「ユウキ……何かわたしに隠し事をしていませんか?」 「…はい?」 宿の一室。 俺はルーシーからのいきなりの質問に、内心冷や汗を掻いていた。 「いきなり何を……?」 「…ダンジョンの途中から、ユウキの動きが若干ぎこちなかったです。」 ぎくり。 「……今、身体が震えましたね?」 「そ、そんな事は無いぞっ。」 「……言葉もどもっていますが?」 「…気のせいだ。俺は至って普通だぞ。」 ルーシーからさり気なく目を逸らす。 目があったら負けだ。絶対に勝てない。 「ふむ……気のせいですか。ならばいいでしょう。」 少し小首を傾げた後、ルーシーはくるり、と後ろを向いた。 ……助かった。 「ところでユウキ。」 「ん、なんだ?」 「さっきの宝箱に入っていたえっちな本は、ちゃんと私が回収して置きました。」 「何っ!?」 俺は慌てて自分のバッグを見る。 其処には、ちゃんとえっちな本が入っていた。 「ルーシー、吃驚するような嘘……を……。」 「……ほほう?」 きゅぴーん。 妖しく光るルーシーの瞳。通称ルーシーアイ。 「やはり持ってましたか。……嘘はいけませんね、ユウキ。」 「うぐっ…。」 「生死を賭けた場所であるダンジョンで、えっちな本を見つけて興奮するとは……。  中々に度胸が座ってますね。」 「あぅ……。」 「……宝箱を開けた後、ずっと前屈みになってたのはそう言う事ですか?」 「ぐ、あ…。」 容赦無い言葉の刃が、俺の心に突き刺さる。 「……何か反論する事はありますか?ユウキ。」 「……何も御座いません、ルーシー様。」 がっくりと膝を付き、頭を地面に付ける。 所謂ひとつの、土下座である。 「…見せてください。」 「……は?」 顔を上げると、其処には拗ねたルーシーの顔が。 「拾ったえっちな本を見せて下さいと言っているのです。」 「え、なんで……?」 「……ユウキ。今のユウキに拒否権があると思っているのですか?」 「……無いっす。」 俺は鞄から件のえっちな本を取り出し、ルーシーに手渡す。 「……。」 ぺらり。 「…むぅ。」 ぺらぺら。 「……成程。」 ぺらぺらぺらり。 ぱたん。 ルーシーは数分掛け、えっちな本を真剣に眺め終わった後。 「ツルペタパイパンロリメイドをダンジョンの影に連れ込んでご奉仕させる……。  ……ユウキのマニアック度も、更に上昇中ですか。」 「ぐああああ……。」 致死量の言葉の猛毒が、俺に襲い掛かる。 「もう、いっそ楽にしてくれ……。」 「何を言っているのですか。  こんな本を拾って動きが悪くなるようなユウキには、きっちりと特訓が必要です。」 じろり。 ルーシーの鋭い視線。 「と言う訳で、今から早速特訓です。」 「……は?」 「……何か文句がありますか、ユウキ?」 「……ありません、ルーシー様。」 ある訳が無い。 例えあったとしても、言える訳が無い。 「で……俺は今から、何をやらされるのでしょうか。」 「こんな本を読んでも興奮するのは、実際に体験したいと思うからです。」 がさごそ。 言葉を紡ぎながら、自分の鞄を漁るルーシー。 「ですから、先にそのシチュエーションを体験してしまえば、興奮する事も無いのです。」 「……つまり?」 「……こう言う事です。」 そう言ってルーシーが取り出したのは、冒険者用の圧縮ボール。 荷物を常に持ち歩く冒険者が、日常の衣服を詰め込んで置くのに使う奴だ。 「解除。」 ぽちっ。 ボールを解除し、中から出てきたのは……。 「……は!?」 どう見てもメイド服です、本当に有難う御座いました。 ……いやいや、そんな決まり文句言ってる場合じゃ無くて。 「ええっと……ルーシーさん?」 俺の言葉を無視し、早速そのメイド服を着込むルーシー。 「流石にガーターベルトとかは無理ですが、まぁ見た目だけでも。」 「……。」 メイドルーシー、誕生。 ……うむ。何時もルーシーは可愛いけど、コレは更に可愛いな。 「さあユウキ、早速始めましょうか。」 とてとて。 そう言いながら、ルーシーは俺の傍まで来て。 「胸もありませんし、生えてもいません。更にちっちゃいです。メイドですから完璧です。」 「……ま、まさか?」 「……。」 うっすらと頬を染めるルーシー。 「……ユウキは私だけのユウキです。  例ええっちな本の中のキャラであろうと、絶対に負けられません。」 「……っ。」 ……ああもう。 どうしてこう……ルーシーは俺の心を容易くぶち壊してしまうのだろうか。 「…ごめんな、ルーシー。」 「……謝らなくていいです。  だから……ちゃんと特訓して下さい。」 「…うん。  今からすぐにする。たっぷりする。……えっちな本にたぶらかされないように、いっぱいする。」 ゆっくりとルーシーを抱き寄せ、そのまま抱きかかえる。 俗に言うお姫様抱っこ。 「あの、ユウキ?」 「ん、なんだ?」 「コレはコレで凄く嬉しいのですが……本の中では、ご奉仕させてたのでは?」 「……其処まで再現した方がいい?  俺は正直、メイド服のルーシーってだけで既にお腹一杯なんだけど……。」 「あぅ……。」 顔を真っ赤に染めたルーシーは、俺の腕の中で暫く考えた後。 「……ラブラブもご奉仕も、両方特訓したら駄目ですか?」 「……る、ルーシーっ!!」 「ひゃんっ……♪」 結局。 ラブラブ甘々やご奉仕プレイだけでは飽き足らず、えっちな本に載ってたシチュエーションを 全部試したとか、試さなかったとか。