・ベストカップルコンテストにて。その2。 ――ファルネーゼAS・生徒会室―― ぷるるるる。ぷるるるる。ぷるるるる…がちゃ。 「はい、ファルネーゼAS、生徒会室です。  …あ、お世話になっております。  ………そうですか、やっぱり間違えて…。  ええっと、確かに普通のよりは良く燃えますが、それ以外は  至って普通の…。」 がちゃり。 「………よぉ、坊主…。」 「あ、少々御待ち下さい。  ……ドッツさん?寝てたんじゃ無かったんですか?」 「いや、何だ…。  ……爆弾が無いから、もしかしたらと思ったんだが…。」 「あ、爆弾の事なら、リカルド先輩から聞いてます。  何でも、延焼効率がやたら良いとか?  間違って今回のイベントで使用しちゃったんですけど、  消火部隊と氷結系の魔法で何とかなるかと、光陵学園側とも  今話をしていたのですが…。」 「………案の定か。  ボス、今回は幾らなんでも…抜けすぎだぜ…。」 どさっ。 「ちょ、ちょっとドッツさん!?  ちゃんと向こうで寝ててくださいよ…。」 「…坊主。あの爆弾は…只の『ナパーム弾』じゃ無いぞ。」 「………は?」 「『対物理・対魔法』を備えた『火炎』が発生する爆弾だ。  ……普通の消火方法じゃ殆ど意味がねぇ。  ………それ相当の威力を持ってぶん殴らないと…駄目だ。」 「…な…何ですかそれはっ!?」 「クーデターイベントで支援に使う為に、『銀星』の武器・魔法  工房に作らせた一品だとよ。  ……ある意味、ランサーよりもよっぽど性質の悪い品だぜ…。」 「そんな…何か手は無いんですか?  そもそも、リカルド先輩はそんな事言ってませんでしたよっ!?」 「…ああ?  言っただろうが。それ相当の威力で、ぶん殴りゃ消える。  それだけだ……ただ、どの程度の抵抗力を『火炎』に持たせてるかは  分からないな。  試作品だから、安全とか考慮してるとも思えねぇしな…。  で、ボスが知らなかったのは、…ろくに聞いてなかったからだろ。  俺が報告してる時点で、ボスはインフルエンザに罹ってたからな…。」 「……っ。  ……もしもし?事情が変わりました。  あの爆弾、実は…。」 ――光陵学園・学園長室―― 「…ええ、分かりました。  至急、こちらでも対策を練ります。  そちらも、何か分かり次第、報告をお願いします。」 がちゃり。 「……あーもう、よりによって何て物騒な物出してくるのよファルネーゼは。  『対物理・対魔法』の『火炎』なんて…賞取れる大発明じゃない。  …ともかく、先生方に連絡しないと。」 ――イベントダンジョン・B4F―― 「ユウキ、ダンジョンの中に居た生徒は全員居るみたいよ。」 「了解。  …さて、これからどうするかな。  とりあえずは、暫くは大丈夫だとは思うけど…。」 カイトさんが居る筈の上のフロアを見つめながら呟く。 「何か出来るかと言われると…今の所は…部屋が蒸し部屋にならないように、  冷気の魔法をかけるとかぐらい…かな。」 「…とは言え…リナは『派手な魔法が良いのよ』って言って、  氷結系の魔法は取らなかったんだよな…。」 「な、何よ。別にいいじゃない。まさかこんな事態になるなんて  思わないわよ普通。」 そう言って、そっぽを向くリナ。 「いや、そりゃそうだ。こんな事態を心配して魔法を覚えてる奴が居たら、  無茶苦茶変だ。だから気にするな。」 「うん。  …でも、何か出来る事無いかしら…。」 「うーん…とりあえず、フロアの扉を全部開けて、二酸化炭素が溜まらないように  した方がいいか?」 「え?延焼の時って、閉じるんじゃ無かった?」 「…どっちも駄目か。困ったなぁ…。」 