんが目の前に。 「そ、その、お兄ちゃんが頑張ってくれるなら、わたしも一緒に頑張るけど……。  …今よりもっと凄いケダモノなお兄ちゃんなんて……わたし、倒れちゃうかも。」 「……また喋ってましたか、俺は。」 いい加減、この癖も治ってくれないだろうか…本当に。 「と言う訳で、今日から一緒に頑張ろうね、お兄ちゃん♪」 「って、決定ですか!?」 「……駄目?」 じー。 お嬢ちゃんの上目遣い。回避不能。 「……い、一応お試し期間って事で。」 「……ん♪」 「ちょ、ちょっとお待ちなさい二人とも!」 「なんですか3センチも胸が大きくなった比良坂さん?  あー羨ましいです。本当に羨ましいですねー。」 立場逆転。 今度は比良坂が慌てだし、お嬢ちゃんがにんまりと比良坂を見つめる。 「――さんも、何を馬鹿な事を…。」 「…それを言うなら、こんな風にお嬢ちゃんを煽ったのは誰だ?」 「う…。」 俺の指摘に、うめき声をあげる比良坂。 「つー訳で…今回はお前が悪い。」 「くっ……。」 「ふふーん。策士策に溺れるって奴ですねー。」 えっへん、とちょっと大きくなった(らしい)胸を張るお嬢ちゃん。 ……ごめん。やっぱり分からない。 「…なら、わたく」 「真面目で清楚で清らかな比良坂さんは、まさかお兄ちゃんに  『大きくして欲しい』なんて言いませんよねー?」 「っ……。」 お嬢ちゃんの言葉の刃。比良坂に効果的だ! ……いやいや、某ポケモンしてる場合じゃ無くて。 「あー、お嬢ちゃん?」 「……むー。」 「……駄目?」 今度は俺が、お嬢ちゃんを見つめる。 「…ずるい、お兄ちゃん。」 ぎゅ。 「結局は、比良坂さんを庇うんだから…。」 「…ごめんね。でも、比良坂もお嬢ちゃんも、どちらも大切だから。」 「…今回だけなんだからね。」 「ありがと。」 お嬢ちゃんの頭を撫でつつ、俺は苦笑した。 …その今回だけって、今度で何度目だろうなぁ。 「んで、其処の比良坂さんや。」 「…何かしら?」 「さっき…なんて言うつもりだったんだ?」 「っ!」 ぼんっ。 またもや真っ赤に染まる比良坂の顔。 …くそう。可愛いじゃないか。 「な、なんでも無いわっ。」 案の定、そっぽを向いて知らん振りをする。 「…あー、そうそう。  最近は胸のマッサージをするのが若者の流行らしいぞ。」 「……。」 ちらり。 無茶苦茶な俺のフォローに、あっさりと食いつく比良坂。 ……いや、冗談だって分かってるよな?本気で信じてないだろうな? 「と言う訳で……『贄』としては、主である比良坂にマッサージをお勧めしたいんだけど。」 「…其処まで、どうしてもと、――さんが言うならば……仕方が無いわね。」 どうしても、の部分に力を入れる比良坂。 …相変わらず素直じゃ無いんだからなぁ。 「へー…そうなんだ、お兄ちゃん?」 「…え?」 見ると、にこにこと笑みを浮かべるお嬢ちゃんが。 ……あ。しまった。 「…勿論、お嬢ちゃんにもマッサージをさせていただきます。」 「ん♪」 いやまあ、コレは比良坂に嘘がばれない為だ。仕方の無い事。 ……決して、二人の大きくなったと言われる胸を堪能しようとしてる訳では無い。全然無い。 「……ねえ、そろそろいいかしら其処のバカップル共?」 「誰がバカップルか!」 「誰がバカップルよ!」 背後からの委員長の突っ込みに、俺と比良坂が同時に吼える。 「…水沼さん。第三者として見て、どう思う?」 「どー見てもバカップルですよね。  ……わたしとお兄ちゃんも、バカップルですけど♪」 「…し、失礼ね。」 「って言うかお嬢ちゃん、バカップルって喜ぶところだったんだ…。」 身内のお嬢ちゃんにバカップルと言われると、ちょっと凹む。 …家ではそうかもしれんが、外では抑えてるつもりだったんだが…。 「…で、何の用だ。」 