竜鳴館生徒会室。別名竜宮。 今日もいつものように、生徒会メンバーによる会議が行われていた。 「…今日はこんなものかな。」 「そうだね、エリー。」 会議の終了を宣言するは、生徒会長の「姫」こと、霧夜エリカ。 そしてその傍に立つのは、佐藤良美。 「…うー、疲れたー。」 「………何にもしてないだろカニ。」 「うっせーなー、聞いてるだけでだるくなるんだよココナッツ。」 「…ふっ。」 「んだよその腹立つ笑い方はこんちくしょー!」 毎度お馴染みの喧嘩をしてるのは蟹沢きぬと椰子なごみ。 「…やれやれ、やっと終わりましたわ。」 「終わったも何も、ずっと寝ていたではありませんか先生。」 やる気無さそうにぼーっとしているナイスバディの先生が大江山祈。 そしてそれを説教しているのが鉄乙女。通称「鉄の風紀委員」。 そんでもって、何故か生徒会室の隅っこで猿轡と縄で縛られ、 身動きできない状態にされているのが、この俺、対馬レオである。 ちなみに素敵な悪友2名は、動けない俺を見た途端一人は逃げ出し、もう一人は 『年貢の納め時だな。ま、頑張れ』とのありがたい言葉と共に立ち去った。 いい友人を持ったものだ。 「…それじゃあ、そろそろ本日の『本題』に入ろうかしら?」 その姫の言葉と共に、全員の視線が俺に集まる。 そして、それぞれの視線が色々語っているから恐ろしい。 『男の甲斐性って奴?いい度胸ねー』 『姉として、それ以前に風紀委員としてきっちりと粛清する必要があるな』 『ま、多少の事なら大目に見ますわ。それ以上は島流しですわ』 『きっちり話してもらうぞこのヘタレ野郎。…ま、結局は許しちゃうボクが居るんだろうけど』 『…センパイ、捨てないで下さい…』 『……うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ』 …誰が誰かなんて、もはやどうでもいい事。 どっちにしろ、五体満足に此処を出る事は出来ないんだろうなぁ…。 「…で?まずは被告人の意見を聞いてあげましょうか?勿論聞くだけだけど。」 「………。」 いや、まずは猿轡外してください。でないと喋れない。 「エリー、猿轡されてちゃ喋れないよう…。」 「んー、幾ら対馬クンでも、やっぱ無理か。」 んじゃお願いよっぴー、と言う流れになり、佐藤さんが猿轡を外してくれるらしい。 …でも、何で前から外すの? 「…ねぇレオ君、バールのような物って凄く痛そうだと思わない?」 必死に頷く俺。ってゆーか痛いでしょ!? 「だよねぇ。痛いよねぇ…きっと、凄く血が流れるんだろうなぁ…。」 さらに必死に頷く俺。いや、そんな経験味わいたく無いですよ? 「…はい、外れたよ、レオ君。」 「あ、ありがとう、佐藤さん。」 「…良美、だよね?レオ君。」 「い、いえっさー。…良美。」 「ん、いい返事だねレオ君。…ああ、もうこのまま此処でレオ君と…。」 ごすっ。 「って、いきなり暴走しないのよっぴー。ソレは後からじっくりとしなさい。」 「…うー、エリーが暴力振るった…。」 涙目になりながら指定席へ戻っていく佐藤さん。 ……あの、さり気なくポケットに入れた猿轡が気になるんですけど。 しかも鍵を何で佐藤さんが持ってるの? 「…さて、これで喋れるわよね対馬クン。」 「あ、ああ。」 「…それじゃあ、何でこんな事になったのか――語ってもらいましょうか?」 「な、何でと言われると…。」 お堅いお姉ちゃんだと思っていた乙女さんの弱い部分を助けてあげてる内にときめいてしまったりとか、 悪友兼幼馴染のきぬの女としての一面とか、後は器の大きさに心を捕まれてしまったりとか、 自分を強く持ってて、そして夢に向かって前進する姫の力強さに惚れてしまったりとか、 一匹狼だけど、何処となく優しいなごみを知って、深入りしたら離れなれなくなったりとか、 近づいたり離れたりの祈先生を捕まえたくなって、そうしたらいい関係になってたりとか、 最初はビックリしたけど、ダークなよっぴーを見て、俺の手で幸せにしてやろうとか、 そんな事を考えていただけなのだが…。 「「「「「「………。」」」」」」 はーっ。 何故か女性陣から一斉に溜め息が出る。 