「お兄ちゃん……コレは何かな?かな?」 「う……。」 居間。 俺は正座させられた状態で、目の前のお嬢ちゃんから質問……もとい、尋問を受けていた。 「それは……所謂、えっちな本で御座います……。」 目の前に積まれているのは、えっちな本。 無論、比良坂やお嬢ちゃんにばれないように隠していたつもりだったんだけど……。 ……部屋を掃除していたお嬢ちゃんに、あっさりと見つかったらしい。 「……わたしも鬼じゃないから、えっちな本を持ってても怒りません。  でも……コレはどういう事なのかな?」 そして、えっちな本は鬼では無いけど妖怪なお嬢ちゃんによって、 二種類に分けられて積まれていた。 その分類方法はと言うと。 「どうして……どうして、胸のおっきな本が8割もあるのかなっ!?」 「どうして、と言われますと……。」 「……胸の大きな女性が好みだからに決まっているでしょうに。」 くすり、とソファで笑みを浮かべる比良坂。 「まあ、男として当然の事ではあると思うわね……ふふ。」 「比良坂さんは黙ってて下さいっ!」 ぎろり、と比良坂を睨みつけるお嬢ちゃん。 その表情のまま、俺を睨みつけ。 「……何か言いたい事はあるかな、お兄ちゃん?」 「あー……一応弁明させていただいても宜しいでしょうか……?」 「……一応、聞いてあげる。」 立ったまま腕を組み、俺を見下ろすお嬢ちゃん。 「これはですね……俺が好きな作家さんが、たまたま胸の大きな女性を書く事が  多かっただけでありまして……。」 「……ホントに?」 「いや、ホントに。  だからちゃんと、胸のちっちゃな本もあるでしょ?」 「むー……そう言われると、確かに……。」 お嬢ちゃんの怒り具合が、徐々に下がっていく。 ……ふぅ。なんとかなった……かな? 「…胸の大きな女性を多く書いている作者を好んでいると言う事。  それはつまり……――さんはやはり、胸の大きい女性が好みと言う事では無くて?」 「な……。」 読みかけの本を閉じ、俺に問いかけてくる比良坂。 くっ……また余計なツッコミを。 「……お兄ちゃん。  その辺については、どう思ってるのかな?」 「素直に仰いなさい。  此処できっちりと、小娘の抱いている無駄な希望を壊しておくのも一つの優しさよ。」 「お、おや……?」 何故か知らないけど、いつの間にか比良坂まで仁王立ち。 つーか、いつの間にかいつも通りの『巨乳VS貧乳』な構図になってるんだけど。 「小娘の貧相な身体では満足出来ないから、このような淫らな本を買ってしまうのだわ。」 「わたしはちゃんとお兄ちゃんに満足して貰ってます。  ……むしろ、比良坂さんに満足してないからえっちな本に走ったんじゃ無いですか?」 「「……。」」 ごごごごごご。 二人から漂う、明らかに危険なオーラ。 「……禄に色気も無い小娘の分際で。」 「……満足に悦ばせられないおばあちゃんの癖に。」 ごごごごごごごごごごご。 「だあああっ、とりあえず落ち着けっ!?」 「あー……ホントにいいのか、比良坂?」 「しつこい男は嫌われるわよ、――さん。」 「……んじゃ、するぞ。」 かちゃり。 比良坂の手に、手錠をかける。 「んじゃあ、次は…お嬢ちゃん。」 「…ん♪」 かちゃり。 「……なんだろう。人としてイケナイコトをしている気がする。」 制服女学生手錠拘束プレイ。 ……駄目だ。駄目すぎるぞこのシチュエーション。 「あの……本当に、しなきゃ駄目?」 俺は何とか留まらせようと二人に声をかける。 「こうでもしないと小娘が無能であると納得しないのだから、仕方無いでしょう。」 「胸なんて飾りだと言う事を、其処のマグロなおばあちゃんに実証するいい機会だもん。」 薄く笑みを浮かべつつ。牽制しあう二人。 でも両者とも手錠。 ……そしてお嬢ちゃん、マグロなんて言葉を使っちゃいけません。 「それに……このシチュエーション、お兄ちゃんが持ってる本にあったよ?」 「うぐっ……。」 「……本当にケダモノね。」 「……否定できません。」 だって、それはえっちな本の話ですぜ? まさか実際にするなんて思わないっつーの……。 「兎も角、『贄』として拒否は許さないわよ。」 「ちゃんと協力してね、お兄ちゃん?」 「……分かった分かった、やればいいんだな。」 こうなったら、徹底的にやってやる。 決して俺が望んでいる訳では無く、これは仕方無くやっている事なんだ。 ……よし、論理武装終了。 「ふっふっふ、今日は獲物が二人か。  さて……どちらから先に可愛がってやろうかな?」 にやり。 「……お兄ちゃん、顔が引きつってるよ。」 