「とりあえずは大人しく待つしか無さそうね…。」 俺とリナは、二人して封鎖された登り階段を見つめた。 ――イベントダンジョン・B3F―― 「…なんじゃこりゃあっ!?」 右手の剣を目の前の『炎』に叩きつけながら、俺は叫んだ。 がいんっ。 「がいんって…なんで炎が殴れるんだ!?  つーか…。」 ぼびゅっ。 左手から出した氷の礫を、『炎』に向けて放つ。 …が。 かんっ。 「…弾き返すし。  『対物理・対魔法』の『炎』かよ…。」 これでこちらに攻撃意志が無い時は普通の『炎』と一緒なのだから性質が悪い。 と言うか…只の炎なら燃えるものを片っ端から取り除けば大丈夫かと思ったが…。 「只でさえ基本がナパーム弾で延焼効率が良くて、挙句に炎は消せない、か…。」 …こりゃ、本当に不味いかもな。 襲い掛かられないだけ、まだ落ち着いて考えられるけど…。 「…いや、無効じゃないんだから、思いっきり殴れば…消せるか?」 ………うむ、考えていても仕方が無い。 どの道、時間が来れば死んでしまう。それならば、出来るだけの事をしよう。 「………しかし、久しぶりに出す本気の相手が…『炎』とは…。」 ちゃきっ。 両手に剣を持ちながら、そんな事を考える。 「…最後に本気を出したのは…ああ、ミュウとの喧嘩だったっけ。  アレは怖かったなぁ…『降臨』させてから『神の左手』使うんだからな。」 ……無意識に身体が震えるのは仕方が無いと思う。 いや、アレはマジで洒落にならん…少なくとも止めるのは無理だ。 「………それに比べたら、こんなのはまだマシ…か。  襲い掛かってこないし。」 ずしゃっ。 目の前に迫る『炎』に対し、構えを取る。 …とりあえず、これ以上の延焼は防がないとな。 ………窒息方面の対策はどうしようもないけど。 「…此処は何とかしますから、後は頼みましたよ…ベネットせんせ?」 ――イベントダンジョン・B1F―― 『…倉沢先生、状況は?』 「正直、芳しいとは言えないな。」 「消えろぉっ!『ギガンティックボルト』!!」 どっぱぁんっ! 「……ぬぅ、消えはするが…それ以上に延焼が激しいのか。  これじゃ、殆ど進めんではないかっ!」 「私も幾つか魔法は試してみたが、消去以上に延焼の方が  効率が良い。  延焼が起こらないよう、建物を破壊しつつ進むしか方法が無さそうだ。」 『…どのぐらいかかりそう?』 「………建物を壊すなら、建物の構造を考えながら進まねばならない。  ただ壊すだけでは無いので…私とネイ先生では無理だ。  ダンジョンの構造に詳しい者でないと、逆にダンジョンを崩壊させかねない。」 『……つまりは、セレスに期待するしか無いって事かしら。』 「………出来るだけの努力はする。」 『ええ、勿論よ。  …でも、無理はしないでね。  冷静に見えても、貴方も熱くなりやすいのだから…篤胤?』 「………努力はしよう。」 『…もし、何かあったら…本気で怒るわよ?』 ぴっ。 ぷーっ、ぷーっ、ぷーっ… 「…すでに怒っている。相変わらず、感情の制御が出来ない奴だ。」 「倉沢先生、イブ先生は何と?」 「………。」 「……倉沢先生?」 「…生徒の安全と救出が第一。  たとえ何があっても、生徒全員を無事救出しろとの事です。」 「何があっても、か……勿論です倉沢先生!  幾ら延焼が激しくとも、延焼以上に消し去ってしまえばいいだけの事!!」 どっぱぁんっ! どっぱぁんっ! 「………ふむ。  私も、いずれはイブのように感情が制御できなくなるのだろうか。  …まぁ、それも悪くは無い。」 ちゃきっ。 「ネイ先生。一緒に仕掛けましょう。」 「了解っ!」 ――イベントダンジョン・B2F―― 「…大丈夫ですか、学園長?」 