「大した事じゃ無いんだけど…さっきから、高田の姿が見えないのよね。」 きょろきょろと教室を見回す委員長。 「…あー。  ……居場所、一応知ってる。」 「あ、そうなんだ。…で、何処?」 「……とりあえず、先に謝っとくな。すまん。」 「は?」 きょとんとする委員長を無視し、俺は目的の場所――掃除道具が入ったロッカーへ。 「……後は任せた。」 がちゃり。 ロッカーの扉が開けられると、其処には――。 「………た、高田ーっ!?」 「…まだ顔が痛い。」 「あはは……でも、『贄』なのにまだ痛いの、お兄ちゃん?」 放課後、家。 顔を擦っていた俺の左側に、パジャマ姿のお嬢ちゃんが腰を下ろした。 「渾身のアイアンクローだったからね……。」 「…あの状態の高田さんを見たら、そうなっても仕方無いと思うよ。」 「…反省してます。」 そりゃあ…ボロクズ状態になった彼氏が、ロッカーから簀巻き状態で出てきたら激昂もするよな。 でも謝らない。悪いのはアイツだ。 事もあろうに、比良坂とお嬢ちゃんを狙おうなんざ……もうちょっと厳しくても良かったか? 「あれよりも厳しくしたら、普通の人間は死んでしまうでしょうに…馬鹿ね。」 同じくパジャマ姿の比良坂が、俺の右側に腰を下ろす。 「って、なんで俺の考えを……。」 「…また口に出していたわよ。」 「……さいですか。」 うーむ、相変わらず治ってないのか…。 「まったく…――さんは、少し己を抑える術を学ばなければいけないわね。」 「……うい。頑張ります。」 そうだよなぁ…比良坂やお嬢ちゃんの事になるとあっさりと切れてしまうのも、 ちゃんと治さないと……不味いよなぁ。 「まあ…主が穢されるのを護った、と言う部分は評価しても良いと思うけれども、ね。」 ぽふ。 そう言いながら、俺の肩にもたれ掛かって来る比良坂。 「………ありがとう、――さん。」 俺の耳に、囁くように…そっと、呟いた。 「…別に。『贄』として、当たり前の事をしただけだ。」 「…ええ。『贄』として、当たり前の事をしただけね。」 きゅ。 更に身体を寄せた比良坂が、俺の胸に顔を埋め。 「ふふ…。」 「…なんだよ。」 「別に…ただ、笑っただけよ。」 「……そーですかい。」 くそう。 日頃俺が照れる比良坂をからかってるから、今日はその仕返しって訳か。 ま、こんな復讐なら……大歓迎なんだけどな。 「…お・に・い・ちゃ・ん?」 「いやもう本当にすみませんでしたですから何卒ご容赦をっ!?」 そしてお嬢ちゃんの嫉妬はマジで勘弁して下さい。 ……いや、嫉妬だけならいいけど、その後の鉈とか鋸とかアヒル隊長とかは痛いから。 「…むー。  お兄ちゃんは、すぐに比良坂さんとデレデレするんだから…。」 ぽふ。 お嬢ちゃんも負けじと、俺に身体を摺り寄せてきた。 「ね、お兄ちゃん。」 「ん?」 「…マッサージって、お風呂上がりにすると効果が更に上がるって言うよね?」 「は…?」 「……ね?」 じー。 「…ま、マッサージだからね。別にえっちな事じゃ無いよ?」 誰に言ってるのかは分からないけど、とりあえず言い訳。 よし、論理武装完了。 「それでは……って。」 ちゃきっ。 「えーと……比良坂さん?  俺の喉元にある、このよく尖ってて刺さったら間違いなくとんでも無い事になるコレはなんでせう?」 「…ちょっとした手違いよ。気にしなくていいわ。」 「手を『化身』させといて、ちょっとした手違いかよ…。」 刺さったら確実に死ぬだろ、コレ。 つーか、むしろそのまま首ぶった斬る気だろ。 「…邪魔する気ですか、比良坂さん?」 「邪魔も何も、こんな場所で淫らな行為を行うのを止めているだけよ。  別に悪い事をしている訳では無いわね。」 「……日頃たっぷりとえっちな事をしてる人が、良く言いますね?」 