「……其処の捕まってる筈のお嬢ちゃん、そんな冷静な突っ込み入れちゃ駄目。  減点1。」 「はうっ。」 ごめん、幾ら論理武装しても無理なものは無理でした。 「ふ……無様ね、小娘。」 「……そう言うなら、お手本を見せてくださいよ。」 「お、お手本?」 半目でお嬢ちゃんに見つめられ、少しうろたえる比良坂。 そして。 「……わわわたくしたちをどうするおつもりなのかしら――さんっ!?」 「「……。」」 俺とお嬢ちゃん、思わず目が点。 「……あー、正直すまなかった。」 「……うん。ごめんね比良坂さん。」 「なっ!?」 いや、比良坂はこういう事は苦手だって分かってたんだ。 分かってたけど……俺以上に酷いなこりゃ。 「お嬢ちゃん…どうする?  俺としては、これ以上比良坂を虐めるのはどうかと思うんだけど。」 「うん……わたしもちょっと大人気なかったかなって反省してる。」 「お、お待ちなさい!  これで終わってしまっては、私のプライドに関わるわ!」 珍しく吼える比良坂。 「って言われても……この路線で行くと、無理矢理俺に犯されるシチュエーションだぞ?」 「……問題無いわ。  この私に、その程度の演技が出来ないとでも?」 「「出来てなかった癖に。」」 容赦無いダブル突っ込みが炸裂。 「……五月蝿いわね。  続けると言ったら続けるのよ。」 「分かった分かった。  続けるから腕を『化身』させるのは止めろ。」 手錠を壊さずに『化身』って、器用だけど無駄な動きだよなぁ……って、そうじゃなくて。 「……こほん。  んじゃあ、続けるぞ?」 「き、来なさいっ。」 既に身構えてる比良坂。 ……うーん、どうしたものか。 「…比良坂。」 きゅ。 「あ……。」 そっと比良坂を抱き寄せる。 「……ほら、此処で嫌がる台詞だぞ。」 「え?  ……も、勿論分かっているわよ。少しお待ちなさい。」 「ういっす。  その間、俺は比良坂を好き勝手可愛がってるって事で……。」 なでなで。 さわさわ。 「んっ…こら、――さんっ……。」 「ほらほら、早く台詞を考えないとどんどんえっちな目に遭っちゃうぞー。」 「って、それじゃ全然駄目でしょお兄ちゃんっ!」 「……やっぱり駄目?」 お怒り状態のお嬢ちゃん。 ……って、言われてもなぁ。 「だってなぁ……無理に進めるのもどうかと思うし、こうすれば俺も愉しめちゃったり?」 「駄目って言ったら駄目だもんっ。  それに、比良坂さんが駄目だったら、わたしが――。」 ぎゅっ。 「にゃっ!?」 言葉の途中で、無理矢理お嬢ちゃんを抱き寄せる。 「……なるほど。  姉の代わりに自分が犠牲になると、そう言いたいのだな?」 「えっと……そ、そうです。  お姉ちゃんが貴方の犠牲になるのなら、わたしが代わりになりますっ。」 流石はお嬢ちゃん。 俺の適当なアドリブに、ちゃんと合わせてきた。 「……とまあ、こういうのが見本だぞ比良坂。」 「くっ……わ、私もその程度は……。」 「へー……さっきの大根役者っぷりで、本当に出来るんですか?」 にやにやと笑いながら比良坂を見つめるお嬢ちゃん。 その後、俺の方を見上げて。 「お兄ちゃん……わたし、比良坂さんの代わりだから……。」 「……えっちな事してもいいの?」 「……ん。」 うむ……これはシチュエーション上、仕方無いのだ。 って事で。 もぞもぞ。 「やんっ……。」 「ふっふっふ……たっぷり可愛がってやるぞ。」 お嬢ちゃんの耳元で、悪い人っぽく囁いてみる。 勿論、指は容赦無くお嬢ちゃんのスカートの中に。 「やっ……そんなところ、触っちゃ……。」 「お姉さんの代わりと言ったのは君だろう?  ……それとも、今からでもお姉さんに手を出してもいいのかな?」 「だ、駄目っ。  お兄ちゃんは、わたしにえっちな事するんだもんっ。」 俺の服をそっと掴むお嬢ちゃん。 ……シチュエーションを忘れて本音を言ってるけど、コレはコレでいいよね。 「っ……。」 ぎゅ。 「ええと、その……。」 「……どうした?」 お嬢ちゃんに負けじと、比良坂も俺に擦り寄ってくる。 でも、いい台詞が浮かばないらしい。 「あの、その……。」 「……。」 むぅ。 必死になって考えてる比良坂も、ちょっと新鮮でいいなぁ。 「……分かった。  お前もちゃんと可愛がってやるから。」 きゅ。 「あ……。」 抱き寄せると、比良坂が嬉しそうに笑みを浮かべる。 「……こら。  其処は嬉しそうにする場所じゃ無いと思うんだが。」 「……別に喜んでなどいないわよ。馬鹿。」 ぎゅ。 ……ええっと、比良坂さん。 