「たとえ大丈夫で無くても、行くんですよセレス先生。  それより、セレス先生こそ大丈夫ですか?」 「学園長の台詞、そっくりお返しします。  それに、今回は…本気ですから。」 ぴしっ。 「…セブンスターですか。」 「はい。私としては、弓が好きなのですが…そんな事を言っている場合じゃありませんから。」 「生徒が見たら驚くでしょうね。  前衛で全てを打ち砕いていくセレス先生、なんて物を見たら。」 「………まぁ、私がこうでもして止めないといけない場面が何度もありましたから。」 「…それも、今となってはいい思い出、ですか?」 「………うーん…一緒に『神の左手』で吹き飛ばされたのをいい思い出、と言っていいのかどうか…。」 「………それもそうですね。私も何度吹き飛ばされた事か…。  未だにあの子の教育を間違えたかと何度も思いますから…。」 「え、えっと、でも今はそんなに起きませんよ?多分、年に1回あるかどうか…。」 「……あ、当たり前です!  あんな事が何度も起きてたら世界が滅びます!!」 ぼぅっ。 「……っと、話している余裕はここまでみたいですね、学園長。」 「…行きましょうか、セレス先生?」 ――光陵学園・校門―― 「あー、相変わらず馬鹿騒ぎだな…。」 「ホント。やだやだ、ほんっとガキねぇ…。」 「……人の事言えないと思うよ、コレット?」 「し、失礼ね…。私だって、一応は教授よ?昔みたいにあちこち走り回ったりしないわよ。」 「…じゃあ、その手の綿菓子やら焼き蕎麦やらお面やら何だ?」 「…うっ。」 「…考古学の権威と言われているブラウゼ教授が、この有様じゃなぁ…。」 「う、うっさいわねー。今日は教授じゃなくて『コレット・ブラウゼ』って言う一人のハーフエルフ  だからいいのよっ。」 「さっき教授って言ったのに…。」 「細かいことは気にしないのミュウ。……ん?」 「どした?」 「ね、沙耶、ミュウ…あのダンジョン、変じゃない?」 「煙…もしかして、ダンジョン燃えてないか?  また、過激なアトラクションだな…。」 「いや沙耶ちゃん、あれはアトラクションじゃなくて、アクシデントだと思うけど…。」 「……どうする?」 「……ベネット先生から報酬貰おう。」 「沙耶ちゃん、普通に助けようよ…。」 「…あ。  うーん、どうも冒険者になってから報酬とかにシビアでね…。」 「……ふっ、S級冒険者ともあろう者が情けないわねー。」 「一番シビアな金銭感覚持ってる癖に…。」 「ほら、此処で喧嘩してないで、早く助けに行こう?」 ――イベントダンジョン・B4F―― がしゃん。 「…扉…開いた?」 とたたたたた。がしゃん。 「……ふー、とりあえず何とか間にあったか…。」 「相羽さん!?」 「…カイトさん、大丈夫ですか?」 「ん?ああ、まぁ出来るだけの時間稼ぎはしたつもりだぞ。  …で、生徒の方は無事かい?」 「はい、全員居ました。今の所、特に具合の悪い生徒も居ないみたいです。」 「ん、了解。流石は竜胆の妹、落ち着いてるね。」 「うーん…お姉ちゃんと比べられると、困りますけど…。」 「…ま、魔法使いと戦士を一緒にされても困るよな。」 「…………。」 「…ユウキ?どうしたの?」 「………カイトさん、腕見せてもらえませんか?」 「…え?」 「腕、見せてください。」 「……ユウキ君、もしかして腕フェチ?」 「…ユウキ、そんな趣味があったなんて…。」 「違うわっ!  …カイトさん、腕、怪我してませんか?動きが変なんですけど…。」 「………。  うーん、何で分かった?」 「なんとなくです。さっきまでと違って、腕に力が入ってないみたいだったので…。」 「…ごめん。