・ベストカップルコンテストにて。 「…はぁ。  そりゃ、仕事とあらば仕方無いってのはあるけどさ…。」 わいわいがやがや。 「…なんで折角の楽しそうな学園祭で、爆弾魔にならないといけないのか。  ああ、メイド喫茶とかウェイトレスカフェとか色々見たいのが  あったのに…。」 ぴりりりりり。 「ほい、もしもし?」 『あ、相羽さんですか?クリスですけど。』 「ああ、準備なら万端だよ。後はダンジョンに忍び込んで、  爆発させるだけだ。」 『…すみません、本来ならばこっちでしないといけないんですけど…。  先輩達、完全にノックダウン状態でして…。』 「…日頃の行いが悪いからじゃ無いのか?みんなしてインフルエンザってのは。」 『ははは…否定できない所が辛いですね。』 「ま、事情が事情だから、一応お役目だけは果たしておくよ。」 『はい。リナさんの告白イベントさえ起きてくれれば、後は  すぐに撤収していただいて構いませんので。』 「りょーかい。それじゃ、とっとと終わらせるよ。」 『お願いします。』 ぴっ。 「…ふぅ。とりあえず、セレスに見つからないようにしないとなぁ…。」 ぴっ。 「…ふぅ。とりあえず、向こうはこれで大丈夫、と。  ……大丈夫ですか、みなさん?」 「…こ、このぐらいで、リカルド・グレイゼンが倒れる訳には…。」 「……ボス、クリスはこっちだぜ?」 「ドッツもおかしくなったのかしら?クリスは此処よ。」 「………みなさん、僕はこっちですから。  とりあえずもうちょっと寝てください。本当に。」 「………むぅ。仕方が無い、もう少しだけ仮眠を…。」 「……素直に寝れよボス。…う、俺も寝よう…。」 「…クリス…メロン用意しといて。起きたら食べるから…。」 ばたっ。×3 「……こう言う時だけ、みなさん一緒なんですよね…仲が良いのか悪いのか。  …さて、生徒会の仕事も溜まってますし、もう一仕事………って、あれ?」 どさっ。←山のような量の爆弾。 「…爆弾…ですね。」 「……く、クリス…。」 「どうしたんですかリカルド先輩?ちゃんと寝てないと…。」 「…いや、もしかして、彼が間違った爆弾を持って行ってないかと気になったのだが…。」 「…はい?」 「………いや、単に今までの3倍ぐらい効率のいいナパーム弾なのだが。  折角だから、俺は赤の扉を…もとい、『赤い彗星』と名づけようかと…。」 「いや、そんな二段ボケはいいですよリカルド先輩。  …で、それって何処に置いてました?」 「………そこだが?」 「………。」 どっさり。←山のような量の爆弾。 「………ちなみに、ダンジョンとかで爆発するとどうなります?」 「………通常の3倍の勢いで火の海になる事間違い無しだな。」 「………どうしてそんな危ないもの置きっぱなしにしておくんですかリカルド先輩っ!?」 「片付けようと思ったら倒れたんだから仕方なかろうっ!!」 ぐらり。 どさっ。 「…むぅ、クリスがまわって見える…。」 「ああもう良いですから寝ててくださいリカルド先輩っ!!  …って、急いで連絡しなきゃっ!」 ぴっ。 『おかけになった場所は電波の届かない場所にあるか、電源が入っていない為、かかりません…。』 「………コレって…凄く、不味いんじゃ?」 ごっばおーんっ! どがっしゃーん! 「うおっ!?」 「きゃあっ!?」 ずずぅん。 「…今のって…。」 「多分、爆発だとは思うけど…なんか、今までよりもやけに爆発音が大きかったような…。」 とたたたたた。 「た、大変よっ。上のほうで、爆発がっ!?」 「ちょ、ちょっと落ち着いて。それで、上のフロアはどうなってるの?」 「それが…一面、火の海で…とても、外には出れそうに無いわ。」 「………火の海?」 「………クリスの奴、何考えてるんだ?それはちょっとやりすぎじゃ無いか…?」 「ともかく、見に行ってみましょう、ユウキ。」 「…そうだな、リナ。」 ぷるるるる。 ぷるるるる。 「…はい。」 「よぉ、光陵の学園長さんか?」 「…ベネット・コジュールです。貴方は?」 「………え、ベネットせんせ!?  …しまった、セレスの居る学校なんだから、ベネットせんせが学園長に決まってるじゃねーか…。」 「……その声…カイト君ですか?」 「………い、いえ、私は相羽カイトでは無いですよ?」 「…カイト君ですね。私は『相羽』と言う苗字は出していません。」 「………う。」 「………このタイミングで伝話をしてくると言う事は、貴方が今回の爆弾魔ですか?」 「…え、いや、その………はい。」 「まったく…幾らフリーの冒険者と言えども、多少は仕事を選んだらどうですか?  …竜胆さんから聞いていますよ。『檻』の強奪任務も請け負っていたそうですね。」 「いや、それは請けるまで全然気づいていなかったと言うか…。」 「言い訳はゆっくりと聞きます。  