「…何と言うか…愚かだが、純粋で嘘一つ無いのはある意味賞賛に値するな。」 「ってゆーか、単にエロス満載ヘタレ人間ってだけだろ?…まぁ優しいのはいい事だけどさー。」 「……まさに女泣かせ、ですわね。」 「センパイ…素敵です。」 「いや、なごみんも大分対馬クンに毒されてるわね…思いっきり浮気じゃないの。」 「………うふふ、レオ君ってば、浮気しちゃったんだぁ…。」 うわ、いつの間にか考えてる事喋ってた。 ………ってか、怖い、めっちゃ怖いよ良美!? 「…さて、被告人の自己弁護が終わった所で、処罰を決めなくてはなりませんわ。」 「そうですね祈先生。…全く、男として恥さらしも良い所だな、レオ。」 「…じゃあ、対馬クンの事は嫌いになったんですよね、鉄先輩?」 「なっ!?」 良美の発言に、動揺する乙女さん。 「い、いや、それとこれとは話が別と言うか…。」 「でも、恥さらしなら、鉄先輩には釣り合わないんじゃ…ねぇ?」 追い討ちをかける姫。そして良美とアイコンタクト。 『…最後の二人になるまでは共同戦線と行きましょう、よっぴー?』 『うん。…でも、最後の二人になったら…容赦しないよ?』 『『…うふふふふふふ。』』 …なんか、とっても肌寒くなってきた。俺だけだろうか。 「…おいおい、好き勝手言ってくれるじゃねーかテメェラ。」 がたん、と机を叩きながら立ち上がるはきぬ。 「そりゃあ、他の女に次々声かけて粉かけて、確かに典型的駄目人間だけどさ。  それでも、ボクはレオがいいんだよ!文句言う奴は引っ込んでな!!」 「…きぬ…。」 あ、ちょっとジーンと来た。 この娘ってば、そんな心にぐっと来る台詞を言ってくれちゃって…。 「…ふん、カニの癖に、たまにはいい事言うじゃないか。」 「…ココナッツ?」 「別にカニに同調する訳じゃ無いけど…私も、センパイを諦めるつもりは無い。  今回の件で愛想が尽きた奴が居るなら、居なくなればいい。」 ぶっきらぼうに言い放つなごみ。 …でも、そんな潤んだ瞳でこっち見つめながら言っても、余り説得力無いんじゃないか? いや、可愛いんだけどさ…。 「…つまり、ここにいる皆さん全員が、対馬さんを諦めるつもりは無い、と言う事ですわねー。」 ソースせんべいを齧りながらのほほんと呟く祈先生。 さり気なく『自分も諦めるつもりは無い』のが祈先生らしい。策士め。 「…くっ…この現状を知れば、誰か一人ぐらいは居なくなると思ったのに…。」 「……姫が残っている時点で、大抵の人間は残ると思うぞ。  と言うかだ…姫が真っ先に嫌いになると思ったのだがな。」 乙女さんの台詞に、姫は頬を掻きながら。 「んー、実は私もそうだと思ったんだけどね。…いざ、となってみたら、手放すのが  惜しくなっちゃって。」 「…いや、俺っておもちゃ扱い?」 「……此処に居る6人全員に手を出した対馬クン、何か言う権利があると思うのかなー?」 「………いえ、何もありません、サー。」 思わず敬称をつけてしまう俺。 ってゆーか、誰を相手にしても勝てん気がしてきた…。 「…ま、それだけ私が骨抜きにされたって言えば…それまでなのよね、困った事に。」 「そう言いながら、顔が嬉しそうなのはどう言う事ですか、お姫様?」 「んー?なに、にゃごみんはまたヤキモチかなー?」 「なっ…べ、別にそんな事は…。」 「にゃごみんってば、だーい好きなセンパイにべったりしたいお年頃だもんねー。」 「エリー、駄目だよそんなホントの事言っちゃ。怒られちゃうよ?」 「くっ…。」 あー、また姫&良美のなごみイジメが始まった…。 と言うか、これも見慣れた光景になったなぁ…。 ごそごそ。ぷつん。 「…えっ?」 「しーっ。静かにしてください、対馬さん。」 いつの間にか、祈先生が俺の拘束を解いていた。 きぬ&乙女さんはなごみイジメの方を見ていて気づいていない。 「さ、今のうちに隠し扉から脱出ですわ。」 「か、隠し扉って…?」 「生徒会室の緊急脱出用の隠し扉です。霧夜さんも知らない脱出用ですの。」 「…いや、それって全然意味無いっすよ?」 そう言いつつも、今の状況から逃げ出そうと、祈先生について行く俺。 