多分、ちょっと駄目かも。」 ずいっ。 「っ!?…酷い、ボロボロじゃ無いですか!」 「一体、何をやったらこんな事に!?」 「いや…まぁ、剣が壊れたから直接『炎』を殴っただけなんだけどね?  しかし、そこら辺りの物より丈夫な『炎』なんて初めてだったけど。」 「…『炎』を、殴った?」 「いや、どうやらタダの『炎』じゃ無かったっぽい。  『対物理・対魔法』がついてる『炎』だったみたいでさ。  無理やり斬って殴って吹き飛ばして延焼防いでた。」 「あの火の海をですか?…んな無茶苦茶な…。」 「無茶でも、しないといけない時だったからな。だから無茶した。ただそれだけだよ。」 「と、ともかく治療を…。」 「あー、コレは火傷とかじゃ無いから…多分治らないから。自然治癒しか無いんだ。」 「…そうなんですか?」 「…うーん、力の加減が出来ないんでね。余った力が自分に返ってきた、みたいな。」 「「………?」」 「ま、説明難しいから気にしないで。  …後は、上の救助待ちかな。間に合ってくれるといいけどなぁ…。」 「……大丈夫ですよ。どの先生方も強いですから。」 「…無茶じゃなくて、無理してなきゃいいけど…。」 がしゃんっ。 「皆さん、無事ですか!?」 「この声…学園長!?」 「薙原君、竜胆さん、無事ですか?」 「セレス先生まで!?」 「ちょっと待ってて下さいね…扉開けますから。」 ひゅっ。 どがっしゃーん。 「きゃあっ!?」 「うおっ!?扉が落ちてきたっ!?」 「…うわ、見境無いな二人とも…。ってか、スカウトなんだから壊すなよセレス。」 たったった。 「遅くなってごめんなさい。全員無事ですか?」 「誰か、怪我人は?」 「……まぁ落ち着いて。生徒全員無傷ですよ。」 「っ!?  ………か、カイト君っ!?」 ぎゅっ。 「ちょ、おいセレス!?」 「よ、良かった…カイト君に何かあったら、私…。」 「いや、だから待てって!?」 「…リナ、こりゃ…どう言う事だ?」 「…そんなの、私が聞きたいわよ…。」 「………。」 「…学園長?」 「どうかしたんですか?」 ぎゅっ。 「良かった…カイト君っ。」 「ちょ、ちょっとベネットせんせ!?ま、不味いですって!?」 「いつもいつも、貴方は無茶ばかりするんですから…。」 ぎゅううっ。 「今度と言う今度は、絶対に許しませんからね?」 「は、はい…。」 「…えーと、…両手にエルフ?」 「違うでしょユウキ。両手に花。」 「いや、突っ込む所はそこじゃ無いだろ二人共っ!?」 ――イベントダンジョン・B2F―― 「うわ………嘘だろ。」 「…そんな。幾ら一直線に来たとは言え…。」 「もう、『炎』が復活してる…。」 俺達の目の前で、呆然とするカイトさん、セレス先生、学園長。 「…ユウキ…。」 「…大丈夫。絶対帰るぞ。こんな所で死んでたまるか。」 ぎゅ。 リナの手を握る。 …死んでたまるか。 「…ぶっちゃけ、どんな調子ですかお二人さん?」 こんな時でも気楽に話しかけるカイトさん。 その表情を見て、セレス先生と学園長の顔にも笑みが浮かぶ。 「まったく…この状況でも、相変わらずですね…カイト君は。」 「ええ。落ち込んでも仕方無いですから。…それに、やるしかないでしょう?」 「その通りです。  …とは言え、正直後2・3回魔法が唱えられればいい、と言う所でしょうか。」 「…私も、似たようなものです。」 「まぁ、此処まで持ってるのが逆に不思議なぐらいだしなぁ…。」 むぅ、と考え込むカイトさん。 「…仕方無い。強行突破しますか。」 「……えーと相羽さん、それって今までとどう違うんですか?」 「はっはっは、リナちゃんは痛い所突くなぁ。」 「いや、至って普通の突っ込みっすよカイトさん。」 …ってゆーか、命の危機って分かってるのかこの人は。 「とりあえず、上の階段は見えてるから、そこまで突っ切りましょう。  B1Fは…まぁ、誰かが助けに来てるのを期待する事にして。」 「…そうですね。出来るだけの事をしましょう。」 「そして…諦めない。…もう、決して。」 学園長の手に魔力が集まっていく。 そして、セレス先生も鞭を構える。 「…つー訳だ。ユウキ、リナちゃん、先生方と生徒達をよろしくな。」 「「…は?」」 そう言うが早いか、カイトさんは列の最後尾へと走る。 しかも、手に巻いていた包帯をほどきながら。 「10数えたら、伏せろ!」 「え、ちょ、ちょっと!?」 「カイトさん!?」 「か、カイト君?」 「カイト君、一体何を!?」 その問いに、カイトさんは答えない。 その代わりに。 「………何、アレ…。」 カイトさんの両手には…黒い塊が。 しかも、どんどん大きくなっていく。 「…学園長、アレは一体?」 「…し、知りませんっ。私も、今まで見た事の無い魔法…いえ、魔法?」 そして。 「伏せろっ!」 その言葉に、全員が伏せる。 「…てりゃあっ!!」 そして、黒い塊が…出口に向かって突き進んでいく。 途中の『炎』を全て呑み込みながら。 「よっしゃ、成功!上手く行ったぜ…。」 どしゃっ。 「カイトさんっ!?」 「相羽さんっ!?」 「「カイト君っ!?」」 そのまま仰向けに倒れるカイトさん。 その両手には黒い痣が。 「…あー、ちょいと休めば大丈夫。つー訳で、先に行って。」 「そんな事、出来る訳が…。」 「行くんだよ馬鹿野郎。…大事な女を死なす気か。」 ふわっ。 「「「「えっ!?」」」」 俺達の身体が空に浮く。 そして。 ひゅーんっ。 「う、うわあああああっ!?」 ごしゃっ。 「…いたたたた…。」 登り階段まで吹き飛ばされた。 「きゃあっ!?」 「おぷすっ!?」 「きゃっ!?」 「ふぎゅっ!?」 「うきゅっ!?」 「ぐえっ!?」 リナ、セレス先生、学園長の順番で俺の上に降って来た。 …ってか、うきゅって…。 「って、カイトさん!?」 慌ててカイトさんの居る方向を見ようとする。 …だが、『炎』のせいですでに見えなかった。 「そんな…。」 「か、カイト君っ!?」 「学園長、相羽さんを助けないとっ!」 「ええ、分かってます。今すぐに…。」 まわりはカイトさんを助けようと、『炎』の除去を始めようとしていた。 俺は、逆に冷静にそれを見つめていた。 ………ここで力を使い果たしたら、助からない。 俺も、学園長も、セレス先生も。 ……そして、リナ。 「……すみません、カイトさん。」 歯を食いしばる。 …此処は、この判断が適切だ。そう自分に言い聞かせる。 「…ユウキ、あんたも手伝いなさいよ!」 ぼーっとしていた俺に、リナが声をかけてくる。 「…いや、先に進もう。」 「……は?」 リナの動きが固まる。 同じ様に、他の生徒達、そして学園長とセレス先生も固まっていた。 「ちょっと…ユウキ、何言ってるのよ?」 「先に進もう、そう言った。脱出するんだ。」 「あんた…カイトさんにさんざん助けられておいて、一体何を言ってるのよ!?」 ぱんっ。 リナに頬を打たれる。 「此処でカイトさんを助けなくてどうするのよ?男でしょ!?」 頬を打たれ、かっとするとかと思ったけど…さらに冷静になった。 「…なら、カイトさんを助けるのに力を使って、その状態で脱出出来るのか?」 「そ、そんなの…やってみないと分からないじゃないの!?」 「………学園長、セレス先生。」 二人を見つめる。 「……薙原君の言うとおりです。先に進みましょう。」 「そんな!?」 