※海辺での合宿より 「………。」 じーっ。 「…ううっ…。」 「…何やってんだクリス?」 「…あ、先輩。」 「こんにちは、クリスさん。  …えっと、この場面って事は…。」 「…はい。『リカルド』として、目の前にある砂の城を  踏み壊さないといけないんですけど…。」 「………。」 じーっ。 「…あー、『ファルネーゼAS』でも優しい部類のお前には  ちょっと無理だなぁ…この仕事。」 「でも、踏まないと不味いんですけど…。」 「…あ、いい事思いつきました。」 「…クリス、出来たかー?」 「8割方出来ました。…斎香先輩の方はどうですか?」 「こちらは完成です。」 「…ふぅ、超特大砂の城、完成っと。」 「……えっと、悪いんだけど、小さい方は踏んでもいいかな?  本当に悪いんだけど…。」 「うんっ。お兄ちゃん達が一生懸命大きいの作ってくれたから。  …お兄ちゃんも大変だね。」 「……うん。色々あってね…。」 「…クリス、今は『リカルド』だろ。  気持ちは分かるが、とりあえず踏んどけ。」 「………はい、先輩。  …よいしょっと。」 ぐしゃり。 「…はい、お疲れ様でした、『リカルド』さん。」 「…ふー、お疲れさん、『リカルド』。」 「先輩、斎香先輩、お手数をお掛けしました…。」 「いいからいいから。とりあえずあっち行って休んどけ。」 「………何やってんだこの変態。」 「五月蝿いっ!…俺だって、好きでこんな格好してるんじゃねーや…。」 水着を着た変態が居る。 …正確には、女物の水着を着た男が居る、か。 「……仕方ねーだろ。俺が『アゼル』役なんだからよ…。」 「………今、ちょっとリカルドを恨んだだろ。」 「…いや、ボスの壊れ具合を見てたら…あんまりそうも思わねーな。」 「それは言えてるな。」 何かノリノリでやってるっぽいからな。あの馬鹿。 「…で、悪いんだがよ…。」 「何だ変態。先輩の教育にも悪いからとっとと用事を済ませろ。」 「……いや、その用事なんだがよ…。  俺、全然魔法なんて使えないんだよ。」 「……まあ、それはそうだろうが…。」 「それが、どうかしたのですか?」 「…つまりだ。  俺じゃ、お前と嬢ちゃんを迷わせる事が出来ないんだな…これが。」 「「…あ。」」 …駄目じゃねーか、このキャスト。 「…つまり、ワザと迷って欲しい…と言う事ですね?」 「……はっきり言っちまうと、そうなる。」 「………んな無茶苦茶な。」 「無茶なのは分かってるんだがよ…そこを何とかできねぇか?  でねぇと…話が進まないんだよ。」 まあ、確かに話が進まなくて困るんだが…。 …どうしろと。 「…分かりました。このままでも困りますし…。  ただ、一つこちらもお願いしても宜しいですか?」 「おう。俺に出来る事なら何でも聞くぜ。  …俺も早くこの格好を何とかしたいからな。」 「……では…。」 「…あれ、ユウキと斎香さんは?」 「えーと…この時間だと迷ってる予定じゃないの?」 「じゃあ、そろそろ助けないと…。」 「…悪いな。そうもいかねぇんだ。」 じゃきんっ。 「きゃあ、変態っ!?」 「だから変態と言うなっ!俺が『アゼル』役なんだから  仕方無いだろっ!?」 「…えっと、だったら、とっととユウキと斎香を助けた方が良くない?  何で邪魔してるのか、ボク良く分からないんだけど。」 「……いや、その嬢ちゃんからの依頼なんだがな。  『出来るだけ助けを遅くしてくれ』…とさ。」 「は?…斎香、どうするつもりなのさ…?」 「知るかよ。兎に角俺は、お前達に動いてもらっちゃ困るんだ。  大人しくしててもらうぜ?」 