・番外編:過去のカイト君、卒業後の一風景。 「…あー、喰った喰った。もー喰えない。」 「相変わらず馬鹿みたいに食べるわね、アンタってば…。」 「……ふっ、背が伸びないからって僻みか?」 「五月蝿いって言うか燃えちゃえっ!」 ごうっ。 「…な、何でアンタ無事なのよっ!?」 「はっはっは、燃やされるのが分かってるから魔法抵抗を鍛えたに決まってるだろうが。  もはやコレット程度の魔力ではこの俺の熱い血潮は燃やす事は出来ないのだっ!!」 「…なら、とりあえず倒れてなよ。」 ごしゃっ。 どしゃっ。 「…えっと、沙耶ちゃん。これはちょっと…やりすぎじゃない?」 「そうかい?このごろは峰打ちだと全然効かないからね。  このぐらいしないと…この馬鹿には。」 「…うーん、一応回復しとこうかな。」 「ほっとけば、ミュウ?  どーせ、3分経ったら復活するに決まってるんだから。」 とたとたとた。 「お待たせしましたー。  いにしえの洞窟の情報、仕入れてきましたよ。」 「お、サンキュ、セレス。  …しかし、アタシ達じゃ駄目なのに、セレスやミュウだとみんなペラペラ喋るんだよな。」 「……あはははは、まぁ、ほら…適材適所、って事じゃないかな?」 「…そうなんですか?私、ちょっとロニィ先生から教わった方法を使っただけなんですけど…。」 「……えっと、どんな方法使ったのよセレス?」 「簡単ですよ?ちょっと短剣を喉元に突きつけるだけで。」 「………確かに簡単だな。これ以上無いぐらいの手段だ。」 「…セレス、今度から私が聞きに行くから。ね?」 「…は、はぁ…。」 「…をいコラ。みんなして俺の事は無視かよ。」 「あ、起きたんだばカイト。おはよ。」 「段々と復帰が早くなるな、相羽。」 「…カイトさん、地面で寝るのはあまり健康には良くないと思いますよ?」 「……あ、起きたんだ、カイト君。」 「…また好き勝手言ってくれるな…。  で、洞窟の情報は分かったのか?」 「ええっとですね、どうやらあの山の中腹に入り口があるそうなんですが…。  話を聞く限りだと、どう考えてもあの山に入るような小さな洞窟には  思えないんですよー…。」 「ふぅん…デマか、もしくは余程高度な魔法が展開されているか、かな。」 「ま、行けば分かるでしょ?野宿も嫌だし、とっとと行きましょ。」 「…え、何も準備してないよ?やっぱり、一晩待った方が良くないかな…。」 「……セレスはどう思う?」 「…今までと違って話にリアリティがありましたから、只の洞窟って事は  無いと思います。いにしえの洞窟かどうかは別として。」 「ふぅん…セレスがそこまで言うなら、本格的に腰を据えて攻略する必要が  ありそうだなぁ…。  よし、どっか宿取って明日出発しよう。…それでいいか、コレット?」 「…アンタの意見に従うのは癪だけど…セレスがそう言うなら、仕方無いわね。  ………さーて、そうと決まれば、宿探すわよー!」 「…お酒は駄目だよ、コレット。」 「………えー。ちょっとだけ、ちょっとだけだからぁ…。」 ごいんっ。 「いったーっ!?」 「ちょっともたくさんも駄目だっての。  お前、ただでさえ悪酔いするんだからな。  …卒業式後の懇談会での騒ぎ、忘れたとは言わさないぞ。」 「……あー、アレは凄かったね。  笑いながら炎の輪作って投げまくってるんだもんな…。」 「そう言う沙耶だって、カイト君と酔っ払って真剣試合してたじゃない。  私、コレットの炎の輪を受け止めて、カイト君の治療して、すっごく  大変だったんだから…。」 「…いやー、ほら、…強い相手が居たら挑む。剣士の悪い癖かな。」 「あの日ばかりは本気で死ぬかと思ったがな。  炎飛んでくるわ、剣が刺さるわ、セレスに襲われそうになるわ…。」 「わ、忘れたって言ったじゃないですかカイトさんっ!?」 「…いやー、大人しいセレスがあんな大胆に迫ってくるなんて。  今思い出しても凄いなぁ…眼福眼福。」 じゃきんっ。 「…えーと、その短剣は何かなー、セレス?」 「わ、忘れてくださいっ。」 ひゅんっ。 ひゅんっ。 「うわぁっ!?死ぬ、刺さったら忘れる前に死ぬぞっ!?」 「ていっ。はっ、とりゃあっ。」 「…おー、セレスの奴、ありゃあ本気で殺す気だな。」 「……それで避けてるアイツって…どんどん化け物じみてない?」 「…二人とも、カイト君に本当に容赦無いよね…。」 「ん?まぁ、もし相羽が本気出したら間違いなくアタシは負けるだろうしな。」 「…悔しいけど、右に同じ。ああ見えて、ちゃんと手加減してるしね。  ばカイトの癖に。」 「………そうなの?知らなかった…。」 「最近流行ってる剣や魔法の大会なんかに出たら、多分いい線行くと思うよ。  …ただ、本人は『馬鹿騒ぎ』が大好きな…大馬鹿だからね。」 「多分、今アイツに勝てるのって…ミュウぐらいじゃないの?  …勿論、『本気の』ミュウで。」 「………私は、あの力はできれば使わないつもりだから。」 「勿体無い。もう大丈夫なんでしょ、ミュウ?」 「コレット、ミュウも相羽も大変な目にあったんだ。アタシらが言う事じゃ無いよ。」 「あ…ごめん、ミュウ…。」 「ううん、気にしないで。  この力を無闇矢鱈に使うのは良くないけど…この力で、出来る事もあるって知ってるし。」 「…例えば、ベネット先生から逃げるとかか?ミュウ。」 「あー…無事かな、ベネット先生?  『魔王』の放つ『神の左手』なんて喰らったの、ベネット先生ぐらいだと思うけど。」 「……もう!その事は言わないって約束したじゃない、コレット!  それに、あれは最後の最後、緊急手段で…。」 「ほほう。ミューゼルさんの緊急手段と言うのは、恩師である先生に対し、本気で『神の左手』を  放つ事を言うのですね?」 「それは悪いと思ってますけど………って、え?」 「………悪いと思ってます、で許すと思ってますか?ミューゼルさん?」 「全く…ミューゼルさんまで相羽君と同じ行動を取ってどうするのですか!?」 「すみません…でも、突然の事だったので、動揺しちゃって…。」 「そーだそーだ、ミュウは悪くないぞー。」 「……そう言えば、咄嗟に『思い切り吹き飛ばせ』と言っていたのは、確か…。」 「駄目だぞコレット、そんな事言っちゃ。」 「思いっきりアンタでしょうがっ。」 ごすっ。 「おぷすっ!?  ……こ、このちんちくりんめ…脛蹴りやがったなっ!?」 「魔法が効かないなら直接身体に教え込むまでよっ!」 「いい度胸だ、表出ろこのちびっ子!」 「いい度胸じゃない、どっちが偉いかきっちりと教えてあげるわよばカイトっ!」 「………そうですね。いい機会ですから、きっちりと教えてあげましょうか、二人とも?」 「「………遠慮します。」」 「…あー、所で先生。何でわざわざアタシ達を追ってきてるんだ?」 「そう言われると…そうですねー。」 ぷつん。 「そうですね、じゃありませんっ!  相羽君だけ卒業単位が足りてないのを、知らないとは言わせませんよっ!!」 「…足りて無いのか、相羽?」 「………いや、俺も初めて知った。」 「…そう言えば、カイト君だけ卒業式の時に名前呼ばれて無かったよ?」 「そうなのか?俺、ぐっすり熟睡してたからな…。」 「…アンタだけ明らかに浮いてたわよ。恥ずかしいったらありゃしない…。」 「……一緒に寝てたでしょ、コレット。」 「そうですねー。一生懸命濡れたハンカチを顔の上にのせてみましたけど、  全然起きられませんでしたから。」 「それ、普通に死にかねないわよセレスっ!?」 「はい?ロニィ先生が教えてくれたのですが…。」 「……なんでそんな先生に教えさせてるんだろ…。」 「…それは私も思います。  ………って、そんな事は今はどうでもいいんです!  さぁ、学校に戻ってもらいますよ、相羽君?」 「げっ…マジっすか?」 「こんな冗談言っても仕方無いでしょう。  単位が足りるまでは、マンツーマンできっちりと授業を受けてもらいますよ?」 「…えーと、誰が授業をするんでしょうか?」 「無論、私です。  …と言うか、足りないのは私の単位ですよ、相羽君?  それはもう、ぐっすり寝てくれたり授業に出なかったり…。」 「………ふーむ………。」 (ベネット先生と二人っきりでマンツーマンの授業。  いつの間にか親密になっていく二人。  そして、誰も居ない放課後の職員室で…。) 『…だ、駄目です、相羽君。』 『カイトですよ、ベネット先生。  …ベネット先生だって、本当は望んでいるんでしょう?』 『そ、そんな事はありませんっ。  第一、私と貴方は先生と生徒であり…。』 きゅっ。 『あっ…。』 『…ベネット。好きだ。』 『…あ、相羽…くんっ…。』 「…うーむ、素晴らしい、素晴らしい展開だっ!?」 「「「「…………。」」」」 ごばぁっ!!←焔 どしゃっ!!←大剣 ずしゃっ!!←短剣 ずがんっっっ!!←神の左手 「…ふぅ、害虫駆除完了!」 「ったく…アタシらがいながら、こいつは…。」 「…酷いです、カイトさんっ。」 「……もう、駄目だよカイト君、ベネット先生に失礼な事言っちゃ。」 「あ、相羽君っ!?」 「あ、大丈夫ですよベネット先生。この程度じゃ、コイツ死にませんから。」 「ま、ちょっと本気出したから、…30分って所か?」 「じゃあ私、お茶入れますね。」 「私も手伝うよセレス。」 「あ、お願いしますー。」 「………私、生徒達の教育間違ったかしら…。」