驚愕の目で学園長を見たリナは、今度はセレス先生の方を見る。 「………行きましょう。」 泣いていた。 でも、その目は登り階段を見つめていた。 「…そんな…。」 「…リナ。俺だって助けたい。でも、それで全滅してしまったら…カイトさんは喜ばない。」 「………言ってる事は分かってるわよ。でも、だからって…納得いかないわよ!!」 「…俺も納得はいかない。でも…行くんだ。」 リナの手を握る。 思いっきり。 「…ごめん。ユウキも、好きでそんな事言ってる訳じゃ無いよね…。」 「………。」 「…さぁ、行きましょうか。何としても…皆さんを無事に、脱出――」 ぎぃぃぃぃ。 「「「「…え?」」」」 ――数時間後 教室―― 「…はい、おしまい。」 「ありがと、フィル。」 「えへへ、ユウキに褒められちゃった。」 ぎゅっ。 「いてててて、傷口にしがみつくなっ!?」 「あ、ごめん…。」 「でも、今回は大変でしたね、ユウキさん。」 「大変って言えば大変だったけど…その分、生きる事の大切さが学べたしね。  後、先輩に会える事の素晴らしさ、とか?」 「ゆ、ユウキさん…。」 先輩が顔を真っ赤にして俯く。 うむ、やっぱり先輩は可愛い。 「…む、何か大人の雰囲気ですね、ユウキ。」 「ありがと。…ついでに、膝から降りてくれると嬉しいんだが、ルーシー?」 「嫌です。」 「…即答ですか。」 「今回は、ユウキとリナさんにたっぷりと心配させられました。ですから、  これぐらいの事は許してもらわないと。」 「って事は、ボクもたっぷりユウキに甘えていいって事?  やったー!」 「あのねぇ…ユウキは怪我人なんだから、ちょっとは控えなさいよ。」 横で同じくフィルから治療を受けたリナが、突っ込みを入れる。 「だって、リナってはユウキとラブラブだったんでしょ?  だったら、ボクたちだってラブラブしたいもん。」 「…ラブラブって言うか…命の危険でドキドキだったぞ。  沙耶さん達が来てくれなかったら、助かってなかったかもしれないし…。」 「…そう言えば、今回の原因を作った『犯人』はどうなったんですか?」 びくっ。 「…どうしたんですか、ユウキ?震えていますよ?」 「あ、リナも震えてる。」 「……俺は知らん。何も見てないし聞いてない。犯人なんて居なかった。」 「わ、私も知らない。全然しらないわ。…ね、ユウキ?」 「お、おう…。」 「「「…?」」」 ――同刻 保健室―― 「……はい、おしまい。これでもう大丈夫よ。」 「…うむ。」 「……どうした?」 「…無理はしないって、約束しなかったかしら?」 「……ふむ?」 「…前も同じように無理をして、私をさんざん心配させたの、忘れたとは言わせないわよ?」 「もし、忘れたといったら?」 「今日の怪我以上の怪我をたった今作ってあげるわ。」 「遠慮しよう。」 「……はぁ、貴方ってば本当に…一直線なんだから。ネイ先生と変わらないわね。」 「………む。」 「…ちょっと、むっとしたでしょ。」 「…いや。」 「したでしょ?」 「していない。」 「……本当は?」 「………職務に戻る。」 「…馬鹿。」 ぎゅっ。 「……心配したんだから。」 「…すまない。だが…。」 「分かってる。貴方の立場なら、きっと…私も同じ事をしていたと思うから。」 「……ありがとう。」 「…明日は雨かしら。」 「いや、明日は100%の確率で晴れだそうだ。」 「………厭味が通じないってのは、辛いわね…。」 「…?」 ――同刻 学園長室―― 「ええ、何とか無事に解決しました。  …はい、ええ…被害についてはまた後程ご報告致します。  ………いえ、本来の予定よりは大分大事になりましたが…幸い犠牲者は  ありませんでしたから。  …では、失礼致します。」 がちゃん。 「えーと、ファルネーゼは何と言ってましたか…?」 「…『犯人』の身柄・対応についてはこちらに一任する、との事です。」 それを聞いて、俺は真っ青になった。 …一任って、どう言う状況か分からないで言ってるだろう、ファルネーゼの連中…。 「…さて、ようやく落ち着いて話が出来るな、相羽?  輸送の件と言い、今回の件と言い、あたしゃ何にも聞いて無いぞ…?」 両手を鳴らしながら近づいてくる竜胆。 …剣を持って無くても十二分に怖い。 「いや、ほら、だって機密事項だったし。  冒険者たるもの、クライアントとのお約束は大事だろ?」 「…ほぅ。  なら、ポルテを襲ったのも仕事だったのか。」 微笑みながら俺の頬を撫でる竜胆。 …でも、全然目が笑ってない。…つーか、何で俺の顔を鷲掴みするんだ? アイアンクロー? 「いや、それは偶然…いたたたた、竜胆、それマジ痛いって!?」 「五月蝿いっ!そりゃポルテは可愛い部類に入るだろうけど、あの場所には  アタシだっていただろうがっ!  そもそも、コレットやミュウに比べて、アタシには何で殆ど手を出さないんだ、ええっ!?」 「いや怒りの原因はそこかよっ!?…いてててて、ぎぶ、ぎぶあっぷ!?」 「黙れこの女誑し!」 「うひいいいっ!?」 「……ちょっと沙耶、その程度にしとかないと幾らばカイトでも壊れちゃうわよ。」 「沙耶ちゃん、落ち着いてっ。」 背後と前から沙耶を宥めるコレットとミュウ。 はなせー、アタシだけのけ者なんてずるいぞー、と叫ぶ竜胆。 …なんであんなに暴走してるんだ?あいつは。 「…それは勿論、沙耶さんがカイトさんに相手して貰えないからだと思いますよ。」 「うをっ!?」 いつの間にか、目の前にはセレスの姿が。 全然気づかなかったぞ!? …ってゆーか、人の考えを読まないで欲しい。 「伊達にスカウト教師をしてませんから。…それに、好きな人の考える事は、他の人よりも  分かりやすいものですよ?」 「そ、そうか…って、そのナイフ…何?しかも、そのピンク色の液体は…?」 「勿論、ナイフですよ?で、このピンク色の液体は、何と…ロニィ先生お手製の媚薬です。」 「げ、ロニィ先生のっ!?」 媚薬。いや、それはもはやどうでもいい。 問題は、それがロニィ先生お手製、と言う事だ。 ……絶対媚薬じゃ無い。いや、媚薬の効果もあるのかもしれないが、それ以上に別の厄介な 事が起きるに違いない。 「…さぁ、カイトさん。みんなの中で一体誰が好きなのか…お話してもらいましょうか?」 「……黙秘権を行使する、って言ったら?」 「この薬を使いますよ?…具体的には私が。」 「ひぃっ!?」 「……それはもう、きっと物凄く興奮して…3日ぐらい放さなかったりしちゃうかもしれませんね〜。」 「…死ぬ、それは絶対死ぬぞセレスっ!?」 セレスは日頃大人しい分、そう言うコトをする時に、時たま豹変するのだ。 …もし、それが確実に、しかも3日続くとなれば…死ぬ。確実に死ぬ。 女は無限だが、男は有限なんだ。 「…もう一つ聞いていいか?」 「何でしょう?」 「……もし、セレス以外の名前を答えた場合は?」 「………うふふ。」 「ああ待てっ、笑顔でビンのふたを開けるな飲もうとするなっ!?」 「そうですよセレス先生。少し落ち着きなさい。」 「………ふにゃ?」 どさっ。 「…全く、ロニィ先輩もとんでもない物を…。」 「…いや、セレスを問答無用で眠らせるのもどうかと思いますけどベネット先生?」 「学園長として、また先生として、セレスさんが淫らな行為を行うのを止める  義務がありますから。」 「…そう言いながら、何故にそのビンを懐にしまわれるのですか?」 