「…はいそうですか、何て言うと思ったの?  行くわよ、みんな!」 「うんっ!とっとと変態をやっつけて、ユウキを助けに行かなきゃ!」 「だから変態言うなっ!?」 その頃、迷っているユウキと斎香は。 「…困りましたね。帰り道が分からなくなりました。」 「……えーと、先輩?」 「……はい?」 「………この回転するベッドは何ですか?」 「回転するベッドですよ?」 「………この鏡張りの部屋は何ですか?」 「鏡張りの部屋ですよ?」 「………此処はどうみても海じゃ無いと思うのですが?」 「だから迷っている、って言っているじゃありませんか、  …ユウキちゃん?」 ぞくっ。 「ちょ、ちょっと待った先輩!?その呼び方は随分先の筈だっ!  …つーか、此処何処からどう見たってラブホテルじゃ!?」 「……うふふ、ユウキちゃんったら冗談が好きなんだから。  『アゼル』の幻覚に決まってるじゃないですか。  …さ、いらっしゃい、ユウキちゃん?」 「いや、ちょ、ちょっと先輩っ!?」 ※おまけ。 「…また酒盛りシーンですか。全く、何度も何度も…。」 「あら、そう言いながら呑めるのが嬉しいんですよね、学園長?」 「………ノーコメントです。  それよりセレス先生、今度は飲み過ぎないようにして下さいね?」 「………。」 「…セレス先生?」 「……ひっく。」 どがっしゃーん。 「「ひゃあっ!?」」 「……ベネット先生っ!!」 「は、はいっ!?」 「………私は、一つ、ベネット先生に聞きたい事があります。」 「…な、何ですか?」 「…どーして、どーして私のカイト君を奪っちゃったんですかー!?」 どがっしゃーん。 「そ、それは私では無く、相羽君に…。」 「この前だって伝話で『ベネットせんせ』って呼ばれてた癖にっ!  『駄目ですよ相羽君』とか言いながら嬉しくて園長室で  くねくねしてた癖にー!?」 どがっしゃーん。 「な、何で貴女がその事を…!?」 「…ホントだったんですか、学園長?」 「…い、いえ、それは、その…。」 「ふぅーん、規律に厳しい学園長が、園内で恋人と会話ですか。  しかも、仕事中に。」 「……ううっ。」 「…ねーセレス、この事をみんなに言ったら大変な事になるわね?」 「……うー、カイトくーん…私だって胸大きいのにー。  ベネット先生よりも気持ちよく出来るのにー。」 「…聞き捨てなりませんねセレス先生。  そもそも、貴女で相羽君の相手が出来るのですか?」 「……出来ますよー。ちゃんと挟めますし、咥えたりもできますっ。」 「………平均3時間。長ければ半日ですよ?」 「……だ、大丈夫ですっ。…ベネット先生と違って、若いですから。」 ぷつっ。 「…いい度胸です、セレス先生。表に出なさい。」 「…勝ったら、カイト君は貰いますからねー。」 「いいでしょう。…勝てたら、の話ですが?」 「…なぁ、ユウキ。」 「……何だ、サワタリ。」 「………何と言うか、…帰りたいな。」 「………凧は?」 「流れ弾で壊れた。」 「「………。」」 「コズミック・インパクトっ!!」 「メイルシュトロームっ!!」 「…凄い。学園長とセレス先生、互角だわ…。」 「……でも、両方とも裸なのさ。」 「ああ、委員長としてはどうすればいいのかしら…。  止めようにも、…止められないわ。」 「…放っとけば、って言いたいけれど…。  サワタリと薙原、二人の向こう側に居るのよね…。」 「……まあ、落ち着くまで眺めるしか無いんじゃないかしら?」 「…イブ先生、そんないい加減な…。」 「それよりも、何で喧嘩してるか、知りたくない?」 「「「「知りたいです。」」」」