「ふぁ……朝か。」 自室。 ベッドで目を覚ました俺は、伸びをしようとして……片方の腕が動かない事に気がついた。 「…またか。」 苦笑しつつ、俺はその『原因』……素っ裸のまま俺に抱きつく比良坂を見つめていると。 「……やっぱり此処に居た。」 にゅっ。 「うをっ!?」 床をすり抜けて、お嬢ちゃんが登場。 「お、おはよう…お嬢ちゃん。」 「……。」 じろりっ。 俺の言葉に答える事は無く、お嬢ちゃんは俺を思いっきり睨みつけた後。 「…もう絶対、比良坂さんをお布団の中に入れないって約束したよね、お兄ちゃん?」 「ええっと……それはですね、お嬢ちゃん。  決して俺から入れた訳では無くて、比良坂が勝手に入ってきてる訳でして……。」 比良坂は寒さに弱い。しかも極端に。 そして……それを言い訳にして、俺のベッドに忍び込んでくる。 「つまり…お兄ちゃんは気づいていなかったって事?」 「…そう言う事になりますでしょうか。はい。」 「…ホント?」 じーっ。 「……ごめんなさい。知ってました。」 …一回は断ったけど、身体を震わせる比良坂を見て拒絶出来る程、俺は強くなりませんでした。 「……むー。  お兄ちゃん、甘すぎっ。」 「そ、そんな事言われても…本当に寒そうにしてる比良坂を見たら、断れないって。」 「…お兄ちゃん、一つだけいい事教えてあげる。」 そう言って、お嬢ちゃんは比良坂を睨みつつ。 「本気で寒さに弱い比良坂さんが……『巣』からお兄ちゃんの部屋まで、  素っ裸でやって来る理由って、何かな?」 「え?……だから、寒いから、俺を湯たんぽがわりにしたいって事じゃ……?」 「ううん、其処じゃ無くて。  ……そもそも、寒いなら着込んだまま部屋に来ればいい事でしょ?」 「……おお。」 お嬢ちゃんの言う通り。 「更に言えば…どうして『素っ裸』で寝た方がいいのかな?  普通にパジャマを着て寝た方が、よっぽど暖かいと思うけど。」 「……い、言われてみれば。」 「答えは簡単。  寒さに弱いって事にかこつけて、お兄ちゃんを誘惑して……イケナイコトを考えてたから。  …そうですよね、寝たふりを続けてる比良坂さん?」 「……ちっ。」 言葉と共に、比良坂の目が開く。 「比良坂…起きてたのか?」 「…――さんより、遥かに前に起きてたわよ。」 さも当たり前のように言う比良坂。 そして、お嬢ちゃんの方を見て。 「……余計な事を。」 ぎろり。 物凄い顔でお嬢ちゃんを睨みつける。 「「……。」」 かさかさかさ。 ふよふよふよ。 大量に子蜘蛛が沸き、空中には凶器が浮かぶ。 まさに一触即発な雰囲気の中、俺は。 「……ていっ。」 ぐいっ。 「にゃっ!?」 お嬢ちゃんの手を掴み、ベッドに引っ張り込む。 「お、お兄ちゃん!?」 「あー…ほら。  比良坂の思惑を気づかなかったのは俺が悪い訳で。  でもって…お嬢ちゃんに気づかれないように出来なかったのも、俺が悪い訳で。  ……つまりは、全部俺が悪いって事に出来ない?」 ぎゅうっ。 二人を胸元に抱き寄せる。 「……お兄ちゃん、ずるい。  そんな風に言われたら……怒れなくなっちゃうよ。」 俺の胸元に頭を擦り付けつつ、呟くお嬢ちゃん。 「……比良坂も、それでいいか?」 「……ふん。」 きゅ。 不機嫌そうにしつつも、更に俺に抱きつく比良坂。 「…ありがとう、二人とも。」 やれやれ…これで、なんとかなったかな? 「でも、お兄ちゃん……寒いからって勝手に人のベッドに入ってくる行為は、  なんとかしないといけないんじゃないかな?」 にっこり。 物凄く良い笑みを浮かべるお嬢ちゃん。 つまり…比良坂の事は譲歩出来ないって事ですか。 「何を馬鹿な事を。  『主』である私を寒さから護る為に、『贄』をどう使おうと、文句を言われる筋合いは無いわ。  ……ねえ、――さん?」 にっこり。 やっぱり物凄く良い笑みを浮かべる比良坂。 ……こっちも譲るつもりは無い、と。 「…力を使えば寒さも熱さも関係無いですよね、其処の狡賢い蜘蛛女さん。」 「…そのような事に力を使うぐらいなら、何処かの小娘を屠る為に力を使うところじゃなくて?」 「いや、あの…お二人さん?」 「「……殺す。」」 うわあ…また元の状況に戻った。 むぅ、こんな時は……うむ、寝るか。 ……こらそこ、現実逃避って言わない。 「はいはい、二人とも落ち着く。」 ぎゅむっ。 「あっ…。」 「な、何を…。」 少し強めに二人を抱き寄せる。 「その辺については、ちゃんとみんなで話し合おう。  