悲しいかな、これが現実なのよね。 どすっ。 「…ひぃっ!?」 「……何処へ行く、レオ?」 目の前には壁に突き刺さった地獄蝶々。 そして、地獄蝶々が飛んできた方向を見てみると。 「…いい度胸ね…対馬クン?」 「…レオ君…お利口にしてないと、…達磨だよ?」 「おいココナッツ、とりあえずあのヘタレを簀巻きだ。」 「私に命令するなカニ。…でもとりあえず、逃げられないようにはしておこうか。」 「……右足か。それとも左足か。選ばせてやろう、レオ。  ………ただし、両足とも蹴るがな。」 …うわぁ、とりあえず良美と乙女さんの台詞には突っ込みたいなぁ…。 そんな暇あるかなぁ…。 「…全く、油断も隙もありませんね、祈先生。」 「あらあら、霧夜さんとは思えない台詞ですわねー。」 「こう言う事はきっちりと話し合うべきでしょう、祈先生?」 「めんどくさいですわー。」 姫と乙女さんの追及をすいすいとかわしていく祈先生。 そして。 「…ほら、ちょっと沁みるから我慢しろレオ。」 「……ぐぅっ。」 「せ、センパイ?」 「いや、大丈夫だ…なごみ。」 「そうだよね、コレぐらい大丈夫だよねぇ…レオ君?」 ぎゅっ。 「い、いたたたたたっ!?痛い、痛いって良美っ!?」 「痛いって事は、生きてるって証拠だよ?良かったね、レオ君。」 姫&乙女さんの制裁(主に蹴り)で受けた傷を治療してくれるきぬ&良美(良美は若干の制裁含む)。 そしてオロオロするなごみ。 でもきっちり、俺はまた簀巻きにされてるんですけど…。 「…なぁなごみ、とりあえず簀巻きは…。」 「だ、駄目ですっ。センパイはすぐ逃げるんですから。  …お、お仕置きなら、後で幾らでも受けますから…。」 「……いや、その、何だ…。」 『お仕置き』って部分に妙に力入ってない?なごみ。 そして何でそんなに嬉しそうなの? 「やっぱりいつも通りのヘタレだなレオ。ったく、情けねーぜ。」 「くっ…言い返せない自分が悲しい。」 「そんなヘタレは、やっぱりボクがきっちりと面倒見てやんねーとな。」 そう言いつつ、頬の傷にリバテープを張ってくれるきぬ。 そしてしっかりと頬に擦り寄ってくる辺りが可愛らしい。 「…ちっ。」 「んだよココナッツー。本当はレオとバカップルしたいけど、プライドが邪魔して  できねーんだろ。へへーんだ。うりうりー。」 「くっ…。」 ここぞとばかりに擦り寄ってくるきぬ。 いや、嫌いじゃ無いんだけどさ…。 ごごごごごごごごごごご。 「…はっ、この邪気はっ!?」 きぬとなごみ(別名チーム子供)が振り向く。 そこには。 「…だーれーがー邪気ですってぇ…?」 「もう、レオ君ったらまたいちゃついて…ふふっ。」 「ふむ…今度は斬るか?」 「あらあら、ここは楽しく島送りですわー。」 チーム大人の皆様方が待っていた訳で。 ってゆーか、今回は俺、何かしましたか…? 「んだよー、てめえらがレオを寄ってたかってたこ殴りしたんだろーが。  その治療して何が悪いんだよ。」 「…う、その、何だ…それについてはすまないと思っている。  つい…やりすぎた。反省してる。」 ぺこり、と頭を下げる乙女さん。 乙女さんらしい、潔い謝り方だ。 「ついやりすぎたと思ってる。だが反省はしていない。」 「…エリー…。」 こっちはこっちでいつも通りの姫。 さっきまでダークモードだった良美も、糸目状態になっている。 「…ま、いつも通りですわねー。」 「わねー、じゃ無いですよ祈先生。  …結局、俺ってどうなるんですか?」 「どうなるって…それは…。」 祈先生が、まずなごみを見る。 「……あたしは…別に…。」 そしてなごみは、近くに居たきぬを見る。 「んだよ…ボクがレオを嫌いになる訳ねーだろ?」 きぬの目線は、乙女さんに。 「…まぁ、何だ…再度教育すると言う事で…。」 乙女さんは、姫を見る。 「………どーする、よっぴー?」 困った顔をしながら、良美にパス。 「ううっ、この状況じゃあ無茶言える訳無いよぉ…。」 表情は浮かないものの、台詞はいつもの良美だ。 どーやら黒い方向のお仕置きは無いっぽい。 「…と言う訳で、つまりは私が対馬さん独占の方向で。」 「「「「「んな訳あるかっ!!」」」」」