後は竜胆さんと薙原君に任せて、今すぐ学園長室にいらっしゃい。」 「………あー、ところがそうも行かなくてですね…。  実は…ちょーっと、手違いがありまして…。」 「手違い?」 「…どうも、持ってきた爆弾が予定と違ったみたいで…。  はっきり言ってしまうと、俺も閉じ込められてどうにもならない、みたいな?」 「………はっ!?」 「いやー、本来はフロアを氷漬けにする爆弾の筈だったんですけど、何故か  やけに性能のいいナパーム弾にすり替わってたみたいで…。」 「……簡潔に言って、現在の状況は?」 「………全5フロアの内、上2フロアは完全に火の海。  下のフロアが同じように火の海になるのに、早くて2時間掛からないですね。  まぁ、その前に空気が無くなって窒息死、でしょうけど。」 「……………相羽君。責任云々については後から問います。  まずは、生徒と……貴方の安全の確保を。」 「了解しました、ベネットせんせ。…あ、学園長の方がよろしいですか?」 「………無事に帰ってきたら、好きに呼んでくれて構いません。  ……お願いだから、死なないで。」 「………分かりました、ベネット先生。  まずは、竜胆リナ・薙原ユウキを含む生徒の安全を確保します。  そちらは、ダンジョン周辺の安全確保と、消火部隊をお願いします。。  ただし、ナパーム弾はファルネーゼASの特別製につき、通常の消火手段では  駄目な可能性があります。至急、ファルネーゼASに連絡を。」 「分かりました。  …生徒をお願いします。」 「…うわ、何だコリャ!?」 「……フロア全部が、火の海だわ…。」 「おいおい、幾らなんでもやりすぎだぞ、これは…。」 「………を、ようやく見つけた。」 「…あ、アンタは…強奪犯!?」 「もしかして、コレはあなたの仕業!?」 「ちょ、ちょっと待てって。確かにこれは俺の仕事だけど、この火の海はこっちの意図じゃ無い。  だからまずは、攻撃するのは勘弁してくれ。」 「…どうする、リナ。」 「…どうする、って言われても…。」 「えっと、お前が薙原ユウキ、でそちらのお嬢ちゃんが竜胆リナ…だったよな。  とりあえず、ここはもう持たないから、下のフロアに行ってくれないか?  …ご丁寧に、延焼効率の良すぎるナパーム弾らしくてね。フロアが崩れかねないんだ。」 「……ナパーム弾って…だとしても、こんなに燃えるか?」 「言っただろ。特別製だって。  …ファルネーゼの連中も、こんなの作る暇あったらもっと実技の勉強しろってんだよなぁ…。」 「ファルネーゼ!?  …おいおい、何考えてるんだクリスは…。」 「そこら辺は推測含め話すから。  ほら、とっとと下降りた。」 ――暫くお待ち下さい―― 「…なるほど、爆弾を間違ったって事なのね。」 「うい。クリス君がこんな事考えるとは思えないし、かと言って他の連中は  インフルエンザでダウンしててこんな事する暇無いだろうし。  ……向こうも、悪気は無いんだろ。たまたま爆弾の置き場所が一緒だったってだけで。」 「………だとしても、不味くないですか…ええと、相羽さん?」 「カイトでいいよ。俺もユウキって呼ぶから。」 「了解です、カイトさん。」 「んで、今の状況だけど…ぶっちゃけ、後1時間持つかどうかも怪しいな。  火は確実に下に来てる。  もちろん火の海になればそれで死ぬが、それより前に空気が持たない。  困ったことに、上で燃えてるって事はどんどん二酸化炭素が下のフロアに来るからな。」 「……なんか、とんでもない告白イベントになっちゃったわね…。」 「………はっはっは、まぁインパクトがあると思えば?」 「ありすぎだっ!」 「ありすぎよっ!」 「……だよなぁ。俺も燃やされたり切られたり殴られたり背後から刺されたり、後は  魔力の塊をまともに喰らったりしたけど、今回のは大分ビックリしてるしなぁ。」 「…いや、その発言内容の方が随分インパクトありませんか?」 「……よく死んでませんね、相羽さん?」 「そうか?  …あー、まわりの連中が連中だからな。普通よりは、ちょっとインパクトのある  生活してるかも。」 「…いや、随分違うと思う。」 「…そうね…確かにそう思うわ。」 「まぁ生きてるんだからあまり気にしない事だな。生きてれば、並大抵の事は  何とかなるものさ。  …さて、ここもそろそろヤバ目だな。  二人は、他の生徒の安全を確保しといてくれ。重要な役目だぞ?」 「……って、カイトさんは?」 「おいおい、この事件を起こした人間が一緒に逃げてても仕方無いだろ?  出来るだけの事をして、時間を稼ぐさ。  …言っとくが、お前らじゃ足手まといの役立たずだ。とっとと下に降りろ。」 「役立たずって…やってみないと分からないわよ!」 「確かにカイトさんに比べたら役立たずかもしれないけど、  それでも何か出来るかもしれないじゃないか!」 