・もういっちょう。 「と言う訳で、明日の為に特訓そのにー。」 「はいっ。」 「今回は、私も一緒の特訓よ。」 「どんな特訓ですか?」 「ズバリ、潜伏訓練。  怪盗たる者、長い間動かず、気配を消し、時を待ち続ける事も  必要なのよ。派手なだけじゃ無いのよ。」 「な、なるほど…。」 「と言う訳で、今回はこの家に忍び込みまーす。」 「…え。…えーと、ルビィさん、此処って…。」 「はーい、ベネットちゃんの寮でーす。」 「…無茶ですよルビィさん。前回、俺あっさりと見つかったじゃ  ないですか。」 「前回はユウキ君が斎香ちゃんの胸に動揺したからでしょ?  今回は大丈夫よねー。」 じゃきんっ。 「…えっと、何故にまた短刀を首に突きつけてるのでしょうか。」 「んー?別にー?  ただ、斎香ちゃんの胸に見とれたユウキ君にちょっと怒ってる  訳じゃ無いわよ?」 「…ごめんなさい。」 「ん、宜しい。  …でも、2度目は無いわよー。」 「……イエッサ、ルビィ隊長。」 「はーい、じゃあ早速、鍵開けから。  ユウキ君、お願いね。」 「はい。…まぁ、流石に鍵開けなら……。」 かちゃかちゃ。 かちゃり。 「…開きました。  ……でも、スカウトの技術ってちょっと間違えると犯罪一直線  ですよね…。」 「あ、スカウト技術って言っても、こんな犯罪ギリギリまで教えてるのは  ウチと舞弦学園だけよー?」 「…そうなんですか?」 「舞弦学園では私の姉のロニィ先生がスカウト技術担当でしょー?  で、ウチのセレスちゃんはロニィ先生の1番弟子だもの。」 「…実はセレス先生って凄いんですか?」 「凄いわよー。本気出せば後ろから刃でドスッとか出来るし。」 「…全然そんな風には見えないんですけどね…。」 「女なんて、男が居れば鬼にも悪魔にもなるわよー。  …勿論、私もね。」 「…でも、ルビィさんは俺にとって…優しくて、護りたいお姉さんですよ。  あ、勿論、その…大好きな人でもあります。」 「…もう、こんな時にそんな事言うなんて…駄目よ、おねえさんは  今は先生なんだから。  ……でも、今夜はたくさんご褒美あげるわね?」 「…は、はい…ルビィさん。」 「…なんて言うか…学園長って言うよりは女の子って感じの部屋ですね。」 「ベネットちゃん、昔からぬいぐるみ関係大好きだったからねー。  今もそうみたいねー。」 「…で、何処に潜伏するんですか、ルビィさん?」 「はーい、今回のびっくりドッキリアイテム、出てこーい。」 ぽんっ。 「…等身大のぬいぐるみ?」 「そうでーす。私とユウキ君のふたーりぶん。  コレを着て、動かないでいるのが今回の訓練内容。  勿論、ばれちゃ駄目よ?」 「いや、ちっちゃいぬいぐるみならともかく、等身大のぬいぐるみだと  即座にばれると思うのですが…。」 「ところがどっこい。ベネットちゃんは家では抜けてるから、  全然気づかないのでしたー。」 「…本当ですかそれ。」 「何よー、ルビィさんの言う事が信じられないの?」 「ううっ、そう言われると弱い…。  分かりました、とりあえず一つ下さい。」 「はい、こっちがユウキ君の分。  さて、後は帰ってくるまで待ちましょうか。」 「…ふーっ。」 (あ、帰って来たわねー。) (しかし、何時見ても学園長って真面目ですね…。) (真面目、ねぇ…そうでも無いんだけど。) 「…あー、今日も疲れたわ…。」 ぽてん。 「うー、だるい…。」 (…思いっきりたれてますね。) (学園長の間は何時もしゃきっとしてる分、こういう時に  反動が出るのよ。) (なるほど…。) 「…脱ぐー。」 (うわわわわっ!?) (コラ、慌てちゃ駄目よ。) (って言われても、いきなり学園長脱いでますよ!?) (そりゃ、寮の部屋なんだから、脱ぐわよー。) (…出来るだけ見ないようにしよう。また気づかれたら  大変な事になる…。) 「…うー、カイトくーん…。」 (…カイト?) (あー、ほら、この前ベネットちゃんに見せた写真があったじゃない?  あの生徒の事よ。) (そうだったんですか…。) 「…カイトくーん…逢いたいよぉ…。」 (…が、学園長がぐずってる…!?) (ふふふ、ベネットちゃんは相変わらず寂しがりやねー。) (な、なんかすでに学園長へのイメージが180度変わりそう  なんですけど…。) 「…ふぅ。少し落ち着いたわ。さて、ご飯でも作ろうかな…。」 