「……その台詞、そっくりそのままお返しするわ。」 「えっと、その……お二人さん?」 ごごごごごごごごごごごご。 「「………コロス。」」 俺を間に挟んだまま、戦闘態勢に入ろうとする二人。 って言うか、また俺は虐殺されますか?そして部屋は滅茶苦茶に? ……それは不味い。俺は復活するけど、部屋は戻らないんだっ。 「……お祈りは済んだかしら、小娘?」 「……辞世の句は書きましたか、比良坂さん?」 うわー……『化身』してるわ凶器浮いてるわ、すでに殺る気十分ですね? …って、現実逃避してる場合じゃ無くて。 こ、こうなったら……! 「……てぇいっ!!」 むに。 むにゅん。 「きゃんっ!?」 「ひゃんっ!?」 二人の肩に手をまわし、そのままパジャマの中に手を入れる。 「ちょ、――さんっ……んんっ!」 「お、お兄ちゃん……やんっ!?」 「二人とも、喧嘩は無し。  その代わり、大人しくしたらちゃんと……マッサージしてあげるから。」 むにむに。 むにゅむにゅ。 「んぅっ……な、何を馬鹿な……あ、摘んだらっ…。」 「ひゃ……だ、駄目っ……くりくりしちゃっ…。」 効果覿面。 うっすらと頬を赤く染めつつ、二人は声を上げる。 「…どうする、二人とも?まだ喧嘩をするつもりか?」 「……――さんの、ケダモノっ…。」 「…お兄ちゃんの、えっちっ……。」 荒く息をしつつも、俺を必死に睨みつけようとする比良坂。 それとは反対に、潤んだ瞳で俺を見つめるお嬢ちゃん。 「どうする、お嬢ちゃん?」 「……止める。止めるから……おにいちゃぁんっ。」 「…ん。いっぱい、マッサージして……可愛がってあげるね。」 完全に身体を俺に預けたお嬢ちゃん。 そんなお嬢ちゃんにマッサージを施しながら、今度は比良坂の方を向き。 「さて、お嬢ちゃんは言う事を聞いてくれたけど……比良坂?」 むにゅむにゅ。 「…んくっ……私は、『贄』の言葉なんか…んっ…には……屈しないわよ。」 「……好き勝手俺に胸を揉まれて、言う台詞じゃ無いと思うんだが…それなら仕方が無い。」 「きゃっ!?」 無理矢理比良坂を抱き寄せ、至近距離で比良坂を見つめる。 「…――さん?」 「こうなりゃ最終手段だ。  言う事を聞くようになるまで、今からずっと……。」 「ずっと……何かしら?」 何かを待ちわびるように、俺を見つめる比良坂。 ……もう分かってるのだろう。俺が何を言うのかを。 ならば…比良坂の期待通りに。 「……お前を、犯す。」 「っ…!  ……で、出来るものならやって御覧なさい。  『贄』の分際で、私にそのような事が出来るのならば、ね。」 「…分かった。  今日は特に念入りに、たっぷりと……身も心も逆らえなくなるまで、可愛がってやるからな。」 「…好きになさい。……馬鹿っ。」 でもって、翌日。 「えー、担任の先生が体調不良との事なので、今日はお休みです。」 「「「………。」」」 じー。 「ち、違うわよっ!別にあたしが無理させた訳じゃ無いんだからっ!!」 朝のホームルームで、みんなから生暖かい視線を浴びる夏木の姿があったり。 でもって。 「それは分かったんだけど……高田も休みなのか、委員長?」 「……体調不良だそうです。」 「「「………。」」」 じー。 「………なんか文句でもあんの?」 「「「……無いっす。」」」 わきわきと手を動かす委員長の前に、誰も突っ込めなかったり。 ……そうか。高田も委員長に搾り取られたか。 「で……あんたが管轄の二人はどうしたのよ?」 「………体調不良で今日はお休みです。」 「……はいはいケダモノケダモノ、っと。」 「無茶言うなっ!!別に、俺が無理矢理した訳じゃ……。」 「…訳じゃ、何?」 「………なんでもない。」 結局は胸どころか全身くまなくマッサージしてしまった手前、あながち否定も出来ない俺だった。