「…あー、気持ちは嬉しいんだけど…とりあえずはごめん。」 どむっ。 「…っ!?」 「ゆ、ユウキっ!?」 「でもって、よいしょっと。」 ひょいっ。 ぽいっ。 「うおおおっ!?」 「きゃああっ!?」 どしゃっ。 がちゃん。 「か、カイトさんっ!?」 「…鍵締められてる!」 「ほら、とっとと降りた。  お前らに何かあると、少なくとも3人に半殺しにされるのが目に見えてるからなー。」 「って、カイトさん一人で…どうするんですか!?」 「…大丈夫。こう見えても、多少は鍛えてるぞ?  伊達に魔王と殴り合って無いからな。」 「「……魔王?」」 「ネイ先生、倉沢先生はダンジョンの状況確認と、生徒の救出をお願いします。  イブ先生は…情報が届き次第、展開して下さい。」 「…私がですか?  では、学園長はどちらに?」 「……決まっているでしょう。私もダンジョンに向かいます。」 「ちょ、ちょっとお待ち下さい学園長!?  今回の騒ぎは、今までとは随分と危険度が違いますぞ?」 「だから行くのですよ、ネイ先生。  情報によると、ダンジョン内は火の海です。倉沢先生だけでは、厳しいでしょう。  …それに、大事な生徒達が危ないのに、このまま手をこまねいている訳には  行きません。」 「……分かりました。ですが、くれぐれも無理はなさらないように。」 「ええ、分かっています。私一人だけでは行きませんよ。  …セレス先生、一緒に来てください。ダンジョン内の構造は覚えていますね?」 「は、はいっ。」 「では、お願いします、皆さん。  ………行きましょうか、セレス先生?」 「え、あ、はいっ。」 ばたん。 「……ふぅ。学園長、無理しないといいけれど…。  …倉沢先生、ネイ先生。一応気をつけておいて下さい。」 「…そうだな。今回の学園長は…失礼かもしれないが、焦りが表に出ている。  いつもの学園長らしくもない。」 「ううむ、生徒の命が掛かっているからな…多少取り乱しているのかもしれん。」 「………生徒も、かしらね。」 「…む?」 「急ぎますよ、セレス先生。一刻の猶予もありません。」 「ちょ、ちょっと待ってください学園長。生徒の命がかかっているのは分かりますが、  少し落ち着いて下さい!」 「何を言うのですか。私はいたって冷静です。」 「……なら、外履き用の靴を履いてください。」 「…う。」 「…どうなさったんですか?こんな言い方は失礼ですが…何時もの学園長らしくないですよ?」 「………ごめんなさい。  此処に居る間は学園長でいるつもりでしたが…いざとなってみると、やぱり女になっている  みたいですね…。」 「…え?  ええっと、話が見えないんですけど…。」 「…端的に言います。  あのダンジョンの中には、学生の他に、もう一人閉じ込められています。  …相羽、カイト君です。」 「………。」 「……セレス先生?」 「………。」 「セレス先生、聞いていますか?」 「………か、カイト君っ!?」 とたたたたたっ。 「ちょ、ちょっとセレス先生!落ち着きなさいっ。」 「お、落ち着いていられる訳無いじゃないですかっ。  火の海のダンジョンの中に、カイト君が居るんですよっ!?  確か、後1時間持たないって学園長も言ってたじゃ無いですかっ!!」 「そんな事は分かってます!だから私も慌てていたんじゃ無いですか!  ですが、慌てても駄目だと、教えてくれた貴女が今度は慌ててどうするのですか!?」 「……あ、う…。」 「…まあ、私も…セレス先生も、気持ちは一緒でしょうから…仕方の無い事だとは思いますが。  私が貴女と一緒にダンジョンに行こうとした意味…分かって貰えましたか?」 「………二人別々だと、無茶をしてしまうから、それをお互いに止めれるようにですね?」 「そう言う事です。  …後は、セレス先生のダンジョン知識が必要なのも本当ですが。」 「……問題は、どうやって下まで降りるかですか…。」 「………突っ切ります。」 「…は?」 「メイルシュトロームを連打、爆風で炎を退けながら最下層まで走り抜けます。  セレス先生は、最短ルートとトラップ等の指示をお願いします。」 「最下層って…魔力は大丈夫ですか、学園長?」 「大丈夫も何も……持たせるんです。何があろうとも。  それぐらいできなくて、どうしますか。  …それに、大事な人が危ない時に、何も出来ないなんて事は、嫌ですから。」 「………はぁ。  …なんか、学園長が急に恋する乙女に見えてきちゃいました。」 「あら、私は今でも乙女のつもりですよ?」 「…本当の年齢はXXX歳の癖に…。」 「……セレス先生。生徒とカイト君を無事救出したら…後でじっくりとお話を伺いますよ?」 「いいですよ。カイト君も一緒に、じっくりお話しましょう?  ……でも、先ずは。」 「…ええ。  どんな事をしても…生徒と、カイト君を、救い出しますよ。」 「はいっ!」