とてとてとてとて。 「ふーふふん、ふーふふー♪」 「…ぷはぁ。結構キツイですね…。」 「でしょー?全く動かないってのは、ある意味拷問みたいな  ものだからねー。  …でも、ちゃんと気づかれてないみたいじゃない。  さすが、ルビィ先生の一番弟子。偉い偉い。」 「あ、ありがとうございます。  …でも、そろそろ引き上げた方がいいんじゃないですか?  なんか、思いっきりプライベートを覗いているみたいで、  余り良い気がしないんですが…。」 「ところが、コレからが面白い所なのよー。  ちゃーんと、ネタは仕込んであるし。」 「…は?ネタって…何したんですかルビィさん?」 「まー、見てなさいって。ほら、ぬいぐるみの中に  戻って?」 ぴんぽーん。 「…あら?誰かしら…。  …って、さすがにこの格好のままだと不味い…かしら。  ええっと、適当な服は…。」 「…何だ?鍵開いてる?  ベネット先生、無用心だなぁ…。」 「………え?」 がちゃ。 「こんにちは、ベネット先生。  …あ、此処だと学園長って呼んだ方がいいのかな?」 「……カイト君っ!?  ど、どうして此処にっ!?」 「どうしてって…ベネット先生が来てくれって手紙を  くれたから…来たんだけど?」 (…ルビィさん、もしかして…。) (ぴんぽんぴんぽーん、そのとーりでーす。  ベネットちゃんの筆跡で、カイト君に手紙を送って  おいたのでしたー。) 「手紙…?  私、手紙なんて送った覚えは無いけれど…。」 「…そうなんですか?  ま、でも…こっちは眼福かな?  …ね、ベネットせんせ?」 「…ふぇ?」 (…ワイシャツ一枚って、また…。) (…ユウキ君。これでまた気配乱したりしたら…。) (大丈夫です。…ルビィさんとたっぷり『特訓』  しましたし。) (あらあら、それじゃあもう『特訓』はしなくても  大丈夫かなー?) (…ルビィさーん…。) (うふふ、冗談よ、じょーだん。  今夜も、たっぷり…『特訓』よ?) 「…きっ…!?」 むぐっ。 「…危ない危ない。駄目ですよ、ベネットせんせ。  大声出したら、近所迷惑ですよ?」 ばたん。←後ろ手で扉を閉める ひょいっ。←ベネットせんせをお姫様抱っこ とさっ。←ベッドに寝かせる 「ちょ、ちょっとカイト君?」 「いやー、来て早々こんな美味しい場面に出会える  なんて、俺ついてるなー。」 「べ、別にそんなつもりじゃ…。」 「じゃあ、止めますか?俺はそれでもいいですよ?  ……どうする、ベネット?」 「…っ。  よ、呼び捨てはいけないと…言ったじゃないですか。」 「…でも、二人きりの時なら…いいんですよね?」 「……それは、その…。」 「…駄目?ベネット…。」 「ひゃんっ!?ちょ、耳は駄目…あんっ。」 「だーめ。ベネットが可愛いのが悪い。  さ、こっち向いて…。」 「だ、駄目ですよカイト…あうっ!?  ちょ、ホントに…くふぅんっ。」 (………えーと、ルビィさん。) (ん、何?) (…この状態で耐えろって事ですか…?) (おおあたりー。さ、頑張って、ユウキ君?) (…これ、本当に怪盗に関係あるんでしょうね…?  頑張りますけど…。) ――暫くお待ち下さい―― 「…か、カイト君…もう、駄目…。」 「だーめ。  今日はとことん可愛がるんですから。  ………ね、ベネットせんせ?」 「…も、もう、私は、先生じゃ…。」 「でも、せんせ、って呼ばれると…ほら、  また溢れてきましたよ?」 「…っ…ち、違いますっ。わ、私は、そんなっ…。」 「やっぱり、生徒に犯されるのを想像すると、  そうなっちゃうんですか…ベネットせんせ?」 「…い、イジワルです、カイト君っ…。」 (………ルビィさーん…。) (…あはは…カイト君ってば、完璧にイジメモードに  なっちゃってるわね…。  こりゃ、暫く止まらないかも…。) ――さらに暫くお待ち下さい―― 「…ふぅ。ご馳走様でした、ベネットせんせ。」 「………。」 「…あれ?ベネット?  ……あちゃ、ちょっとやりすぎたかな…。」 (…やりすぎも何も…ケダモノかこの男は。) (…ユウキ君、人の事言えるのかなー?) 「…ま、俺の可愛いベネットにはちょっと休んで  貰うとして。  ………そろそろ動け、そこのぬいぐるみ2体。」 ぎくっ。 (…る、ルビィさんっ!?) (…あはは、カイト君には…やっぱり駄目だったか。) 