でも…今は二人とも頭に血が上ってるから、話し合いよりは殺し合いになりそうだし。  つー訳で……頭を冷やす為にも、みんなで二度寝しよう。」 「……そ、そんな事じゃ誤魔化されないもんっ。」 真っ赤な顔をしながらも、俺を睨むお嬢ちゃん。 そんなお嬢ちゃんを、俺はただじっと見つめる。 「……わ、わたしは比良坂さんとは違うもんっ。  お兄ちゃんに、じーって見つめられたって……わたしは……。」 「……。」 「……きょ、今日だけだからね。  この次は、絶対に許してあげないもんっ。」 うむ、勝った。 …なんか色々間違ってる気がするが、まあ良しとしよう。 「と言う訳なんだけど…比良坂?」 「……。」 言葉をわざと無視して、比良坂は俺を見ようとしない。 「…比良坂。」 「わ、私を誤魔化そうとしても無駄よ。  ……小娘と同じ手にはのらないわ。」 「…もしかして、引っかかりそうな気がしてるとか?」 「ぐっ……。」 俺の言葉に、比良坂の顔が歪む。 「生まれたての妖怪であるお嬢ちゃんならまだしも、とても強い大妖怪である  比良坂なら、全然大丈夫だと思うんだがなぁ……。」 「……も、勿論よ。  小娘なら兎も角、私に――さんの策など通じないわ。」 「なら……俺と目を合わすぐらい、問題無いよな?」 「…………当然でしょう。」 長い沈黙の後、ようやく比良坂が俺を目を合わせる。 俺は、そんな比良坂の髪をゆっくりと鋤きながら。 「……俺と寝るの、嫌か?」 「……〜〜っ!」 ぼんっ。 一瞬にして、比良坂の顔が真っ赤に染まる。 …狙ってた行動とは言え、其処まで凄い事もしてないと思うんだが。 ……まあいいか。 「……じゃあ、今日だけ我慢してくれ。  それだと、俺も有難いんだけどな?」 「…し、仕方無くよ。  決して、決して嬉しくなど無いのよ!分かってるわね、――さんっ!?」 「お、おぅ……。」 うむ…相変わらず俺の言葉にあっさりとのせられる奴だ。 俺、完全勝利。 「んじゃ…そう言う事で、寝ますかね。」 「はーい。」 元気良く返事をするお嬢ちゃん。 そして、そのまま服を……って。 「あの…お嬢ちゃん?  何故に服を脱ごうとされているのでしょうか?」 「だって……今から、お兄ちゃんと一緒に寝るんだよね……?」 そう言いながら、手際よく服を脱いでいくお嬢ちゃん。 「それとも…絶対に、えっちな事しない?」 「……う。」 絶対に、と言われてしまうと……約束出来ない自分が悲しい。 「それに……比良坂さんだけ裸なのは、ずるいもん。」 「いやいや、其処は全然羨ましがる部分じゃないでしょ!?」 だが、俺の突っ込みもあっさりとスルーされ。 「…お待たせ、お兄ちゃん。」 ぱさり、とショーツが床に落とされ。 目の前には、裸になったお嬢ちゃんが。 「……えいっ。」 きゅっ。 そのまま飛び込むようにベッドの中に入り、俺に抱き付いてきて。 「う、ぉ…。」 お、お嬢ちゃんの柔肌がっ。 そして、仄かに香る……女の子の匂いがっ。 「さ、お兄ちゃん……一緒に寝よ♪」 「あ、うぅ……。」 にっこりと笑いながら、更に俺に身体を摺り寄せてくるお嬢ちゃん。 こ、この子は……分かってて、こんな事をしてるに違いない。 「……。」 ぎゅうっ。 「ひ、比良坂っ!?」 「……寒いのだから、身体を寄せ合うのは当然でしょう。」 そして案の定……お嬢ちゃんと俺のやり取りを見てた比良坂も、同じ事をする訳で。 「…比良坂さん、お兄ちゃんが嫌がる事をしないで貰えますか?」 「…その貧相な胸じゃ、――さんも悦ばないと思うのだけれど?」 「だ、誰がナイチチですかっ!67AAよりはありますっ!!」 「……えーと、そう言う具体的な表現は止めようね。お願いだから。」 色々と敵に回しそうで怖いから。具体的には式守な方とか。 「……まあ、それも――さんを見れば分かる事ね。」 「……そうですね。お兄ちゃんの反応で一目瞭然ですから。」 「…あれ?あれれ?」 何故か二人が、俺をじーっと見てますよ? って言うか……この桃色っぽい雰囲気は、何? 「いや、その……俺は今から、二度寝をですね…。」 「……覚悟なさい、――さん。」 「……今日こそは、負けないもんっ。」 がばっ。 ――数時間後。 「すー……。」 「にゅ……。」 「……ようやく寝れるか。」 何故か幸せそうな顔をしたお嬢様が、静かに寝息を立てていた。 まあ、ちょっと汗をかいてたり、所々白濁としたモノが……げふんげふん。 「…起きたら、風呂に入らないとなぁ……あふ。」 いつも通りの一日でしたとさ。