「勿論ロニィ先輩に返す為です。…ホントですよ?」 …絶対嘘だ。俺の目を見てない。 きっと『何かの時の為』とか言って大事に保管しておくんだ。 「……で、俺の処分はどうなるんでしょうか?」 「そうですね…本来ならば然るべき所に引き渡す所ですが…。」 「……ですが?」 「…ダンジョンの破壊により実習に影響が出ている事と、人手不足、と言う事を考慮しまして。」 「………てりゃあっ!!」 こっそり斬っておいた縄をほどき、俺は学園長室の扉へと走る。 不味い。あのベネット先生の台詞からすると、とんでもない事にっ。 「駄目だよカイト君、話の途中で逃げ出しちゃ。」 「そーよばカイト、いい加減観念しなさい。」 ぎぃんっ。←氷の刃 どかっ。←戒めの拳 「………あ、危ないだろうがっ!?そんなの当たったら、タダじゃ済まないぞっ!?」 「そりゃそうでしょ。当たったら痛いに決まってるじゃない。」 「ふざけんなっ!?」 「あーやかましい。沙耶、とっ捕まえて。」 がしっ。 「あーいーばー、もう逃げられないぞ…。」 「り、竜胆さん、此処はこう、見逃すって事は…。」 「絶対無い。安心しろ。」 …うわ、すっごい笑みだよ竜胆。 ちょっとむかつく。 「…これはすでに決定事項です。幸い、魔法と神術、剣技のエキスパートも居る事ですし。」 にっこりと微笑むベネット先生。 「おいコレット!お前考古学の研究はどうするんだよ!」 「…ふっ、甘いわね。実はすでに必要な物は運んできてあるのよ。  ま、流石に考古学漬け状態から少し息抜きしようと思ってたし?」 「…り、竜胆!S級冒険者の名が泣くぞっ!?」 「別に?好きでS級冒険者なんて名乗ってる訳じゃ無いし。  そういうのを気にしないのって、アンタも同じだろ、相羽?」 「ぐぅっ…。」 良く考えたら、俺も肩書きなんて全然気にしないんだった。 ま、不味い…。 「…えーっと、ミュウ?」 「何かな、カイト君?」 「……いや、何でも無い。」 …ミュウに何か言っても無駄だ。 そもそも、ミュウに勝とうってのが間違いだ…。 「…観念しましたか、カイト君?」 「………どーにでもして下さい。まさに手詰まりだ…。」 がっくりと項垂れる俺。 …ああ、この4人+ベネット先生相手に暫く過ごすのか…。 先行きが余りにも不安すぎる。 「とりあえず、皆さんには臨時講師として頑張ってもらいます。  寮は確保してありますので、そちらで生活してください。  後、分からない事があったらそのつど確認と言う事で。  …と、言う事で。」 がしっ。 「…へ?」 「へ、じゃありませんよ。  ただでさえ貴方は中々捕まえられないのですから。…今日は、じっくりと付き合ってもらいますよ?」 そう言うベネット先生の手には…日本酒。 「へへー、私も今日は奮発して高いお酒買ってきたんだー。」 「コレット、飲みすぎには気を付けろよ?」 「分かってるって。ちゃんと気をつけまーす。」 嘘だっ!! 全然気を付けてない所か、どんどん酷くなってる癖に…。 「さて、行きましょうかカイト君。」 「行くわよばカイト。…あ、ミュウと沙耶は?」 「…ま、たまには付き合ってやるか。」 「…程々にね、沙耶ちゃん?」 「……あのー、みなさん私の事忘れてませんか?」 「…勿論忘れてませんでしたよ、セレス先生?」 「……うー、絶対忘れてました…。」 各人が俺を捕まえ、引きずっていく。 「…えーと、俺の意見は聞かないのでしょうか?」 「……相羽。世の中には民主主義、って奴があるんだ。」 「多数決、別名数の暴力、とも呼ばれますが。」 「…もういいです。分かりました。」 ………ああ、ドナドナって感じ…。