「…ばれちゃったかー。」 「…ロニィ先生っ!?  ……じゃない…あ、もしかして?」 「はーい、ロニィ先生の双子の妹、ルビィ・スタインハート  でーす。初めまして、相羽カイト君?」 「は、初めまして…。  …で、其処の男は何なんですか?返答次第では、笑顔で  抹殺したいんですけど。」 「あ、この子は薙原ユウキ君。怪盗になる為の訓練中の、  ひよっこ怪盗なのでーす。」 「…えーと、初めましてと言うか…すんません。  まさか、こんな展開になろうとは…。」 「…とりあえず、ちょっと外に出ようか。  ……二人とも、学園長に見つかると不味いだろ?」 「…なるほど、ルビィさんだったんですか…。」 「ちょーっと、ベネットちゃんが寂しそうだったから、  元気を出して貰おうと思って。  …暫くは、こっちに入れるんでしょ?カイト君。」 「ええ、まあ…見つからない限りは。」 「…見つかる…って、カイトさんって何かヤバイ仕事でも  してるんですか?…ルビィさんみたいに。」 「…いや、流石に怪盗って訳じゃ無いけど。」 「またまたー、いろんな子のハートを盗んでる癖に。  この女泣かせー。」 「……このケダモノー。」 「そんな変な言い方しないで下さいよルビィさん…。  …でもって、何がケダモノだ何が、ユウキ?」 ぐりぐりぐりぐり。 「い、痛いっ!?ぎ、ギブアップっ!?」 「…良く考えたら、さっきのって全部コイツに  見られてるんだよなぁ…ルビィさん、やっぱり抹殺  しちゃって良いっすか?」 「んー、どうでもいい子なら許可しちゃうんだけど…  ユウキ君は、私の大切なダーリンだから、抹殺は  止めてもらえるかな?」 「………マジっすか。」 「マジもマジ、おおマジよ?」 「…むぅ、ルビィさんがそう言うなら…命拾いしたな、  ユウキ。」 「……いや、本当に済みません、カイトさん。  今回の事は絶対に口外しませんので…。」 「ん、よろしく。  流石に学園で今回の事が流れたら不味いからなぁ…。」 「…そうですね。コレはちょっと言えないですよね…。」 「………え、そうなの?」 「「………。」」 「不味いです。駄目ですよ、ルビィさん?」 「…ルビィさん、どうか勘弁して下さい。」 「えー、ベネットちゃんの可愛い部分なのにー。」 「駄目です。ルビィさんだって、鉄仮面さんだって事が  ばれたら不味いでしょう?」 「…むー、ユウキ君にそう言われちゃ、黙るしか  ないわねー。」 「ははは…良かった、漏れなくて。」 「…あ、そうだった。ロニィから手紙預かってるの。  カイト君宛てー。」 「俺宛てですか?…珍しい。何だろう…。」 『コレを見てるって事は、多分ベネットちゃんの所で  のんびりしてるって事ね?  …そんなに世の中、甘くないわよー。覚悟なさい?               ロニィ・スタインハート』 「…なんですか、この手紙は。すっごい不吉なんですが。」 「…さぁ?私はコレを預かっただけだし。  ロニィはアレでも交友関係広いからねー。  もしかすると、とんでもない罠を仕掛けてるとか。」 「…例えば?」 「……そうねー、例えば…。」 「何故か」 「4人が」 「一斉に」 「居たり」 「「「「…なんて、ね。」」」」 「…いいっ!?」 「さー、カイト君?」 「…よ、よぉ…ミュウ。お久しぶり…。」 「誰が一番なのか…きっちり決めてもらおうじゃないの。」 「…背伸びたなコレット…はは、ははは…。」 「まさか、逃げるなんて事は、…無いよな、カイト?」 「…竜胆さんも、またそんなごっつい剣持って…。」 「……あのー、後ろ向いたら容赦なくズブッって行きますよ?」 「…は、ははは…セレスもまた…容赦無いな…。」 「…さて、ルビィさん。部外者は帰りますか?」 「そうねー。後はきっちり頑張って、カイト君?」 「ええっ!?助けてくれないんですか!?」 「…5股はちょっと。無理です。」 「ま、年貢の納め時かなー。…ファイト!」 「ファイト、じゃ無いですよっ!?」 「…まあ、こっちに来てくれるわよね、カイト君?」 「…そうね。ゆっくり、話し合いましょうか…?」 「ああ。じっくりと、納得行くまでな…。」 「カイトさーん、もう逃げられませんよ?」 「たすけてぇぇぇぇぇ………。」 「…助かりますかね、ルビィさん?」 「……さぁ?後は天のみぞ知る、って所かしらねー。」