そう言いながらも俺に身体を密着させるのはワザとですか? 「…こほん。  あー、二人とも可愛がるとなると、少し場所を変えようかなぁ。  ……って事で、俺の部屋に行こうか。」 「……仕方無いわね。  今日の私は逆らえない設定なのだから。」 「……ん。  今日もいっぱい、えっちな悪戯してね……。」 でもって。 「……えっち。」 「……ケダモノ。」 「だから、ちょっとやり過ぎたと思ってるってば……。」 半目で俺を睨むお嬢様お二人。 でもやっぱり腕枕だし、まだ手錠はしてるんだけど。 「手が拘束されているのをいい事に……私を犬のように後ろから犯すなんて……。」 「口の中に無理矢理捻じ込まれて、喉奥まで犯されちゃった……。」 「あぅぅ……。」 いやほら、無理矢理ってシチュエーションだったらそのぐらいはするかなと思ったんですよ。 ……日頃してない事を試してみようかな、なんて部分もあったのは認めるけど。 「……反省しているのかしら?」 「……はい。物凄く反省してます。」 「むー……駄目だよ、お兄ちゃん。  ちゃんと先に教えてくれないと、吃驚しちゃうんだから。」 だよなぁ……やっぱりちゃんとお互いに分かり合った上じゃないと。 ……って。 「えーと……ひとつ突っ込んでもいいでしょうか、お嬢ちゃん。」 「ん?」 「その……先にお伺いを立ててたら良かったの?」 「……ん。」 こくん。 頬を赤らめながら、小さく頷くお嬢ちゃん。 「その……お兄ちゃんのだったら、少し苦しくても平気だし、それに……。  ……その苦しさが、逆に悦びになってた、って言うか……はうっ。」 「……。」 うん、なんだ。 ……お嬢ちゃん、頬を赤らめながらその台詞は駄目です。 「お、お嬢ちゃんっ!」 「きゃんっ……♪」 「再びケダモノになってどうするのよっ!」 ごすっ。 「げふっ!?」 いいパンチを脇に喰らい、動きが止まる。 「……目は醒めたかしら、――さん?」 「ほ、ホントにすみませんでした……。」 「……わたしはケダモノさんになってもらって良かったんですけど?」 俺を睨む比良坂と、その比良坂を睨むお嬢ちゃん。 「それに……結局比良坂さんは役を忘れてた気がしましたけど?」 「……気のせいよ。」 「…途中から、普通に俺を求めてたような……。」 「……――さん?」 ぎろり。 真っ赤な顔のまま、比良坂が俺を更に睨みつける。 「いや、その…俺としては、役を忘れるぐらい求めてくれて……嬉しかったんだけどな。」 「え……。」 「……まあ、だから余計ケダモノにもなったって言うか……。」 ……本気でケダモノの交尾の様に、比良坂に圧し掛かってたしなぁ。 「とは言え、流石にアレはやり過ぎだったから、もうあんな体勢は……。」 「……た、偶になら。」 「……何?」 「――さんが、どうしてもしたいと言うのなら……仕方無く付き合ってあげるわ。」 俺から目を逸らし呟く比良坂。 ……うん、なんだ。お前も反則。 「…じゃあ、早速今からどうしてもしたいぞ比良坂。  って言うかそんな台詞言われて大人しく出来るか男としてっ!」 「え、な、いきなりっ……。」 がぶり。 「ぐああああっ!?」 肩に激しい痛みを感じ、慌てて振り向いてみると。 「……。」 がぶがぶ。 「ご、ごめんお嬢ちゃんっ!?  謝るから、噛み付くっつーか齧るのは勘弁してくれっ!?」 「……むぅ。  お兄ちゃん、誘惑されすぎっ。」 ほっぺたを膨らませたお嬢ちゃんが、半目で俺を見つめる。 「……余計な事をするわね、小娘。」 「比良坂さんだって邪魔したじゃないですか。これでおあいこです。」 「「……。」」 ばちばちばち。 目から火花が出る勢いで睨み合うお嬢様二人。 「あの、比良坂もお嬢ちゃんも、落ち着いて……。」 「……元はと言えば。」 「……お兄ちゃんがはっきりしないのが悪いんだよね。」 「あ、あれ?」 何だろう……凄く雲行きが怪しいですよ? 「今日こそ、はっきりとして貰おうかしら……――さん?」 「お兄ちゃん……どっちがいいのか、ちゃんと言ってね?」 「ええっと、それは、その……。」 ……こ、こうなったら。 「こ、こうなったら……てぇいっ。」 「きゃっ!?」 「にゃっ!?」 身体の位置を変え、比良坂とお嬢ちゃんの上に覆いかぶさる。 「こうなったら、二人とも逆らえないまでいっぱいえっちな調教してやるっ!!」 「な、何を馬鹿な……あんっ…。」 「わ、わたしはそんなのじゃ……ひゃうっ、いきなりグリグリしちゃっ……。」 ……結局、無理矢理納得させたとかさせなかったとか。 どっとはらい。